五感について【嗅覚編】

人間の五感の中で一番、生死に関わりにくいのが「嗅覚」ではなかろうか?
元々、動物の中で人間は嗅覚が疎い方の動物だと思う。
いや。調べたわけではないので、まあまあ鼻がいい方な可能性もあるかな。
もちろん今現在の話であり、昔に人間を捕食対象にする動物がいた時代は話が別だ。
もっとも。
人間は小さいし雑食だから、好んで食べる動物がいたかどうかも不明だ。
まあ。私は鼻炎持ちなので鼻が悪いが、あまり困った試しがない。

一人暮らしをしていた時分に、大幅に賞味期限切れしたモノを食べる時には嗅ぐ習慣が付いた。
かなり「くんかくんか」するので、他人がいる時は恥ずかしくてできない。
それだって、賞味期限を気にして消費していれば問題は発生しにくい。
今は家人がいるので、臭いに敏感な人間が一緒にいれば安心して食べられる。おかげさまで、ウィルス性以外の食中毒には遭ったコトがない。
「異臭騒ぎ」が起きるレベルの臭いは、流石に鼻が悪くても気づける。
そして。私は醜形恐怖症に端を発する自己臭恐怖症でもあったが、他人を不愉快にさせる臭いは発していないようだ。

そもそも、嗅覚は麻痺しやすい。
アニメなどで、粗忽者のモチーフとして「キッチンが大変なコトになっててモザイクが入っている」表現などがされる。
腐臭などが酷くて多分、私でも眉をひそめるような臭いを発しているコトだろう。
だが。実際に住んでいる当人にとっては、それが「自分の家の臭い」になっているハズだ。

子供の頃に、友人の家に行った際に「あ、他の人の家の臭いだ」と思ったことはないだろうか?
TVの色味が家によって違うように、「家の臭い」は確実に存在する。
芳香剤があれば当たり前のコトだが、そういったレベルではない「違い」が存在する。
土地柄が違い藁ぶきの屋根の家にも泊ったコトがあるが、その場合は臭いが違って当然のようにも思う。
しかし。実際は同じマンションに住んでいても、「その家の臭い」がある。
子供のころから、非常に不思議だった。

嗅覚の麻痺といった意味では、自他の臭いの嗅ぎ分けも不思議である。
例えば靴下。
一日中、靴を履きっぱなしの状態だと蒸れて異臭を発する。
具体的に言えば、「納豆のような臭い」だ。
自分の靴下臭は、「他人を不快にさせないといいな?」くらいで許せる。
しかし。他人が靴を脱いで臭いを撒き散らしていると、耐え難い悪臭に感じてしまう。
コレは「気遣い」という話ではない。
実際に、他人の靴下は臭く感じるように思えてならない。

同じく、体臭。
私自身は、足や性器などは人並に臭いを発しているが、体臭がないらしい。
自慢ではなく、「女性が男性として魅力的に感じる」体臭も皆無らしい。
そう指摘されて、思い当たる節がある。

若かりし頃、私も一丁前にスプレー式の匂いを身にまとっていた。
しかし。
「ムスク(じゃ香)」系のモノは、まったく合わなかった。
シトラスとか「爽やか系」のモノしか使っていなかった。
恐らくではあるが、ムスク系は体臭と混ざって効果を発揮するのだろう。
香水も、「手首や首元など体温が上がる場所や、少し汗をかく場所」に付けると聞いたコトがある。
そういった意味では、私は「香水が頑張りがいのない」人間なのだろう。

最初にお断りしておく。
私は他人を傷つけるために、この記事を書いている訳ではない。
この後の記事内容を見て、不快に思われないで欲しい。
「根治が可能」な事案なのだから、魚臭症に比べれば可愛いモノだ。
※「魚臭症」は、世界で数百人しか症例がないと聞いた覚えがある
それを頭において、続きを読んで欲しい。

逆に、体臭が強すぎる人間も存在する。
俗にいう「ワキガ」という種類の人間だ。
先述の「嗅覚の麻痺」メソッドが適用されて、自分の臭いには気付けない。
非常に厄介なのが、「他人が指摘してくれない」という事実だ。

