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「何番や?」:部下に緊張感を持たせる。

銀行勤務を16年半、多くの上司につき、多くを学ばせていただきました。今日の記事は、そのうちの一つです。

国際部門から国内の商品開発セクションに転勤となり、「これで俺の国際畑でのキャリアも終わりか」と少しがっかりしたのですが、後から振り返ると、このセクションでの仕事は、私のキャリアに対する考え方の土台を気づいてくれた、とても楽しく、有意義なものでした。

最初の印象として残っているのは、「公序良俗に反しない限りは何をやってもいいぞ」というS部長の言葉です。このことは、部の先輩であるFさんが、内館巻子さんの著書の中で語っています。(言葉遣いは、「社会正義と人類愛に反しない限り」となってますが)そうなんだと思いました。その言葉通り、この部では、箸の上げ下ろしにまで細かく指示を受けることなく、自由な時間の使い方ができたと思います。

次に、この部長について覚えているのは、毎回の会議の席での部長の口癖です。

「何番や?」(関西風アクセント。「なんばんや」の「ば」を高く発音)

部長室での打ち合わせの中で自分の案件を発表するのですが、ある事実についてその裏付けを問われることがあります。こんな具合です。

「戸田君、今君が言うたそのこと、誰から聞いたんや?」
「はい、〜銀行のTさんからです?」
すると、すかさず
「何番や?」という質問が来るのです。

打ち合わせは、応接スペースで車座のような状況で行われることが多いのですが、中心にあるテーブルの真ん中に会議用電話がおいてあるのです。「何番や?」という質問は、すぐにそのTさんの電話番号を確かめ、部長自身が電話番号を押し、直接電話にTさんを呼び出すためのものなのです。部長が電話で本人に裏付けをその場で取るわけです。超緊張の瞬間です。「Tさんから聞きました」の相手であるTさん張本人に部長が電話して、私の説明の根拠を問うのですから…

「あ、Tさんですか。〜銀行のSです。いつも戸田がお世話になってまして、ありがとうございます。」
「あ、いつもお世話になってます」
「ところで、Tさん。戸田が〜と言っており、それをTさんからうかがったと申しておりますが、本当ですか?」

打ち合わせではこうした場面がかなりの確率で発生するわけです。自分のいうことにしっかりと裏付けを取っておかないと、いっぺんで部長の信頼を裏切ることになります。部下の緊張はピークに。

部長自身が、裏付けをしっかり取ることに極めてうるさい(プロフェッショナルとしては当然ですが)人だったためですが、打ち合わせの場からすぐに情報ソースに電話を掛けさせる人は、この人が唯一でした。

こうした態度・姿勢をこのS部長から学びました。ついでに言えば、この態度の裏側には、彼の「いらっち」の性格があったと思います。その性格を引き継いでしまったせいで、家庭内ではよく家内と揉めますが…ま、いいか。(私の好きな作家、東海林さだおさんがよく使うオチです)

この部長、のちに貿易電器メーカーの事業開発担当役員として活躍されましたが、早逝されました。「いらっち」が災いしたかも。S節が懐かしい。

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