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ハイレゾ時代はなお遠く

2014年に日本でもハイレゾ(High-Resolution Audio)の定義が行われ、ハイレゾの普及が試みられてきました。

ハイレゾのリスナー側は「何のためにハイレゾで聴くの?」という問題を常に突きつけられるのですが、それとは別にここでは1リスナーとしてのセンチメンタルな所感を書いていきたいと思います。

ハイレゾの敷居

日本でのハイレゾの定義は「LPCM 換算でサンプリング周波数、量子化 bit 数のいずれかが CD スペックを超えていればハイレゾオーディオとする。ただし、いずれかが CD スペックを超えていても、もう一方が CD スペック未満の場合 は、非該当とする。」となっています。
※出典: 一般社団法人 電子情報技術産業協会 - 「ハイレゾオーディオの呼称について(周知)

簡単に書けば、24bit/44.1kHz以上もしくは16bit/96kHz以上のRAWもしくはロスレス形式の音源がこれに該当するようです。

2015年頃よりネット配信サービスの中でmoraやOTOTOYなどのダウンロード販売サイトでハイレゾ形式の販売が始まり、またBandcampなどの自主制作音源の販売サイトなどでも順次ハイレゾ対応が行われてきました。

一方でサブスクリプション配信は長い間、AACなどの圧縮音源による低ビットレート配信が主流でした。僕はこれについて下記の要因があり、ハイレゾ利用の余地がほどんどなかったと推測しています。

  • 主な利用端末がスマートフォンであり、ハイレゾの高いビットレートではパケット通信料が嵩んでしまうこと

  • スマートフォンの内蔵ストレージ容量がそれほど大きくなくオフライン再生に向いていないこと

  • 当時普及が始まっていたBluetoohイアホンの対応コーデックが主にAACやSBCなど圧縮形式であったこと

ハイレゾで聴くために

それでもスマートフォン向けのハイレゾ対応DACなど、PCMデータを出力するための追加アクセサリーを購入してハイレゾを楽しむリスナーも一定数存在していました。僕もLightningDACと呼ばれる装置を経由してイアホンを接続して使ったりしています。

Lightning DACを接続しての利用。USB機器同士の接続となるため、LightningケーブルはOTG規格に対応したものを使用する必要があります。音源は僕の自主制作アルバムで、もちろんハイレゾ対応です。

イアホン側も対応が必要です。通常のイアホンは16〜20kHz程度までの再生を主眼に作られているため、再生時にハイレゾ周波数帯の音は聴こえません。人間の耳でそこまでの帯域が聴こえるのかどうかという問題はさておき、こうしたハイレゾ向けに「Hi-Res Audio」対応イアホンでは40〜50kHzまで再生できるように設計されています。

この市場は長い間有線イアホンの独壇場でしたが、Bluetoothイアホンでも普及価格帯のハイレゾ(無線の場合は「Hi-Res Audio Wireless」)対応製品が出てきています。

またハイレゾ対応の配信サービスやアプリも必要になります。僕の利用しているApple Musicでは、2021年からハイレゾ配信に対応しプレイヤーアプリ側もハイレゾ対応になりました。

余談ですが、パソコン版のApple Musicアプリの付帯サービスであるiCloud Music Libraryは未だハイレゾ対応していません。そのためCDからリッピングした音源でApple Music側にマッチする音源が見つからない場合、スマートフォン側には256kbpsの圧縮音源としてダウンロードされます。

ハイレゾ普及はまだ手探り

国内のスマホのシェアの6割を占めるiPhoneですが、現在のところ公式で用意されているLightning-3.5mm ステレオアダプターは24bit/48kHzまでの対応で、ギリギリハイレゾの要件を満たしているラインの製品です。これはiPhone内蔵のチップの上限値とのこと。

iPhoneはBluetooth側の転送コーデックも、圧縮フォーマットであるAACに変換してから送っています。24bit/96KHzまで対応しているLDACや、24bit/48kHzまで対応しているaptX HDといったコーデックには対応しておらず、これらに対応してたイアホンやスピーカーに接続してもAACもしくはSBCとして転送を行います。これではハイレゾのせっかくの高音質が勿体ないなと感じています。

音源となる商業音楽市場の状況もイマイチです。

Apple Musicのロスレス化に伴い、一般的なアーティストの音源も圧縮なしのCD音質(ロスレス)で配信されるようになりました。まずはこのラインまでたどり着いたのは良いのですが、それ以上のハイレゾとなるとまだまだ対応は進んでいません。

現状のハイレゾ音源で多く見かけるのは、24bit/48kHzでの配信。これは今の普及しているスマートフォンの一般的な装置で再生できる上限であることがこのフォーマットで販売する判断の根拠であると想定しています。24bit/48kHzでも量子化bit数の増大によりデータ量を増やし音の解像度を上げることができるので、ダイナミックレンジ等の音質向上はある程度期待できます。

一方で24bit/96kHzの商品となるとかなり少なくなってきます。こちらは洋楽市場の対応が先行しており、残念ながら国内市場はあまり積極的ではありません。

国内の有名アーティストの例ですが、LiSAのアルバムは2016年当時は24bit/96kHzフォーマットで販売をしていました。そして2020年以降は24bit/48kHzフォーマットでの販売に引き下げられています(EP等ではまだ24bit/96kHzで出ていたりする)。音源自体は32bit float/96kHzで制作するのが標準になっていると思うので、販売する際のフォーマットは市場の需要を見ての判断だと思います。市場が必要としていなければ、いつかロスレスレベルにまで引き下げられてしまう可能性があります。

この辺は、レコーディングエンジニアやプロデューサーを含めた制作側の考えも関係しているのかなと考えています。制作側は制作過程での変換作業などでの音質ロス回避やノイズ等を見つけやすくするなどの目的で高ビットレート化を行なっているだけで、一般リスナーにハイビットレートの音源を提供するメリットはあまりないように考えていることも想定できます。ロックなどの音楽の場合、「あまりハイファイでない方が音源的に好ましい」と考えるアーティストやエンジニアもいるかもしれません。

こうしたこともあり、ハイレゾ普及に必要な要素はまだ揃っているとは言い難い状態。ハイレゾはまだまだ音楽マニア(特に音質マニア)の趣味でしかない面はまだまだ脱せないのかもしれません。

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