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キャディで描く「モノづくりの未来像」

こんにちは。キャディCX(カスタマーエクスペリエンス)チームの内藤と申します。入社してからはや1周年を迎えました。
折角の機会なので、原点回帰も兼ねて、自分がこの先やりたいこと、作りたい世界観を改めて文章化してみたいと思います。
雑多な長文ですが、お付き合いいただけると幸いです。

1. 自己紹介

CAD/PLM※ソリューションベンダー、コンサルティング会社を経て、昨年5月の令和元日からキャディに入社しました。
※PLM=Product Lifecycle Management:製品情報の統合管理手法
キャディでは、東日本エリアの加工パートナー開拓から始まり、見積もり、お客様からの問合せ窓口、大型案件の受発注管理など、パートナー側、カスタマー側、社内オペレーションを一通り経験してきました。
組織もサービスも自分の役割も日々変化の真っただ中で目まぐるしく色々なことが起き、体感的にはもう3年くらい経ったような感覚です。

最近は主に、お客様から作りたい機械装置について図面や仕様の要望を受け、自社開発のシステムを使った見積もりのやり取りや、最適な加工会社を選定・発注するオペレーション業務を担当しています。
普段はお客様と顔を突き合わせて(もしくは電話やメール、FAXなどを介して)製造仕様を詰め合わせていくような泥臭い(?)仕事が多いですが、今回は、個人的にその先描いている未来であり、キャディに入社した理由でもある、モノづくり産業の将来像についてお話したいと思います。

2. 実現したい未来像

新卒以来、様々なモノづくり企業の業務プロセス改革やシステム導入等の支援を通じて、経営者や設計・製造部門・システム部門の方など、色々な視点での各社課題についてお話を伺う機会がありました。
そしてキャディに来てからは、私自身も商流に入って要望を受けた部品を形にするプロセスを担う中で、一筋縄ではいかないモノづくりの難しさ・奥深さを日々身をもって学び、聞いていた様々な課題への理解がより鮮明になってきたと感じています。

つい先日もある包装機械メーカーの方から、「10年前と比べて納期が半分以下になっているのに、売り値は当たり前に6割7割に下がっている」「このままだとジリ貧なのは分かっているけれど、新しいお客さんの開拓や自社ブランドの確立に腰を据えて取り組む時間もお金も心の余裕も無い」というお話を受けました。
製造現場では「しゃがむ、運ぶ」「工具を持ち替える」といった一挙手一投足まで事細かに見直して効率化を図ったり、調達部門でも依頼先を広く探し回って交渉に交渉を重ねたりと様々な企業努力を重ねてきているものの、多くの会社が利益を維持するのも精一杯で、改善疲れで消耗しています。

しかも、市場を取り巻く変化のスピードは益々速くなり、競争環境も厳しくなっていきます。以下でも改めて言及しますが、今後グローバル展開している大企業を中心に、海外発、昔ながらの日本企業とは対極の思想にある効率化手法に追随していくことになり、こうした企業にとっては更に不利なルールの中での戦いを余儀なくされます。
標準化された業務や完成されたシステムを持った大規模な企業がより強い力を持ち、定められた「標準」に合わせることが求められる仕組みのもとでは、日本企業が戦後以来様々な努力や工夫のもと積み重ねてきた「カイゼン」「効率化」のみを国際競争力として戦い抜くことはもはや限界となっています。

一方で、高度な技術や斬新なアイデアは、企業規模の大小や事業の継続年数を問わず、日々次々と生まれています。こうした工夫を凝らしてモノづくりに携わる人が「イレギュラー」として排除されるのではなく、フェアな競争環境の中で何にも縛られずに自由に価値を発揮できる社会であるべきだと考えています。
そのためにも、海外企業が主導する巨大な業界変化の波に身を委ねるのではなく、また国内に閉じてガラパゴス化するでもなく、これから起きる世界的な変化に先手を打ち、負の側面を補完して産業全体を底上げする、新たなモノづくりのスタンダードとなる仕組みを創りたいと強く思っています。

3. 製造業界で起きている巨大な変化

 グローバルでのサプライチェーン基盤標準化の波

顧客ニーズの多様化、製品ライフサイクルの短期化、グローバル市場の熾烈な価格競争の中で、企業にとっては、いかに市況を即座に捉え、低コストかつ短い開発期間で、魅力的な商品を世に送り出すかが事業の競争力を左右する重要な要素となっています。
この競争環境を勝ち抜くべく、これまで部門や企業間で分断していたプロセス(需要予測⇒設計開発⇒資材調達⇒製造⇒販売・保守)をリアルタイムに繋げ、IoTやビッグデータ技術と掛け合わせてサプライチェーン全体の自走化を図る動き(=「つながる工場」構想)が海外を中心に広がっています。

海外動向を見ると、Industrie4.0(ドイツ)やIndustrial Internet(アメリカ)など世界各地で有力なコンソーシアムが生まれ、こぞってプロセス間インターフェースの標準規格を作ろうとしています。

