うつせみは
虚空に懸かる
詩(うた)の虹
果てない旅の徒然に
なすすべもなく
日が沈む
花も月もなく
虫の声も遠ざかる
えも言われぬ
残響(こだま)だけ
闇に響く
漣(さざなみ)と
吐息の
区別さえ
難しい
葉影に
あなたの
柔らかい手が
現れて
頬に触れたような
気がした
一晩
祈り続け
ついに力尽き
草を枕に
身を沈める
寄せる
記憶の屑
返す
想いの欠片
数なき身は
松風になり
ゆっくりと
尾根を
降りる
汐音に
身をまかせ
薄紅の霧深く
迷い込む
蓮の雲が
頭上に
止まり
痩せた蜻蛉が
体を反って
デングリ返した
内海が立ち上がり
山が三度震える
生きているのか
死んでいるのかさえ
定かではない
神々のなさることに
人の道理は通らない
ただ
何かが始まる予感だけが
北斗のように
死を目前にした
蛍の光のように
架空の穹そらに
ゆらゆらと
漂っていた


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?