六本木 STB139と吉田美奈子 -2007- 僕と音楽と⑵
アマンドの交差点から、芋洗坂を少し下った右手に、そのお店はあった。
入口のステップを上がり、中には入らずに、左手の小さな門を潜るとテラスがあり、ここで開場を待つのだが、寒い冬にはストーブなどが焚かれ、入場待ちさえ楽しくさせてくれたお店だった。
常として恋はいつか終わりを迎えるが、最初は訪ねる場所が欲しくなる。音楽好きの僕は、こうしてライブハウスに戻って来た。
ライブハウスと言っても、シュガーベイブを聴いた下北沢や荻窪のロフトとか、吉田美奈子を聴いた六本木のPit Innとは様変わりしていて、STB139スィートベイジルはお洒落なお店で、何より美味しいレストランだった。そして1階のレストランフロアとは違って、2階には隠れ家にふさわしい、お洒落なブースがあった。
南佳孝、寺井尚子、Stylistics、あのNelson Super Project、なんでもござれだった。ところが隠れ家から、此処がいつも吉田美奈子を聴く場所となる。
久しくライブから離れていた90年代、1996年12月19日、渋谷公会堂で吉田美奈子を聴いた。前後4年間でライブはこの夜しか聴いていない。美奈子はVISION、2、3、4と映像作品を残すがその最初の作品に当たる頃で、keys.は難波さんである。
それから6年後、2002年4月18日、PONTABOX meets 吉田美奈子という顔ぶれで、これも今は無くなってしまった青山円形劇場の最前列で美奈子に再会する。
そしてその年の11月30日、東京キネマ倶楽部で遂に、吉田美奈子& THE BANDに出逢い、僕はこのバンド編成の美奈子にハマるのである。この頃の演奏はVISION 2に残されている。
翌2003年7月13日には、岩見沢キタオンというオープンエアでの演奏を聴きに北海道へ飛ぶ。
そして翌月の8月11日、12日とSTB139で初めて、吉田美奈子& THE BANDを聴く日々が始まるのである。
因みにこの3日後の15日は、宜野湾海浜公園野外劇場でMISIAを聴きに沖縄へ飛ぶ。ライブという熱病の始まりである(笑)
吉田美奈子& THE BANDはこの後、12月、4月、8月と四季それぞれの演奏を、STB139で2days、3daysと、毎年繰り広げることになる。
2004年の美奈子は実に活動的で、6月23日には品川協会で倉田信雄とのDUO、11月5日、6日には村田陽一とのブラスセッションという素晴らしい演奏を聴かせてくれ、幸いなことにそれぞれVISION3、4として残してくれた。
四季ごとにSTB139に通う年が続き、忘れられない2007年7月6日がやってくる。
YOSHIDA MINAKO & THE BAND "THEN?" @ STB139
吉田美奈子(vo.)岡沢章(b.)土方隆行(g.)倉田信雄(p.)河合代介(org.)成田昭彦(ds.)
いつもの、お気に入りハコでのお気に入りのライブ、のはずだったが、この夜は特別な夜となった。
美奈子は黒の上下、白のブラウスにシルバーのネックレス。
ほんとに久し振りの"graceful rain"から始まり、おなじみの"crow"。
いつだって上手い美奈子だが、今日は久々に伸びやかに、丁寧にコントロールが効いている。
僕の大好きな"mistic paradice"、そして"termination"。
Eric Claptonのfanは、いつでも上手い彼のguitarが、神がかる日があるのを知っている。
前年の11/30の武道館がそうだった。だから何度も足を運ぶ。美奈子も同じ。
そして次は、なんと"sunset"。80年のMasterpiece"MONOCHROME"から20余年ぶり。僕の青春の一枚だ。
前半の最後はこれも久し振りの"precius"。
美奈子の音はFunkだったりSoulだったり、でも今夜は本当にRockしている。
後半は「ちょっと大人になった」(と本人が形容した)"town"と"fun!"。
そして次のslowで美奈子の口から聴こえてきたのは「密かに逢った~♪あの日の二人♪」!!!
"時よ"
名曲があるのです。僕の一番好きな曲。
もう一枚の傑作「愛は思うまま」に、また達郎も昔よくliveでは演ったので
達郎の「It's A Poppin' Time」のpit-innでのlive albumにも入っています。
美奈子20才にして書いた名曲です。Soulには多い、大人の恋の歌です。
20才の彼女に何があったのかは知りません。でもこの歌が書けたのは凄い。
僕がこの曲の凄さを知るのはもっとずっと年輪を重ねてのことだったから・・
この曲は彼女の最初の映像作品VISIONで、95年の演奏が聴けますが、DVD化されていません。
そしてその時以来、封印されていて?、僕はもうこの歌を聴けることはないのだろうと思っていました。
(実際には、前年12月の倉田さんと河合さんとのCUBEで歌った、と言ってました。)
続編だと言って、"少しだけ"を歌ったあと、
美奈子が「私、今日明るいでしょ?明るくない?」
そう最初から今日の彼女は輝いているのだ。
「avexを辞めました」
次の作品の出す予定がなくなったということだから言いにくかったらしい。
でもいろいろあって、解放されて、すっきりしたのだという。
今日のすっかり違う彼女の姿は、その伸びやかさにあったわけだ。
"rim"、"beyond"、"temptation"と、主役が復活すると、凄腕のメンバーの演奏も一味違う。
encoreでサラッと歌う歌と違うと言われたといいながら、"cascade"
この想いのある限り
過去に還る必要はない
あの場所は未来だから
目指す場所が未来だから
日々の泥濘に
足を取られても
停められない思いは誰も
咎めることなど出来ないと
今その流れのままに
その心の成すままに
深い森の中にある
強く落ちる滝のような
2011年3月11日、東日本大震災、僕はその時、青山に居た。
その夜もSTB139では、美奈子を聴くはずだったけど、
青山から六本木に廻って訊ねてみたものの当然中止。
僕は多摩川越えの帰路に歩き出していた。
2014年5月25日、僕に15年近い想い出を残し、STB139スィートベイジルは閉店した。
休業とのことだったけど、跡地には今ホテルが建っていると聞く。
本日の一曲
吉田美奈子「時よ」
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