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この構想の仕組み作りの中心を担っているのは、ERPやCAD/CAM・PDMに代表される、大手企業を中心にグローバルシェアの高い海外のインフラシステムメーカーと、それを活用する巨大メーカーたちです。そして欧米型のシステムは、システム側で"Best Practice"として定義した標準業務に各事業会社が極力合わせる形での運用を想定する傾向にあります。
どこが世界標準を勝ち取るにせよ、大手メーカーの生産性向上に向けた取組みは、これらの管理システムに適合させる形で進んでいくことは間違いありません。

標準化のボトルネックとなる「特注部品」

事業を構成するディマンドチェーン、エンジニアリングチェーン、サプライチェーンの情報を会社の枠を超えてリアルタイムに繋げるエコシステムを構築するために、エンジニアリング領域には、購買・製造への自動連携が可能な設計をすること(=QCDの不確実性を排除すること)が要求されます。
しかし、システムに乗せられる情報はどうしても限定されてしまいます。
新製品を作ろうとしたとき、構成する部品はざっくり「汎用部品」「標準部品」「特注部品」に分けられますが、特に「特注部品」には実績情報が存在しないため、この仕組みの中では最も厄介な存在です。

・汎用部品:ネジやナットなど、市販されている規格部品
・標準部品:機種横断で使えるよう、社内で推奨されている共用部品
・特注部品:新規で設計図を起こして、特注での製作が必要な部品

「つながる工場」の構想においては、開発初期段階からの標準部品の使用率向上や、組合せによる個別カスタマイズを見据えてインターフェースを共通化し、ユニット単位で機能バリエーションを事前に定義する、所謂「モジュラー設計」を推進することで新規設計を極力抑え、この課題を解決しようとしています。

永続的な組織を前提とし、予測可能な技術進歩の中では、このやり方は新商品投入期間の短期化・生産性向上に高い効果をもたらすことが期待できます。
一方で、突如生まれた先進的な要素技術を商品化しようとしたり、市場の急速な変化に追随して事業ドメインを転換しようとした場合、ガチガチの設計ルールや固定化したサプライチェーンが足枷となり、却って身動きが取れない状況に陥ってしまいます。

自由な製品開発を阻害しない、柔軟なサプライチェーンが必要

今後、世界標準に追随しようとする多くの日本の大手メーカーも欧米型の業務プロセスに自然と変化していくと考えられます。 これ自体が悪いことだとは全く思いませんが、「人の判断を介さずに、データのやり取りで完結させる」ことを目的とし、不確実性を許容しない業務設計しか残らないとすると、突如生まれた発見や発明が行き場を失い、誰の目にも触れないまま消え去ってしまいます。
生産性の全体最適を求め続けるあまり、自由な発想での製品開発が窮屈になってしまうのでは本末転倒ですし、そこで働く人の持つポテンシャルを封じ込めることになってしまいます。あるべき姿は、何にも縛られずに自由な発想で製品開発をしたとしても、固定化・自走化されたサプライチェーンを超えるスピードで具現化し、世の中に送り出すことができる仕組みだと考えています。

もう少し踏み込むと、決められた標準部品以外を排除する方向性ではなく、標準部品は、バリエーション製品のQCD安定化や、不要な流用設計による設計者の二度手間を省く目的として有効に使い、必要な新規設計は自由に行ったとしても製品全体のQCDを阻害しないようにすることです。
そのために、特注部品の調達・製造プロセスを「つながる工場」構想と同じ水準で進化させ、両輪でモノづくり産業を支えることが、このジレンマへの解だと思っています。

4. 自由なモノ作りを加速するパラダイムシフト
  =事業リソースのボーダレス化

大規模で自走化した工場が進化を遂げていく一方で、技術進歩や人々の価値観の変化は、アイデアや工夫を誰もが自由に形にできる社会を実現する上での強力な追い風になると思っています。
その中でも特に、製造業に限らず世界全体で進む「事業リソースのボーダレス化」は、これまでのサプライチェーンの前提を大きく覆すことにもなり得ます。

① メーカーから様々な業務機能が切り出される

市場ニーズが多様化し、製品ライフサイクルが短期化していく中で、自社での研究開発に莫大なお金や時間を投資することは難しくなってきています。
特に需要変動の大きい業界では、製造や物流のために抱える人や物を極力減らして、外部の専門企業と提携したり、繁閑に応じて人を増減できる雇用形態を拡大したりすることが当たり前に行われています。
また、日本ではまだあまり機能していないものの、企業間・産学連携などでR&D領域での技術シナジーを生み出すオープンイノベーションや、物流関係では個人の空き時間を有効活用するクラウドソーシングなど、社内外・個人に至るまで世の中のリソースを横断的に使ってビジネスを行う流れも広がりを見せています。
こうした流れの中で、技術や情報・人的リソースを相互に補完し合うことが事業を行う前提として一般化すれば、世の中には何等かの機能に特化した個人や集団が多く生まれ、それぞれ尖った成長をしていくと考えられます。

