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目で見て口で言へ「水焔の泡沫」

目黒の蟠竜寺で人形と三味線とダンスによる「水焔の泡沫」を見て来ました。

舞香花(もうかばな)
たった一夜だけ咲き、夜明けと共に散ってしまう幻の花。
江戸の下町に暮らす独り身の又兵衛は、金魚を売って暮らしていました。夕刻、金魚瓜から家に戻り、木桶の中で無数に泳ぐ赤い金魚たちを眺めるのが、又兵衛は好きだった。
ある日、その金魚たちの中で、一匹だけ不器用な泳ぎをする金魚がいることに気がついた。又兵衛は、その金魚をそっと掬い上げ、金魚玉に入れました。又兵衛は金魚に、ずっと長生きするようにと、「千年(ちとせ)」と名付けました。
金魚の千年は、天秤から移し替えられる時、初めて又兵衛に触れました。温かくて優しい。その夜、千年はもう一度又兵衛に触れてほしい一心で、金魚玉から飛び出してしまいます。丑の刻。千年の念は、ひと夜限りのヒトガタとなった。
再び又兵衛bpに触れることが出来た千年の魂は花となり咲き、散って行きました。水面に浮かぶ千年の花びらは、美しい泳ぎの如くどこまでも静かに流れていきましたとさ…
金魚売りと金魚の化身の恋物語を、等身大の人形や面を遣って上演致します。

コロナ禍の中で様々模索しつつ出来たという綾乃テンさんの新作がもうとにかく素晴らしくてーー自らに触れた金魚売りへの思いからヒトガタに変化した金魚(とても可憐!)の舞いも、夜明けが近づいて金魚に戻りかけて行くという更なる変化の様子も、金魚に完全に戻ってからの仕掛けもーーこちらの貧弱な想像力を遥かに越える高みに構築された物語世界でした。

ワタクシは年々歳々人と人の間の恋物語というものには本当に心動かされなくなっていて、それはたぶんにワタクシの人間としてのダメな部分のひとつなのではないか、と思っておりますがーーことそれが人と人ならざるモノとの間の交流となるとーー他愛無くぐっと前のめりになってしまいます。この「舞香花」という物語は、そういう意味では本当にどストライクなのでありました。

最初に登場したの斎藤麻里子さんの「Requiem」はとても静謐で、お寺の仏様の像の前ということもあって森厳な感じで、中盤起こった地震(といっても、天井の飾りが小刻みに揺れだしたので気付いたのですが)も演出の一つなのかな、と思ったくらいです。コンテンポラリーダンスの魅力はワタクシのようなまったくの門外漢にはどうにも言葉にしにくくて、単純に好き嫌いの表明になってしまうのがどうにももどかしいです。

続いて五錦雄互さんの三味線は、太棹の力強い疾走感を存分に感じられて、そのスピード感に酔いしれました。まずその早弾きで圧倒されたあとーー隅田川の花火に関する歌入りの演目は、またガラッと変わって江戸情緒と夏らしい感じが面白かったです。

演目の合間の蟠竜寺副住職のお話、お寺でこのようなパフォーマンスをされているということも含めて非常に面白いものでした。

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