「説教臭い祝辞」を言い始めるとオヤジだよねぇ

俺には、高校時代からの親友がいます。

【初めて会った15歳の頃】
なぁ。お前さ、彼女出来たんだって?
「あぁ。相変わらず、喜多仲は耳が早いな」
ちょっと聞いていいかな?
「ん?」
俺ってさ。「人を好きになる」ってのが、よく分からんのだよ。
「おぉ、なんだよ。聞いてやるよ」
お前と彼女が、二人で海で遭難していました。
「は?」
救命ボートは一つしかありません。どっちかが乗って、もう一人が掴んでも沈んでしまいます。
「あ、質問の前振りか? それ」
そうそう。貴方は、彼女をボートに乗せますか? 自分がボートに乗りますか?
「うーん。『自分で乗る』だろうな、やっぱ」
うわ。お前って、心の底から正直なのな。
「ま、話してる相手が、お前だしな」

【10年後。25歳の頃】
おーす。すっげぇ久し振りだな。
「そだな」
結局、彼女と結婚したんだって? 息が長いなあ、お前は。
「お前の方はどうなんだよ?」
あ~、まだ人を好きになれんな。ヤリたいとは思うんだけどな。
「おいおい。正直すぎんだろ」
あ! 昔した質問を、もう一度してもいいかな?
「なんだ?」
貴方は、奥さんと二人で海で遭難しました。
「あーあー」
救命ボートは一つです、どうしますか?
「うーん。彼女が助かってくれるなら俺はどうなってもいいかな? 『彼女を乗せて俺は乗らない』だな」
へぇ。

【更に7年後。32歳の頃】
俺は相変わらずだけど、お前は子供も生まれて随分と落ち着いたよな。
「あはは、中々付き合えなくてスマンな」
でよ。
「いつもの質問か?」
はっは。さすが十五年来の付き合いだな。
「そうだなぁ…」
うん。
『彼女を乗せる』だな」
へぇ、七年前と同じ答えか。立派なもんだ。
「いや」

「彼女を乗せて『俺は、ボートの横で泳ぐ。絶対に俺も生き残ってみせる』さ。失う悲しみは、アイツに味わわせたくないからな」
あ……。
「ん? どうした!?」
いや……、ちょっと感動した。
「おいおい、ガラじゃねーな」
いや……。俺も、そんなことを言える相手に出会いたいな。
「そっか……」

――おめでとう。

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喜多仲ひろゆ
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