「ハンバーガー少女」

【序】
「どうして」そうなのかは分からない。
いや、そもそも「存在」に疑問を唱えること自体がナンセンスなのだ。
ただ自然に。
草花が、色鮮やかに花開くように。
小鳥が、囀(さえず)りながら空を翔けるように。
母親が子に無償の愛を注ぐように。
分かるのは…。
「私が『ハンバーガー少女』である」ということだけだ。

【「ハンバーガー少女」についての、いくつかの考察】
最初に。
「ハンバーガー少女」という存在について説明せねばならない。
だが、「ハンバーガーを生み出すべく生まれた少女」としか説明のしようが無い。
遺伝子操作とか「家畜人」とか、そういう話ではない。
ハンバーガーは「少女が生み出すモノ」なのだから。
試しに、ブロイラーに「なぜ玉子を産むのか?」と尋ねてみるといい。
※無精卵には生殖能力はありませんので、彼らの行為は「それ」と酷似している
もし鶏語が理解できるなら、「コチラが聞きたい」という回答が得られることだろう。
そう。
「ハンバーガー少女」というのは、そういう存在なのだ。

「ハンバーガー少女」は、通常の人より大量に食料を摂取する必要がある。
「質量保存の法則」を持ち出すまでも無く、至極明快な論理だ。
彼女たちは、企業から必要にして十分な食料が与えられる。
そのことからも、彼女たちの食事量は推して量るべし、である。
関連性についての根拠は希薄だが、こんな統計的な事例がある。
「チーズバーガー少女」は乳製品を。
「フィッシュバーガー少女」は魚を、といったように。
それぞれ商品を構成する食材を大量に摂取する傾向がある、という研究結果がある。

商品の人気・不人気により当然、不必要とされる「ハンバーガー少女」も存在する。
その、不人気「ハンバーガー少女」に対する国の対応は、まだ十分とは言い切れない。
「『ハンバーガー少女』食費補助金制度」の法制化は、いまだ暗礁に乗り上げている。
昨年の5月。
京都市で実験的に条例が施行されて、この動きは全国に広がりを見せつつはある。
しかし、条例として施行されている自治体は、片手に余る数の都市であるのが現状である。
結果。
彼女たちは家族からも見捨てられ、「野良ハンバーガー少女」となるケースも多い。

【「野良ハンバーガー少女」の憂鬱】
少女の身体は、猛烈な空腹を訴えていた。
昨日から歩き詰めな上に、まともな食料も摂れていない。
-どうして、私はエビチリバーガー少女なんだろう?
-どうして、うちは大金持ちじゃなかったんだろう?
-どうして、こんなことになっちゃったんだろうなぁ?
何度となく繰り返した自問自答。
勿論、答えなどはない。

実家のH市から西に向かって歩いて、何週間が経過しただろう?
朦朧とした意識。
前に倒れない為に、交互に足を出し続ける。
ふと。
潮風が鼻をくすぐり、彼女は顔を上げる。
どんよりとした曇り空と鉛色の海。
黒ずんだ漁船と、釣り人の一人もいない防波堤。
そこは、寂れた漁港のようだった。

-また、「アレ」をするしかないのかなぁ?ヤだなぁ…
実家から追い出されて早々、彼女は「身を売る」ことを覚えた。
そりゃあ、最初は抵抗があったけど。
純潔と引き換えに餓死を選べるほど、彼女は聖人君子ではなかった。
いたって健全なロジックであり、我々の誰もが彼女を責めることはできないだろう。

人気のない港。
モノクロームの風景は時を止めたようで。
少女の赤いスカートだけが、その世界で唯一の動く存在であるが如くはためく。
それは「薄闇に灯された蝋燭」のようで。
儚く。
そして頼りなげで。

-それにしても…。誰もいないのかしら?
ほとほとと海沿いに歩く彼女は、大きな建物に辿り着く。
「○×漁協 冷凍倉庫」という色あせた文字。
-ココなら誰かいるかも知れない…
ドアを探すも、倉庫の入口らしき大きな金属製の扉しか見つからない。
高さ3mほどもあり-建物全体の古びた印象に反して-その扉だけは銀ぴかで新しさすら感じさせた。
少女の空腹感は、限界まできていた。
やむなく。
その扉に手をかける。

鍵は掛かっておらず、扉が「ぎぎ…」と音を立てて開いた。

冬とはいえ、自然のものとは明らかに異質な冷気。
開いたドアから漏れ出る水蒸気の煙。
-「冷凍倉庫」って書いてあったっけ…
冷気に耐え切れず、ドアを戻そうとした彼女に「ある文字」が目に入った。
「ボタンエビ」。

