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ひなたをクールな元カノでいさせてくれてありがとう!『カムカムエヴリバディ』第22週の「おわ恋」

終わった恋、略して「おわ恋」作品に注目し、よきおわ恋に出会ったら記録しておくためのnoteです。NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』第22週について。

『おちょやん』で書いたことがあります。朝ドラはおわ恋の宝庫ですね。

カムカム、大詰め

『カムカムエヴリバディ』も、とうとうあと1週を残すのみとなりました。『おかえりモネ』に夢中になりすぎて『カムカム』はスルーしかけてたんですが、たまたま見たのが安子と稔さんの文通で構成された第6話。淡々としながらも豊かな情感に魅了され、そこからは欠かさず視聴し続けています。

正直、カムカムは乗り越えてきた感が強いです。
安子編の終盤がマジでつらくて……。もちろん、見応えはあるんですよ。すべてのキャラクターが人間だった。そう信じられた。固有の人生と感情を持つ人間が、悪気なく生み出す悲喜こもごもを見せてもらった。
でも――じゃないな。だからこそ、岡山の幸せな女の子だった安子が荒れ狂う時代と生まれたての自我に翻弄され、もっとも大事な存在を手放すまでを克明に描かれて、見ていただけの私も深い傷を負った気分でした。
それでも毎朝テレビの前に座り続けていたのは、これが三世代の女性たちが紡いでいく100年のファミリーストーリーだとわかっていたからです

人生にはどこにも回収されないエピソードばかり。伏線回収に囚われすぎるのは物語の豊かな機微を見逃してしまう損な行為だと思いますが、正直、カムカムに関しては思ってました。「この気持ち、後でなんとかしてくれるんでしょうね……!?」って。
“それぞれの人生と思いがきちんと描かれれば安子とるいの邂逅はなくてもいいのだ”、という大人の感想を見かけて(……嫌だね!!)と鼻息を荒くしたことも。

そんな小せぇ私も第22週が終わろうとする今、すっきりと軽やかな気持ちで画面を見つめています。
算太が再登場した第20週、岡山に戻ったるいとひなたがそれぞれ不思議な瞬間を過ごした第21週でかなり浄化され、ご褒美のターン。
安子の老年期は上白石萌音ちゃん自身に演じてほしかったんよ……とか思うところはあるにせよ、毎朝楽しく視聴しています。
そんな中飛び込んできたのが、ひなたと文四郎のおわ恋でした。

文四郎とひなたの10年

安子に自転車の乗り方と英語を教え、新しい世界に導いたのは稔さんでした。トランペットを失い、ふたたび暗闇に包まれたジョーを導き、守ったのはるいでした。
三世代目のひなたと文四郎はというと、出会ったときからずっと同じ場所に立ち、同じ方向を見つめていました。未熟で失礼なのはおたがいさま。お似合いのふたりだったと思います。

時代劇を愛するひなたは、同じく時代劇を愛する文四郎の夢を応援することが自分の夢だと信じるようになりました。
でも、文四郎の人生は文四郎だけのもの。ひなたのものではありません。疲れた文四郎が夢を諦めることを許さなかったひなたは「俺には眩しすぎる」「傷つけたくないし、傷つきたくない」と別れを告げられる。

ひなたの道を望まれた女の子が、眩しすぎると拒まれる展開の皮肉さ。
『あさイチ』で、博多華丸さんが「傷つけたくないって言われたらハア?だけど、傷つきたくないって言われたら何も言えんね……」と話していたのが忘れられません。いやほんと、その通りだよね……。

好きな人を追い詰めていたショックに打ちひしがれるひなたでしたが、ここから時代劇を救いたいひなたの、ひなただけの夢への道がはじまったんです。
何をやっても続かないひなたも岡山での不思議な経験を経て、地道にこつこつ学び続けられるようになりました。すごいよ!ひなた!

めっちゃかっこよくなった元彼との運命的な再会

10年の月日が経ち、37歳になったひなたの前に現れた、ハリウッドのアシスタント・アクションコーディネーター、Bun Igarashi。

It's fate, isn't it?(これは運命じゃない?)と盛り上がるひなたの気持ちはおいといて、(文四郎、ぜんぜんひなたの近況気にしないな……)と思っていたんです。案の定の「結婚するよ」「誰と?」「デイジーと」ですよ。あー、やっぱりね!

そんな話ならわざわざバーに呼び出すんじゃねぇ紛らわしい! と文四郎を糾弾する声に深く頷きつつ、私が真っ先に思ったのは「ひなたの下心がバレてなくてよかった~!!!!」でした。
どうですか? 10年ぶりに会った元彼に自分だけが「あわよくば…」とか思ってたの知られたくなくないですか? 私は絶対嫌です。死んでも嫌。

ひなたが一切恥をかくことなく、すべて胸の中で納められたのは、「めっちゃかっこよくなってへん!?」な元彼に惹かれていたことを、本人はおろか、母や友人を含めた周囲の誰にも明かさなかったから。
相談したアニーにも相手が文四郎だとは言わなかった。もし話していて、アニーが文四郎とデイジーの仲を知っていたら? いたたまれない空気が流れたでしょう。

大人の分別があってよかった。積み重ねた時間と経験はここでも生きた。……けど、ひなたのパーソナリティーを考えると、話しちゃう方が自然な気もしたんですよね。

考えてみれば、文四郎が「決まった相手がいないなんて、ひなたはまだ俺のこと好きなのかも……」なんて考えなかったのも救いでした。
そんなこと思いつきもしないほど今のひなたは輝いているのだ、という作り手からの優しいメッセージでもあります。
そう、優れた物語に触れていると忘れがちだけど、物語には必ず作り手がいる……。

大月ひなたと藤本有紀

ひなたは1965年4月4日生まれ。調べてみたら、脚本家の藤本有紀さんは1967年12月29日生まれ。ほぼ同年代なんですね。
ひなたがクールな元彼女でいられたのは、同じ時代を生きた女として藤本さんがひなたの運命に手心を加えてくれたおかげ――というのは考えすぎでしょうか。

なんにせよ、再会したら平常心ではいられない元恋人が思い浮かんでしまう、今のひなたと同世代の私が伝えたいのはこれだけです。ひなたをクールな元カノでいさせてくれてありがとう!! ひなた!かっこよかったよー!!


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