伽草子を聴いた日 Vol.1
カラフルな音のおもちゃ箱。元気です。という人をくったLPのタイトルのレーべルは、オデッセイ。それは、全てが巧妙にして、奇妙に仕組まれた罠の様に、1972年の僕等の前に現われた。
僕はそのカードを、少しためらいがちにひいた。一枚目のカードにまさか、ジョーカーはいないであろう、用心深く、レコードに針を落とす。ポータブル電蓄からはみだした30cmのお皿が針を擦り、最初の音が飛び出してきた。いきなり針が跳んだのか、と思ったほどの、きわどいタイミングの音の立ち上がり、つまり、8ビートのシンコペーション、スネアの最初の一打の前後にベードラとシンバルがずれている、最初のタイミングでブルースハープは、Dの音でずっと引っぱっていく、その間に、松任谷節のハモンドオルガンが、面白いように上下にからんでいく。こんな愉快な音の組み合わせのイントロが終わると、ぼやぼやしてんじゃないよといいたげな、ぶっきらぼうなボーカルが聞こえてくる。
僕を忘れた頃に君を忘れられない そんな僕の手紙が着く・・・
な、なに、どういう事??「先生、意味がよくわかりませ~ん!」という気分で、聴き進み、次の、
曇りガラスの窓を叩いて 君の時計をとめてみたい・・・
このワンフレーズの、何にも代え難いみずみずしさに出会った時に、僕は何かに向かって歩きはじめたのかもしれない。それは、人生を変える、というほど、大げさではなく、もっと軽やかに、流れるような自分自身が自然であることへの憧憬と、少しばかりの背伸びと、ワンダーランドの入り口の様な不思議な誘惑だった。音を編む錬金術士たちは、僕等をいとも簡単に魔法にかけて、以後25年以上もその魔法からとけない。ああ、僕はいきなりジョーカーを引き当てたのだ。
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