冷凍倉庫内にあるボタンエビなど、普通の人間は食べようとは思わない。
しかし、彼女の身体は「それ」を猛烈に欲していた。
-少しだけなら…いいよね?
凍える身をすくめながら、彼女は倉庫の中へと足を踏み入れる。
呼気は真っ白に染まる。
指先の感覚は、もうほとんどない。
それでも、彼女は足を進めた。

今。
彼女を支配するのは、食欲のみ。
20kgはあろうかという、その青いプラスチック製の容器を、素手で掴み外へと引き出す。
手を離す際に、冷気と湿気で貼りついた指先の皮が「べりり」とイヤな音を立てて剥がれる。
血まみれの指で汚れることも厭わず、彼女はボタンエビを貪った。
凍った生のボタンエビなど、食べられたものではない。
それでも彼女は、手を止めることは出来なかった。
彼女の頬を涙が伝う。
-こんな思いをしても、私は生きなければならないの!?

「おいっ!何してるっ!?」
彼女が我に返ると、漁師と思しき男性がコチラを見ていた。
赤銅色の肌。
頑強そうな肉体。
目深に被った帽子の下で、やけに大きな目が「ぎょろり」と動いた。
「あの…本当にごめんなさいっ!で…でも私っ!」
「取り敢えず、こんなとこで話してたら風邪を引いちまう。こっちに来な」
首だけで彼女を促すと、彼は彼女がついてくるかも確認せず倉庫から奥へと向かった。

…。
「なるほど。アンタは『エビチリバーガー少女』という訳か…」
ひとしきり説明を聞くと、漁師は両腕を組んで「ふむぅ」と唸った。
にわかには信じられない、という表情が彼女の心に突き刺さる。
「はい…。本当に申し訳ないと思っています」
椅子に座った膝を痛々しい両手で「ぎゅっ」と握り締め、うなだれる少女。

「ちょっと待ってな」
少女を置き去りにして、漁師は休憩室から出て行った。
少女は、所在なげに身じろいだ後、落ち着いて部屋を見回した。
六畳ほどの広さ。
ストーブは旧式の灯油ストーブ。
その上で湯気を上げるアルマイト製のヤカン。
自分が座っている三人掛けの古いソファの端には毛布が置いてある。
-「休憩室」というよりも「詰め所」って感じかしら?
などと想像している内に、漁師が戻ってきた。

ボイルされたボタンエビが乗った、大きな皿を手にした漁師。
少女の目は、その手元に釘付けになった。
思い出したかのように、身体は空腹を訴えてくる。
「あ…あの」
少女の逡巡を理解したのか、漁師は笑みを浮かべる。
「食べてもいいぜ」
漁師は笑顔を絶やさず、それとなく少女の身体を睥睨する。
「あ、ありがとうございます!」
その視線に気付かず、少女は謝辞を述べる。
「ただし!」
ビクリ!と身を震わせる少女。
「食べた分は、身体で返してもらわないとな」
漁師は、それまでとは違う好色な笑みを口許に浮かべた。

「こくり」と少女は操り人形のように首肯して、上着のボタンを外し始めた。
漁師の乱暴な手が、少女の服を性急に剥ぎ取ろうとする。
「脱ぎますから!乱暴にしないでください!!」
少女の懇願も空しく、スカートを残して下着も含め漁師に脱がされる。
-あぁ。また、同じことの繰り返しなんだ
少女の嘆息は、誰にも届かない。

漁師は、エビが乗った皿を床に置いた。
「さぁ、食べるんだ。手を使わずにな」
恥辱に歪んだ顔を見られないよう目を伏せ、少女は床に這いつくばる。
後ろに回りこんだ漁師は、少女のスカートの上から尻を撫で回した。
少女は、土下座をするような恰好でエビを口にする。
-悔しいけど、美味しい……
一度口にすると、身体に染み入るような滋味が少女の羞恥心を麻痺させる。
漁師の手はスカートから下に這いこみ、少女の尻を直接触っている。

「いやッ!」
漁師の手が少女の敏感な部分に触れると、反射的に少女は身を強張らせた。
「なんだよ!こんくらいサービスしろってんだ!!」
漁師は、まだ湯気を上げるエビを右手で掴むと少女の口に押し込んでみせた。
「コレが食いたいんだろがっ!ホラ、もっと股を開いて見えるようにしろよ!!」
少女は、ぼろぼろと大粒の涙を流しながらも男の手から口に押し込まれるエビを嚥下していく。
少女の顔は、エビの食べかすと涙で汚れきっていた…。

という内容のAV「ハンバーガー少女」のパッケージを見て。
「AV業界ってのは、なんでもありなんだなぁ」なんて感心する。
…。
……そんな内容の夢を見た。
相変わらず、ディテールに凝った夢を、よく見る。
エビで穢されながら漁師に弄ばれる、ウェット&メッシーな写真で一寸だけ興奮した。

っつか、AVかよ!
しかも夢オチかよっ!!

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