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「AI並みの革新」量子コンピューターの入門書

Googleの開発チームがスパコン超えの「量子超越」を宣言し、にわかに脚光を浴びた量子コンピューター。人工知能(AI)と並ぶ注目の新テクノロジーだが、人間の知性とのアナロジーで威力や脅威が想像しやすいAIと違い、量子コンピューターは「何が何やら分からない」という方が多いのではないだろうか。

私は、ガチガチの文系人間のくせに昔から理系本が好きで、その延長線上で量子コンピューターに関する入門書や解説書も何冊か読んできた。
そのなかで、群を抜いてわかりやすかったのが、この『いちばんやさしい量子コンピューターの教本』(インプレス)だ。

『いちばんやさしい量子コンピューターの教本』インプレス 湊雄一郎/著

書名の「いちばんやさしい」という売り文句を支えるのは、豊富な図版だ。「教本」と銘打つだけあって、主従で言えば、図版が主であり、それを参照しながら解説文が展開されている。

分かりやすさのアドバンテージを生んでいるのは、「実用書」であることだろう。
量子コンピューター関連の書物は、理論に偏りがちで、ともすると量子力学の解釈論や稀有壮大な未来予想図に話が飛んでしまう傾向がある。それはそれで知的刺激を受ける読み物としては面白いのだが、本書は「現実の問題解決にどう量子コンピューターを活用するか」という地に足のついた視点から離れることがなく、話が「物理の世界」に飛んでいって読者が置いていかれることもない。

それでいて、従来のフォンノイマン型コンピューターとの違いや、「ゲート型」と「アニーリング型」の演算の原理や独特のアルゴリズムについて、勘所は押さえている。
一部、実際の活用方法などの部分は専門家向けだが、それ以外の大半は根気よく図と解説を追いかければ、「今後、量子コンピューターが社会にどんなインパクトを与えうるのか」を具体的にイメージできるはずだ。

最後に今回のGoogleの「ライト兄弟の初飛行に匹敵する」と自賛する成果について私見を少々。
今回のプロジェクトは、乱数という、ほとんど定義的に量子コンピューターが優位なテーマを選んでデジタルコンピューターを出し抜いた「作戦勝ち」とでも言えるものだった。それでも、その達成は素晴らしい一歩だ。

ただ、本書も指摘するように、量子コンピューターにはまだ超えるべき技術的困難が多い。まだ量子コンピューターは「局地戦」で優位な武器でしかない。AI脅威論のように、「夢の計算機」への期待や不安がバブルのように膨らむのは好ましくないと考えている。

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ご愛読ありがとうございます。
本稿は光文社のサイト「本がすき。」に12月20日に寄稿したレビューです。編集部のご厚意でnoteにも転載しています。

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