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ポルシェ乗りかインデックス乗りか

土曜日のお昼、北海学園大学で10数年前に受け持ったゼミ生のウオッチャン(旧姓ウオツさん)が夫のケンタさんと1歳半になる長男のキイチくんを連れて三鷹の我が家に遊びに来た。

これは、どうでもいいことなのだが、「ケンタ」と「キイチ」の語感がどうにも親子逆のような気がしてならない。僕も妻もついついご主人に「キイチさん」、長男に「ケンタくん」と呼びかけてしまいそうになる……というか、実際、何度か呼びかけた。

もちろん、ケンタくん……じゃなくて、キイチくんはもう1歳半なので、ウオッチャンは疾うの昔に育休から明けて、朝8時にキイチくんを保育所に預け、職場復帰を果たしている。外資系の自動車部品メーカーに勤めるキイチさん……じゃなくて、ケンタさんも、子どもは生まれるわ、今年6月には会社が新社屋に大移転するわで小さくない変化を楽しんでいる様子。ただ、目下一番の楽しみは来週、念願のスバル車がやって来ること。これまではもっぱらカーシェアだったのが、自家用車持ちともなれば、マンションの賃料の他に、近所に月3万円だか3万5千円だかで駐車場を借りることになる。シェアリングエコノミーとはまた一味違う経済圏に踏み出すわけだ。頑張れ、キイ千……じゃなくてケンタ!

さて、僕も嫌いではないクルマの話でひとしきり盛り上がるなか、ケンタさんが、

「独身の友人がすっかりポルシェにはまってまして……。給料を全部クルマに注ぎ込むんですよ。インデックスファンドにでも積み立てしてるような奴ならば、もうちょっとはモテて、(結婚の)相手も見つかると思うんですけどね」

と発言。そこに、隣りでキイチくんを抱っこしたウオッチャンもすかさず加担、

「私も結婚するんなら断然インデックス君」

とのたまうではないか。一瞬、「インデックスにほぼ全額出して質素に暮らすよか、ボクスターのホロ全開にして疾走する方がダンチで気持ちいいんじゃないの?」と韻を踏みつつ(?)ウオッチャンの言葉尻を喰い気味に反論。さらには、次の質問を畳みかけたのだった。

「うちの息子からも、つい先日、ほぼ同じようなインデックス積立話を聞かされたけど、クルマにしろ、洋服にしろ、道ならぬ恋にしろ……なんか夢中になれることに無茶苦茶カネや時間使ったな、バカしたなって経験こそ若さの特権なんじゃないの? ましてや独身ならば」

そこまで言って我ながらちょっと説教臭かったな、昨今のコスパ、タイパ指向に竿さしてしまったかな、と反省することしきり。すかさず「若いからそれやってもリカバーできるってもんで、僕がいまそれやったらタダのバカだけどね」と可愛くおちゃらけてみせたのだった。

インデックス投資とは、つまるところ、「株式投資」というそもそもが不確実な未来予想を、一つの会社に賭けるやり方(個別株投資)や、顔の見えない一人のファンドマネージャの裁量に委ねるやり方(アクティブファンド投資)ではなくて、業績の好調な会社を束にしたセットメニュー(インデックスファンドの投資信託)にベットする方が合理的という、比較的新しい方法論の上に成り立っていて、とりわけ若い人たちに絶大な人気だ。

実際、例えば、全米の投資ファンドの9割が15年経てばインデックスファンドに負けていた、ということが判明しているのだという。株のプロ中のプロがどんなにタイミングを図って狙っても、サルがインデックスファンドに投資してタイムを稼ぐ(長期に寝かす)のに負けてしまう、というわけだ。

つまり、若い頃から有り金をインデックスファンドに積立投資するということは、投資で理想とされる「長期・分散」のセオリーにまったくもって合致している。なので、若い息子やケンタさんのインデックスファンド積立を、奨励こそすれ、ディスる立場に(若くない僕は)まるでないのである。そのことは重々分かった上でなおも言いたい。「若いからこそ、ポルシェ乗りに憧れ……憧れ高じて所有してしまう特権があるんじゃないのか」と。

若いのに無理してポルシェのマカンやタイカンを買うより、若いからこそ無理せずインデックスファンドのオルカン(全世界株式)にコツコツ積立投資する方がいい、これはある面、真理である。僕も、時間を巻き戻せるものならマカンよりオルカンを買ったやもしれない(あ、いや、マカンも買ってはいないのだけど)。

ただ、正しい金融の知識を養うことは大事は大事だとして、若いうちは投資する側ではなくて投資される側、すなわち型破りな発想や類い稀なる行動力で人々をわくわくさせることの方を目指すべきでないのか。ちまちまと投資することに興味を持つワカモノより、投資家に興味を持ってもらえるワカモノたれ、といいたい。

もっとも、個人投資家も、実は事業家のビジョンや経営リスクのいったんを分割的に引き受けているという意味において、広い意味ではアントレプレナーであり、リスクテイカーなのである。ならば、若い個人投資家たるもの、長期・分散・ほったらかしが基本のインデックス投資にばかり注意を払うことなく、生き方に共感を覚え、社会を変える気概を備えた、同じ若い世代の社会起業家を発見し、応援し続けることの方がはるかに刺激的なのではないか。

若くしてポルシェに乗らんとするのも無謀なら、「インデックス乗り」もなんら元本保証はないわけで、究極には「無謀さ」の面では五十歩百歩なのだと思う。同じ無謀なら、乗ってわくわくする乗り物に乗ろうよ、とこれからなににでもなれるケンタくん……じゃなかったキイチくんには声を大にして言いたい。








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