2022年読書記録 その1

(1月から6月)

1. シン・フォーメーション論(山口遼)

サッカーとは何か。それを定義し、サッカーの構造を読み解き、フォーメーション論に進んでいく。サッカーはゲームであり、ゲームは、ルール、達成すべき目標(ゴール)、フィードバック(評価、指標)、自発的参加といった要素で成り立つ。サッカーで変数となるのは、ボール位置、スペース、選択肢、時間だ。サッカーではこれらを支配することで勝利を目指す。各チームがその変数をいかに支配し勝利を目指すかを表したものがフォーメーションといえる。単なるフォーメーション解説でなくサッカーというゲームそのものを読み解くヒントになる本だった。

2. サッカー「いい選手」の考え方 個とチームを強くする30の方法(鬼木祐輔)

視座、のぞく、ボール無しペアリング、など。少し変わった言葉が出てくるが、つまりいずれも"次に起こるプレー"に繋がるために必要なことであると解釈した。ロティーナ曰く"サッカーで一番大切なのは次に起こるプレー"。サッカーを掘り下げた本を読むといずれもこれに繋がるように思える。

3. 二百十日、野分(夏目漱石)

「苦痛にあれ、困窮にあれ、窮愁にあれ、凡そ人生の行路にあたるものは即ち文学で、それ等を嘗め得たものが文学者である。」

「従ってほかの学問が出来得る限り研究を妨害する事物を避けて、次第に人世に遠ざかるに引き易えて文学者は進んでこの障害のなかに飛び込むのであります。」

4. ダヴィド・ビジャのサッカー講座 試合で活躍するために大切な11科目(ダヴィド・ビジャ、DV7サッカーアカデミー)

5. クラウゼヴィッツ「戦争論」入門(井門満明)

6. 「戦争論」入門 クラウゼビッツに学ぶ戦略・戦術・兵站(清水多吉)

戦争とは他の手段を持ってする政治の継続に他ならない。そして戦争は、暴力をもって相手に意思を押し付ける行為だとしている。戦争は政治の手段であり、その手段は純粋な暴力の行使である。この定義に基づき戦争における各要素を論じていく。一貫して戦争の本質を突き詰める論理的な書だが、あくまでその理論は現場の戦場の目線から語られるのが特徴だ。

7. 三四郎(夏目漱石)

8. ヒトはなぜ協力するのか(マイケルトマセロ著、橋彌和秀訳)

類人猿や乳児の比較実験から、ヒトの利他性について探っていく。トマセロはヒトの利他性は学習によるものでなく、性質として備わっているという立場をとっている。ただしここは様々な学説があるらしい。本書では様々な実験を通して人間の利他性について考察し、さらにそこからこころそのものを探っていく。

9. Why Beautiful People Have More Daughters/進化心理学から考えるホモサピエンス(アランSミラー、サトシカナザワ)

何が人間の行動や感情に影響を与えるのか。環境や体験のような後天的なものか、それとも生物的要因や遺伝のように先天的なものか。本書は生物的要因と遺伝的要因に注目して人間の本性について考察したものだ。我々が持つ感情や普段の当たり前の行動が、実は生存や繁殖に適応するための進化であるとし、それらについて様々な例が挙げられている。ある意味、現代のジェンダー論に真っ向からぶつかる考察もあり、非常に興味深いものだった。

10. アフォーダンス(佐々木正人)

アフォーダンスはアメリカの知覚心理学者ギブソンによって提唱された概念で、環境が与える意味や価値と説明されている。我々が見ている、聞いている、感じているものはすべて環境の影響によって与えられているものだ。認知の概念が変わる新鮮な内容だった。今流行りのエコロジカルトレーニングもこのアフォーダンスの考えが元になっているはずで、もう少し掘り下げて調べてみたい。

11. 0ベース思考--どんな難問もシンプルに解決できる(スティーヴン・レヴィット、スティーヴン・ダブナー著、櫻井祐子訳)

12. 意思決定の心理学(阿部修士)
こころには速いこころと遅いこころ、二つの働きがあるそうだ。それがお互いに影響しあって人の意思決定は行わる(二重過程理論)。それぞれのこころの働きと脳のどの領域に関わっているのかを実験を通して明かしていく。そして二重過程理論に沿ってこころと脳のかかわりについて解明していく。全く違う意思決定に思われるものが、実は脳の同じ領域で行われていることもあるそうだ。人の意思決定や感情の仕組みの一端をのぞける本だ。

13. なぜ私は一続きの私であるのか/ベルクソン、ドゥルーズ、精神病理(兼本浩祐)
リンゴを見た時に、どうやってさっき見たリンゴと今見ているリンゴが同じリンゴだと私たちは認識するのでしょうか。また人の細胞は一定期間で入れ替わるのになぜ私は同じ私と言えるのでしょうか。作者は精神病理の専門家です。例えば目の前の靴を「靴のようですが靴というには無理がありますね」という一見意味不明なことを言う患者など様々な症例が紹介されています。このような症例は私たちの認知やこころがどのように成り立っているかを気づかせてくれます。書かれていることの半分ほども理解ができませんでしたが、脳科学、認知、哲学、こころ、精神病理…。遠い理論のように感じていたものが、私自身に常に接している現実だということは実感しました。

14. 意識は実在しない/心、知覚、自由(河野哲也)
目の前の赤いリンゴは実際にそこにあるのでしょうか、それとも私が「赤いリンゴがある」と思うからそこにあるとされるのでしょうか。
タイトルでいう意識とは心の中のリンゴを思い浮かべる舞台のようなもので、著者はそういった意味での意識は存在しないとしています。自分の外の世界は自分とは全く別の客観的なもので、つまりリンゴは実際にそこに存在しています。この考えを前提にこころで感じることや、物事を知覚することを掘り下げていくのですが、ここで書かれていることは自分には非常に説得力のあるものでした。
掻い摘んでしまえば、知覚するとは、自分とは別に実在するもの(環境)が発する多様な情報を積極的に探り、それと相互作用しながらひとつのシステムとしてリンクしていくことです。ようはアフォーダンス理論に基づき発展させたものですが、ぼんやりと概念のように感じていたアフォーダンスの話がクリアに現実のものと繋がって見えてきた感がありました。

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