King Crimson / Starless and Bible Black
キング・クリムゾンの数多あるライヴ盤のひとつに、1973年11月23日はオランダ、アムステルダムでの公演を収録した『The Night Watch』というのがある。1997年にリリースされたこのアルバムは、CD2枚組で当日の演奏曲がほぼ全曲収録されているのだが、それ以前からこの日のライヴ音源はブートレグとして出回っていた。
この日の音源はラジオ放送用にミックスされていたらしく、80年代半ばにFM東京の「サントリー・サウンド・マーケット」という番組でオンエアされたものを録音したテープを持っていた。80年代、つまり高校生だった俺はまだどちらかというと『クリムゾン・キングの宮殿』のほうが好きで、ジョン・ウェットン、ビル・ブラッフォード、デヴィッド・クロス、そしてロバート・フリップからなる、いわゆる(当時でいうなら)後期クリムゾンはとっつきにくかった。だけどこのテープはしぶとく残り、20代でクリムゾンにはまるとむしろ後期クリムゾンのほうが好きになった。
その後、『Song For Europe』というブートレグのCDも手に入れた。ブートレグになっているのはどこかの国で放送されたものが出回っていたのだろう。持っていたテープとまったく同じ内容で、音も申し分ない。どうせなら正規盤でリリースしてくれないかなと思っていたらその数年後に本当にリリースされたのが冒頭に書いた『The Night Watch』だ。しかも曲が増えている。リリース日に買いに行って喜び勇んで聴いたが、何か物足りなかった。音が、俺が持っていたテープやブートレグのほうが好みだった。ちょっと音が洗練されちゃったかなと思ったのだった。
The Great Deceiver
Lament
We'll Let You Know
The Night Watch
Trio
The Mincer
Starless and Bible Black
Fracture
『Starless and Bible Black(邦題「暗黒の世界」)』はキング・クリムゾンが1974年にリリースした6枚目のアルバム。俺がクリムゾンを聴き始めた1989年前後において、このアルバムは即興演奏色が強いとか、そんなような評価がされていて、このアルバムに収録されているヴォーカル曲以外はライヴ音源であることはまだ言及されていなかった(もしくは単純に俺がそれを知らなかった)。それこそ『The Night Watch』がリリースされたことで、実は4のイントロと5, 7, 8アムステルダムでのライヴ音源だったというのが周知の事実となったと記憶している。
ちなみに3は1973年10月23日のグラスゴー公演、6は11月15日のチューリッヒ公演での音源だ。つまり、アムステルダムの音源がもっとも多く、『Starless and Bible Black』と『The Night Watch』は表裏一体のようなものに思う。だけど俺は前者のまるでアルバムのためにスタジオで録音しました風な作りが好き。だけどライヴを聴きたいと思うと後者になる。
要するに何が言いたいかというと、11月23日のアムステルダム公演は、キング・クリムゾンのライヴの中でも最高潮だったものの一つだったんじゃないだろうかということだ。ロバート・フリップもそう思ったが故にアルバムに音源を採用したんだろうし、FMブロードキャスト用にも使わせたのだろう。
そんな充実した演奏を収録したアルバムをして、少なくとも90年代初頭ぐらいまでは『太陽と戦慄』と『レッド』に挟まれて、評価もちょっと下だったと思うが、俺はその頃から一貫してこのアルバムこそ至高と思ってきた。とはいえ、俺がそう思ってきたのは単純に7, 8 の2曲が最高だからというそれだけの理由なんだけど。
もうひとつ付け加えると、当時学生だった俺にこのアルバムを薦めてくれたのは当時の英語教師だったクレメンツ先生だ。彼に宿題として日記のようなものを(英語で)書いて提出するというのがあって、そのなかで音楽話を書いたときに「クリムゾンを聴くならStarless and Bible Blackは必ず聴いたほうが良い」みたいなコメントをもらった。初めて聴くときもそのコメントを思い出していたし、いまでも覚えている。
歳をとって、ここ10年以上、クリムゾンは「重たくて」聴く気になることがほとんどなくなった。だけどたまに聴くならやはり『Starless and Bible Black』になるんだよね。そこから他のアルバムへ飛び火していくって感じで。
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