体質に対して、他人が口を出すのは非常にデリケートな問題だからだ。
私は「喘息持ち」という厄介な体質を持っている。
深夜に咳が止まらず、救急車を呼んだことがあるレベルに喘息だ。
一人暮らしの頃に、「喘息あるある」なのだが寝る(横になる)と咳が出て困った。
壁が薄い、木造アパートに住んでいた頃の話だ。
恐らく、隣の部屋には「死にそうな勢いで咳をし続ける男性」の音が筒抜けだったろう。
私が深夜にオーディオをガンガン鳴らしていたら、文句は言いやすい。
しかし。
喘息で苦しんでいる人間に、「咳をするな」とは言えないだろう。
隣の部屋の住人に申し訳ないことをしていたな、と思う。

私は猫アレルギーでもある。
猫に触ってきた人間がいると、瞬時に目がかゆくなる。
近づく必要がない場合は特に指摘しないが、継続的に同じ部屋にいる場合等は事情を話して手を洗ってきてもらう。
服についているのは、私が我慢する。
この指摘にも、「猫アレルギー治せよ!」と言われたコトはない。
言われても困る訳だが……。

「体質」に関しては、とかく本人に文句は言いにくい。

「ワキガ」は、仕組み的には身体の特定箇所(腋、性器、足等)の汗腺にアポクリン腺が多いと「発生しやすい」らしい。
アポクリン腺からかく汗は、乳白色をしているそうだ。
この汗自体は、臭わないらしい。
一つの試金石として、白いシャツを着て汗をかいた時に腋染みが黄色くなる人はアポクリン腺の汗をかいているらしい。
私はシャツの色が変わったコトはないのだが、少数派なのだろうか?
※だからといって、「腋染みができるからワキガなんだ!」というのも早合点。腋染みができる人でもワキガの人は少ない
アポクリン腺からかいた汗が、皮脂や体表常在菌と反応を起こした時に悪臭を放つようだ。

絶対数の少なさから考えると――。
アポクリン腺から汗をかくのは普通だが、多寡は個人差がある。
※普通に「汗っかき」な人と「汗をかけない人」がいるのと同じだ
皮脂や体表常在菌のうち結びついて悪臭を放つモノ自体も誰でも持っているが、多寡は個人差がある。
この両者が多く存在し、反応する暇を与えてしまうと「ワキガ」状態になるのだろう。

鼻が悪い私でも、電車でワキガの方に遭遇するコトはある。
発生元は特定できないが、「名状しがたいワキガのような」臭いがする。
例え話は苦手なのだが、「洋辛子(マスタード)」の臭いに似ている気がする。
苦みと辛みが混在した臭いで、「目にクる」。

しかも。「体質」で、「自分では気づけない」ときている。
コレは、たしかに本人も周りの人たちも大変そうだ。
私の身近には存在しないが、明らかに目にクるレベルの人が身近にいたら指摘してあげる方が親切な気がする。
私なら――。懇意にしている方にだったら、勇気を出して伝えると思う。
なぜなら、対処方法が存在するからだ。

昔は根治させるには手術しかなかったが、今では色々な治療法があり保険適用もされるらしい。
ただ「アイツ、悪い奴じゃないんだけど……」とか「あの先輩、カッコイイんだけど……」と言っている人間は、無責任ではないか?
彼(女)の、「素敵な人間関係構築を阻害している」コトになっているのではないだろうか?
人を傷つけてしまう可能性は怖い。
しかし、「悪者になる勇気」が必要な場面ではないだろうか?
※相手が、「自分に都合の悪いコト」を言われると問答無用で殴ってくる手合いの場合は、その限りではないが……

喘息や猫アレルギーは治らない。
喘息薬の吸入や、猫に関しては花粉症の「アレグラ」等が効くかも知れないな? と思っている。
しかし。
コレらは対症療法であって、根治はしない。
ワキガの方は、治るのに自覚症状がないから放っておかれる。
コレは、悲しい事実と言わざるを得ない。

自分は上から目線で! と憤られる方も多いだろう。
もちろん、私にも他人から指摘されにくい体質は存在する。
私が持っている「他人に指摘されにくい体質」はイビキだ。
「鼻が悪い(上に、若いころに鼻骨骨折を自分で治して鼻腔が狭い)のだからしようがない」と諦めている。

悪臭の話に偏りがちだったので、いい臭いの話もしよう。
一般的に、甘い臭いは「いい香り」だ。
しかし、私は「甘ったるい匂い」が苦手だ。
昔――。
焼き鳥屋さんが美味しそうなタレの匂いで客を呼ぶように、バニラ臭を撒き散らすクッキー屋さんがあった。

一緒にいる女性などは、「いい匂い~♪」と言うのだが、私には苦痛だった。
バニラアイス等は好きだが、なぜか空間に満ちるバニラ臭は苦手だった。
理由は、私自身にも分からない。
前世がミントで、アイス界でバニラに苦汁を舐めさせられてきたのだろうか?
ちなみに。チョコミントのアイスも、好んでは食べないが嫌いではないコトも付記しておく。

