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人は変化の時に聴く耳を持つ

広島出身の広島カープファンなので、YouTubeなどを見ていても、ついついカープ情報に目がいきます。最近カープ系のある番組で、かつてのコーチをしていた人が、「入団直後など、自分に自信がある選手、調子の良い選手には、アドバイスは必要ない。相談してきた時、初めて『じゃ、一緒に考えようか?』と言ってやればいい」という趣旨のことを言っていました。このことばで思い出したのが、昔銀行時代に先輩からもらったアドバイスです。そのことを、昔ある雑誌に書いたので、内容を引用(一部変更)してみます。記事の読み手として想定していたのは、銀行や証券会社などで株式、債券、投資信託、外貨建投資商品などを売る現場で部下を持つ人たちです。皆さんの立場に置き換えて読んでいただければありがたいです。

<引用>
順風満帆のとき、相手は君のいうことなんか必要としてない
銀行員時代にあるHさんという先輩に教えてもらったことばであり、いまだに私の行動指針となっているのが、「人は変化の時に聴く耳をもつ」である。聞いたタイミングは、海外支店で新規開拓の仕事を任せられていろいろ工夫するものの、確かな成果が得られず落ち込んでいた時期だ。

「Hさん、頑張ってますが、新規も取れず既存先の取引も増えません。」
「戸田君。企業も人も、変化のときに、初めて聴く耳を持つようになるんだよ。順風満帆のときに、一生懸命いろいろ言っても、相手は君のいうことなんか必要としてないんだ。何でも自分の力で解決できると思っているから。」
「ではどうすれば?」
「『少し距離を置きつつ適当に付き合っていれば良い』いう人が多いと思うが、僕はそうは思わない。」
「はい?」
「状況がどうであれ、相手が受付けようと受付けまいと、相手のためになるような情報や提案を淡々と与え続けることだよ。順調なときは、そんなもの、かすかに頭の片隅に残っているかも知れないけれど。」
「なるほど。」

対処できない問題が発生して初めて人に話を聴く姿勢が出てくる
「でも、何の問題もないと誰もが思っていた会社が、ライバル会社が大ヒット商品を出してこれまでの優勢をあっという間に逆転された、ワンマン会社の経営者が突然亡くなり遺された者が事態にどう対応すべきか分らない。しかし、こんなことが起こるまでは、今の状況が永遠に変化しないと思ってしまうのが人の常だ。」
「私も、今の取引状況が永遠に変わらないと思っていました。」
「未来永劫取引できないと思って、電話もかけない、情報も送らない、訪問もしないとなると、本当に永久に取れない。」
「そうですね。」
「でも、『すぐに取引を下さいと申し上げているわけではありません。御社にとってお役に立つ情報だと思ったものですから、お持ちしただけです。』と言いながら、本当に相手にとって有効な情報を届け続ける。そうすると、面白いことが起こる。」
「どんなことですか?」
「忘れた頃に、相手から電話が掛かってくる。それも、とても丁寧な言葉で、切迫感のある声で。『変化の時』のサインだ。大きな売り先から取引をキャンセルされて、新たな売り先を開拓しなければ倒産するかも知れないなどという時期だよ。そんな危機には、自分のことを本当に思ってくれる相手だけに相談する気持ちになる。『自分のことを本当に思ってくれている』ことの根拠は、君がずっと出し続けた情報だ。そういう時は、懸命に助けてあげる。君は、その会社の恩人だ。」
「なるほど。」
「だから、今だめでも、あきらめずに、相手のためになることを言い続けなさい。お客さんとのコンタクトは続けることだ。そしたら、『変化の時』に、君に相談が来る。その時がチャンスだ。」

実は、ある見込み顧客にアプローチを掛けるものの、まったく相手にされない時期に、Hさんに相談したのですが、ことばをもらって、地道に情報を送ることをしばらく続けていました。

そしてある日、「戸田さん、お宅で貸出枠あるって言ってましたよね」という電話が、その見込客から掛かってきました。そして取引が成立したのです。先輩のことばが本当であったことを実感することができました。

困った時、まず相談相手として思い浮かべてもらえる者になる
H先輩のメッセージは、言い換えると「相手が困った時に、相談相手としてまず思い浮かべてもらえる者になれ。それには、相手の立場に立った情報を、信念を持って送り続けろ」というものだった。Hさんは、国内外の法人取引のプロだった。ここで想定される顧客層は法人だが、「人は変化の時に聴く耳をもつ」という言葉は、本誌の読者が携わっておられるリテール業務、コンサルティングをベースにした資産運用業務にもそのまま当てはまる。

株式や債券のマーケットが動いて、保有資産の価値が大きく減価する、市場が大きく円高に動いて大きな為替差損を抱える。このような、企業の多くがずっと経験してきたようなことを、投資商品を保有することで経験する人たちが増えている。特に銀行窓販開始以来、そうした人たちの裾野が広がった。そして、そのような顧客と日々接し、悩みを聞く銀行員の数も増えた。かつてなかったような市場の変化や、説明しようのない(ように思われる)価格の動きに、多くの個人顧客が恐れを抱いている。このような人々も、マーケットが好調な時は、自分の投資判断の良さを過信して、販売スタッフが良かれと思って提供するアドバイスに耳を傾けないものだ。しかし、自分の力や見識では、先が見えなくなった時に、顧客は誰に相談するのだろう。

それは、こちらから特に大きな取引を持ち込むわけでもないのに、継続的定期的に、マーケット情報や法改正に関するニュースを伝えてくる、あるいは関心のありそうなセミナーの案内をしてくれている販売スタッフだ。ものごとがすべて順調に行っているときは、気にもかけなかった情報が、危機が襲ってきて初めて遭遇する事態に出くわすと、ふっと意味を持つものに思えてくるのである。「そう言えば、確か○○銀行の□□さんが、あんなこと言っていたな」という風に。そして、そのアドバイスを改めて聴いてみたくなる。

地道に努力する部下を見守る
顧客が、良い情報を出し続けることのありがたさを身にしみて感じるきっかけとなる変化は、100年に一度や1000年に一度ではなく、明日にも起こる可能性がある。働き盛りの大黒柱の突然の死かも知れない。勤め先の倒産や突然の解雇、雇い止めかも知れない。大きな病気かも知れない。こうした時に、困った顧客が振り向く先にいる販売スタッフは、大変な努力家だ。役に立つ情報を集めるために投資するコスト、勉強に費やす時間、情報伝達のために、多くの電話を掛け、手紙を書いて送る手間。しかし、こうした中長期的な観点から真に顧客のためにする努力が正当な評価を受けることは、残念ながら多くない。「いつまで経っても取引が始まらないお客さんにサービスを続けるのは、時間の無駄!そんなことをやる暇があったら、いつも付き合っているあのお客さんに、この商品を売って来い。」現場でよく見られる光景だ。マネジメントは、毎期、毎月の予算達成にこだわらざるを得ない。

しかし、顧客本位の組織を本当につくることが、結局はみずからの繁栄につながるのだという意識はお持ちのはずだ。であるなら、優秀な販売スタッフの地道な努力をじっと見守り、その努力を積極的に評価し、間違ってもそれを妨げるような組織運営をしないで頂きたいと思う。むしろ、そういう努力を積極的に評価し、それが、他のスタッフにも伝播していくよう、奨励して頂きたいと切に願うものである。<引用終わり>

残念ながら、Hさんは最近他界されました。Facebookのアカウントは、未だにそのままです。

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