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また会える日は

 ホームまで迎えに来た父親と弟がぼくに向けた憎しみに満ちた視線をかいくぐるようにして、彼女は、ぼくを辛そうな目で見つめていた。彼女にはどうすることもできないのだ。彼女を家に帰すと決めた時から「二度と、二度と」とぼくは心の中で繰り返していた。二度とぼくは君に会えないだろう.ぼくにも彼女を奪い取る力はなかった。無力だった。彼女の父親や弟の憎しみの視線から全身に浴びている屈辱に必死に耐えていた。彼女はぼくのものだったんだ。それを、こうして返しているじゃないか。彼女はまだぼくを見てい

    • 教会

      教会 ばあちゃんは「もう教会には行かん」と怒ったように言った。いい機会なので、はじめての挨拶方々顔を出す気になっていたのに、とは私は言わなかった。ばあちゃんとは,私の母のことである。他の呼び方はどうもしっくりこない。 ところが翌日,迎えの人が来ると「いつもいつもすみません」とか言いながらそそくさと出かける用意をはじめた。私は慌てて「私もよろしいでしょうか」と迎えの人にいうと,一瞬,困惑したた表情が走った。「長男の豊です。いつも母がお世話になっています」と初対面の挨拶をする