詩・一月の死

85歳の生誕日 小雨まじりの寒い朝
日陰模様の雲の奥 何やら
陰険な悪意を潜め 蹲る 眼の数々が
過去の死骸を呼び寄せる

いち、に、さん、& 四も あったかな
死の閾を 逝ったり来たり 繰り返し 
多くの友も 妻もまた 逝ったきり
我ひとり 残り今日まで生き延びる

人生の 歳とる意味に晒されながら
無為の日々を超えつつ生きる 
明日はもう 今日の裡に去り行くと
時の虚を 悟るまでには届いたか

だが 日本の今日を見るにつけ
長く生きたものの眼には 情けなく
我が世代 日々 鞭打ち渾身の歳月も 
あゝ 夢は荒れ野を駆けめぐる

小雨降る 一月の寒い 朝 
痛む胸 抱え 家族なく
独居の男ひとり 死んでいく
何事も無きかのように今日も過ぎ 

明日は晴れ
陽は 麗らかに心地良く
せめては 焼き場の煙 穏やかに
孤独を耐えた男の魂 癒してはくれないか

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