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パティ・スミスにはまっていたハタチ前後の頃

ここ数週間、パティ・スミスばかり聴いている。こんなことは19やハタチの頃以来なので、実に35年ぶりだ。

いや、その間まったく聴いていなかったわけではないし、時々聴いてはいたものの、すべてのアルバムを取っ替え引っ替えというわけでなかったので、個人的にいまは第2次パティ・スミス・ブームということになる。

時系列的な記憶はもはや曖昧だが、19歳、ハタチと、いわゆるニューヨーク・パンクにハマっていた。と言っても、テレヴィジョンにリチャード・ヘル、そしてパティ・スミスぐらいだったけど。それからソニック・ユースに流れて行ったのは覚えているが、どれを最初に聴いたのかは覚えていない。

最初に聴いたパティ・スミスのアルバムはやはり1stアルバムの"Horses"であるが、モノの本で「ロック色が強い」と紹介されていた2枚目の"Radio Ethiopia"で完全に虜になってしまった。

ハイスクールを卒業後、パティはニュージャージーの工場で働くが、その時の心情を吐露した"Piss Factory"という曲で、彼女は「列車でニューヨークに行くの、そしてビッグスターになってやる、こんなところには二度と戻ってこない」と言っている。

ニューヨークでポエトリー・リーディングを続けているうちに、後のパティ・スミス・グループとなるメンバーが集まり"Horses"でデビュー。ポエトリー・リーディングの要素が多く、ニューヨーク・「パンク」というが、一般的にイメージするパンクとは程遠いアルバムは、唯一無二ともいえる内容だと思う。

Patti Smith / Horses (1975)
  1. Gloria

  2. Redondo Beach

  3. Birdland

  4. Free Money

  5. Kimberly

  6. Break It Up

  7. Land : horses/land of a thousand dances/la mer(de)

  8. Elegie

ただ、当時俺にとっては若干物足りなさがあった。輸入盤のレコードからテープに録音して聴いていたが、迫力が無いというか、音がこもった感じというか。後に中古の日本盤を手に入れ、音的には少し解消された気もしたが、それでもなんだかなぁという感じではあった。

それは別に俺だけではなかったようで、とうのパティ本人たちもカーラジオから流れてきた"Horses"収録曲の音の弱さに愕然としたというから、そういうものだったのかと納得。

"Radio Ethiopia"は、エアロスミスやアリス・クーパーを手掛けたジャック・ダグラスをプロデューサーに迎えて音の強化を図ったアルバムだった。

Patti Smith Group / Radio Ethiopia (1976)
  1. Ask The Angels

  2. Ain't It Strange

  3. Poppies

  4. Pissing In a River

  5. Pumping (My Heart)

  6. Distant Fingers

  7. Radio Ethiopia / Abyssinia

スピード感ある1曲目から、オドロオドロした2曲目、そして左右と中央それぞれから詩の朗読とヴォーカルが飛び交う3曲目といったように、これがパティ・スミスであると言わんばかりの展開は、いま聴いても最高だと思える。ラストの10分以上あるタイトル曲の壮大さも忘れてはいけない。これで言葉が理解できれば最高なのだが。ちなみに、当時の日本盤LPの訳詞のところにはこんなことが書かれていた。

パティの詞は観念的で不条理なものが多いので意味の不明瞭な点はご了承下さい。

アルバム"Radio Ethiopia(ストリート・パンクの女王)"ライナーノートより

なお、このアルバムは俺の「心の名盤・10枚」のうちの1枚であり、それは今も変わらない。

さて、話を戻そう。
1987年の時点で手に入るパティ・スミスのアルバムはわずか4枚。なので俺は間髪入れずに3枚目の"Easter"と4枚目の"Wave"も入手した。すべて輸入盤のLPレコードだった。

Patti Smith Group / Easter (1978)
  1. Till Victory

  2. Space Monkey

  3. Because The Night

  4. Ghost Dance

  5. Babelogue

  6. Rock n Roll Nigger

  7. Privilege (Set Me Free)

  8. We Three

  9. 25th Floor

  10. High On Rebellion

  11. Easter

恐らくこのアルバムで最も有名なのはブルース・スプリングスティーンの曲である”Because The Night”を取り上げたことだろう。本人は乗り気ではなかったが、プロデューサーのジミー・アイオヴァンに勧められたとかで、結果彼女最大のヒット曲となっていて、それまでのややアンダーグラウンドなアート性と商業性がうまく融合したアルバムだと思う。

Patti Smith Group / Wave (1979)
  1. Frederick

  2. Dancing Barefoot

  3. So You Want To Be (A Rock'N'Roll Star)

  4. Hymn

  5. Revenge

  6. Citizen Ship

  7. Seven Ways of Going

  8. Broken Flag

  9. Wave

俺はパティ・スミスという人は性別こそ女性ではあるが、ロック・ミュージシャンとしては気持ちは男だったんだろうなと思っている。"Piss Factory"で「ニューヨークに出てビッグスターになる」と宣言し、アルバムを重ねるごとにそれが現実となっていく。

しかし、このアルバム"Wave"でパティは「女」になってしまった。元MC5のフレッド・ソニック・スミスとの出会いである。1曲目"Fredrick"は彼に捧げた曲だし、白いドレスをまとったジャケットや、インナーのはにかむような笑顔の写真がすべてを物語っている。このアルバムのあと、パティはフレッドと結婚し、引退してしまう。

そんなわけで、俺がパティ・スミスに最初に夢中になった頃は、過去のミュージシャンとして存在していた。もっと音源聴きたいのにと思いながら、これら4枚のアルバムを繰り返し聴いていたってわけだ。

しかし!ハタチの誕生日を迎えたあと、驚くべきニュースを知る。パティ・スミスが9年ぶりにアルバムを出す!と。ついにリアルタイムのパティを聴くことができると、期待でいっぱいだった。

つづく。

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