② ツールの進化に伴い、製品設計の一般リテラシー化が進む

製造業の設計業務は、ツールが高価で扱いが難しく、動作環境にも左右されやすいことから、これまで専門性の高い技術とされてきました。
しかし、PCのスペック向上や3D-CADアプリの軽量化・ユーザビリティ向上に伴い、誰でも使えるツールになりつつあります。3Dプリンティング技術の普及に伴う「自分で設計して作ってみたい」というニーズの増加も後押しして、今後さらに一般的化していくと見ています。
若年層ではプログラミングや動画編集技術は全く珍しいものではなくなっているように、構想したものをモデリングする技術は、将来基本的なリテラシーの1つになるのではないかと思っています。

③ 個人単位での価値創造力・発信力が重要な社会スキルになる

テレビや新聞よりも、twitterやYoutubeのような個人メディアが影響力を持つようになっていたり、大企業でも副業が推進され始めたりしているように、会社依存でない個人の発信力が求められる時代に急速に変化しています。
そうなると、日々の何気ない思い付きや研究の中で生まれた副産物など、これまでなら埋もれて消えて行ってしまっていたものが、個人のメディアを通じて広く世の中に発信され、注目を浴びるようになっていきます。
これが①で挙げた業務機能の独立、②に挙げたようなツールの進化とも相まって、個人や小さな集団から生まれた沢山の発明が発信源となり、別の発明とシナジーを起こして次々と大企業を凌駕するモノやサービスを生み出していくのではないかと考えています。

こうしたことが今後10年・20年スパンで緩やかに変化していくイメージでいましたが、今般の新型コロナウイルスの影響を受けて、オンライン上で業務が完結する文化が世界的に定着すれば、この流れは一気に加速すると感じています。
この変化後の社会においては、会社という限定されたリソースを前提に定義されていた「業界」「職種」「職位」「B2B、B2C」といった枠組みは意味を成さなくなり、「どこの誰が」ではなく「どんな価値を生み出し、提供できるか」が重要になってきます。

5. ボーダレス化した社会で真価を発揮する仕組み

既存の枠組みが取り払われ、提供価値が勝敗を分けるフラットなグローバル競争環境下には、想いやアイデアのある人、それを形にする力のある人、その市場に知見の深い人、資金面で協力したい人など、目的と目標を共にする人々が創発的に事業を推進する、いわばイノベーションのプラットフォームが必要です。

そこはメンバーを引き合わせてプロジェクトを発足・運営する場であり、商品のプロモーションチャネルでもあり、資金面、法務面といった事業基盤の支援も受けられる場であるべきだと思っています。
そこで世界中のシーズを集約し、発掘したニーズに対して最速かつクリティカルに突き当てることができれば、商品/サービス開発の実現性とスピードは飛躍的に向上し、誰もが世の中を変える新規事業を生み出せる世界が実現します。

プロダクトの構想から、それを世の中に浸透させるまでのすべてのプロセスに対して聖域なくコミットする仕組み、本当の意味での"Product Lifecycle Management"を実現するのが、私の描いている将来像です。
キャディは今、その根幹にあって最も難しく、システム観点、抽象論では触れづらい「求められたものを具現化する(=図面をもとに製品を作る)」プロセスの自走化に真正面から向き合っていると捉えています。

一朝一夕では繋げられないこのバーチャルからリアルへのインターフェースを世界に先駆けて構築し、世界中に広がるモノづくりネットワークを駆使して、構想した部品を誰が、どこで、いくらで、どんな期間で作るかといった「実績情報」を設計の時点で予め作ることができれば、新規品だろうが実績品だろうが関係なく、「つながる工場」を超える、強靭で持続的なサプライチェーンを実現できると信じています。

とはいえ、表面的なデータを揃えて繋げるだけでは実現不可能で、現場を深く知り、テクノロジーと最適に融合させていくことが不可欠です。
ITは何でも叶えてくれる魔法の道具ではなく、あくまで人の思考を具現化する補助的ツールに過ぎません。そして完成品の価値が人間の感覚に左右されがちなモノづくりでは特に、アイデアを形にするプロセスの変数が尋常でなく多いです。負けずに1つひとつを言語化し、デジタルの世界に落とし込んでいくプロセスが必要です。
リアルなモノづくりはまだまだ勉強中ですが、世界最高峰にハイコンテクストな技術資料である日本企業の昔ながらの図面と向き合いながら一つずつ仕組みを作っていく日々が、一見遠回りに見えて、実は「世界中誰でも参加可能なイノベーションのプラットフォーム」を実現するための最短ルートだと思っています。

その道筋として、笹口さんが以前記事にしていた"Whole Product"の概念が、自分の中で一番しっくりきています。

高度なITを使った単なる箱を作って終わりではなく、人や組織、ステークホルダーを有機的に繋げ、「モノを生み出す」という共通の目的に向かって最大限の力を発揮する仕組みを創ることで、個人の思いやアイデアが次々と世の中を変えていく、ワクワクするモノづくりの未来を実現したいと思っています。

長文にお付き合いいただきありがとうございました!

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