甘い匂い。
女性の香水(?)でも、年配の女性に多いが甘い匂いがするモノがある。
コレもまた、私は苦手だ。
甘い食べ物は嫌いではないのだが、甘い匂いが苦手なのか?
分からない。

食べ物の臭い……か。
納豆は臭い。
でも、大好き。
くさやは臭いけど、美味しかった(ムロアジだったっけか?)。
鮒ずしは「食えるでしょ?」と軽く考えていたが、思ったよりグラフィカルな意味で激しくて、画像で見たら「うん、無理!」と思った。
ドリアンは、臭いはどうとして味が好みではなかった。ホヤみたいに、「通の味」なのか知らん?

シュールストレミングは食べたコトがないが、絶対マズいと確信している。
現地の人は食べないって聞いたし、空輸不可とか罰ゲームにもほどがある。
缶を開けると臭い汁が飛び散るって、本気で罰ゲーム。
国ぐるみの「不味い名産品」なのではなかろうか?
北海道名産「ジンギスカンキャラメル」の、パワーアップバージョンみたいな認識をしている。

ドリアン以外は、発酵食品だ。
漫画『もやしもん』を読んだ人なら、「ホンオフェ」や「キビヤック」とかも興味深いだろう。
でも。ホンオフェはアンモニア臭と聞いただけで無理だし、キビヤックも栄養補給の苦肉の策だろうから決して美味くはないだろう。
うん、無理だわ。

鼻が悪いにも拘わらず、私はコーヒーが好きだ。
淹れている時の香りの方が、好きかも知れない。
飲むときは、嗅いでから飲むと鼻を啜るみたいな音がしてしまうので、少し恥ずかしい。
口に含んで、鼻から空気を吐くときに香りを楽しむ。
鼻が悪い人間なりの知恵だ。

コーヒーは、私の中で「気分の切り替え効果」が高い。
昔は、気分を切り替えたいときにシャワーを浴びていた。
一日に五回くらい入る日もあったので、「しずかちゃんか!」と言われたものだ。
この辺が、私が無臭である遠因になっているのかも知れないな、と書いていて気付いた。

「鼻がまったく利かない」という障碍はあるのだろうか?
「食生活」という意味で言えば、嗅覚は重要なので少し残念だろうと思う。
逆に、凄く臭い部屋でも頓着しないというメリットがあるかも知れない。
それが「メリットであれば」の話だが。

私生活では不便は少なそうだが、「食中毒」や「ガス漏れ」には気付きにくいだろう。
「生命の危機」という意味では、鼻は重要なセンサーだ。
大昔――。
路上喫煙が禁じられていなかった時代。
携帯灰皿を持って、営業中に歩きながら煙草を吸っていた。
工事現場があって、作業員たちが外でなにやら相談していた。

私は喫煙しながら横を通り過ぎると、作業員たちが私に向かって叫んでいる。
すごい剣幕だったので、自分が言われていると気付かずに通り過ぎた。
刹那! ものすごいガスの臭いが、周りを包んだ。
生活インフラにおけるガスは、物凄く臭い。
本来は無臭のガスらしいが、「人間が絶対的に気付ける悪臭」を付けているそうだ。

つまり。
作業員の方々は、作業中に濃厚なガスの臭いに気付いて対策を練っていたのだろう。
私に対して、引火の危険を感じて叫んでいた訳だ。
私は携帯灰皿で煙草をもみ消したが、嗅覚が皆無だったら爆発していた可能性はゼロではない。
鈍感ながらも、嗅覚があったから命を救われたケースである。

逆に。
嗅覚が優れている人も存在する。
流石にイヌほどではないにしても、明らかに嗅覚が秀でている人たち。
彼らは、人間の臭いで「体調」が分かったりするらしい。
前日にセックスをしていると、臭いで分かるとも聞いたコトがある。
ココまで来ると、流石に「凄い」を通り越して「むしろ、不便なんじゃないか?」とも思ってしまう。

鼻が悪い私ですら、甘い空気を出すクッキー屋さんは苦手だったのだ。
街中で、通りがかったアパートから死臭を感じてしまうかも知れない。
耳や目に比べると、嗅覚は軽視されがちだ。
しかし。
優れているにせよ劣っているにせよ。嗅覚は、ほどほどが良いのかも知れないと思う。

【了】

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