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ジョブ型に備える

最近、新しい雇用形態について話題にすることが多くなってきました。今までのメンバーシップ型雇用では限界がある。新卒一括採用、年功序列、終身雇用で定年退職といった形態が古くなりつつある。雇用主と労働者との暗黙の労使協定ではうまくいかなくなった。いろいろな疑問もあるでしょう。そこでにわかに話題になるのがジョブ型雇用というものです。

はじめに

このブログでは就職を考えている大学生の皆さんに向けて書きます。大学生の中でも経済学部および工学部に所属していて金融、コンサルティング、商社、あるいはIT企業に勤務しようとしている皆さんです。大学時代に専門的なことを学んでフィンテックや電子商取引の分野で活躍したいと考えている学生です。

そういった大学生を対象にする理由は、わたくしが25年間、似たようなことを会社でしてきたこと。そしてつい最近まで大学教育を通して就職支援を兼ねて、経営学の授業を担当していた背景があります。

大学教育では、ジョブ型雇用の準備はよほど覚悟しないとできません。というのは、大学ではどれだけ学んでもせいぜいできることは、大学といった研究・教育機関で研究者になることくらいです。企業というのは、研究者たちのように分析をして論文を書くのではなく、実務をするところです。

ではどうしたらいいか。ジョブ型雇用になるとどんなことが起こるのか。そこを理解しておく必要はありそうです。わたしのエピソードを交えながら書いてみます。ただし、わたしの企業勤務は2010年まで。10年以上前のことを書いています。そのため、実際の現場で起こっていることは、現役のひとに聞くほうが正確です。そこはことわっておきます。

内容としては、3つのことを書きます。ジョブ型とは何であるかを簡単に紹介して、仕事のやり方がどうなるか。パフォーマンスするためにはどのような能力(スキル)を備えなければいけないか。そしてそれがどう評価されるのかということです。やり方、労働の中身、そして評価の順番です。それから大学生が今できることについて書きます。

作業単位で働く

まず、ジョブ型とは何なのかということです。この定義は、それを言い出した人やそれに詳しい人たちを参考にしてみます。もいろいろ出ています。わたしの解釈では、ジョブ、すなわち仕事を軸に雇用をされて働くことです。この仕事をするというのは、作業単位(タスク)にまで細かく落とし込んで働くということです。

ストレートにいうと、(これはシンプル化してはいけないのかもしれませんが)、経営コンサルタントのように働くということです。どういうことかというと経営コンサルタントというのは、通常、タスク、つまり、30分単位くらいに業務を細かくしてなにをするかを意識して働いています。ところが、ほとんどの事業会社に所属する正社員(サラリーマン)は、自分の仕事をそのようにはしていません。まず、自分の仕事が何であるかを定義できないことすらありえます。なぜなら、やってきていないからです。

自分の仕事は何であるかを定義することからスタートです。それを定義した後に何をするのかを書き出す。それがすること(To-do)リストで、まとめたものが職務記述書になります。ですのでジョブ、労働を作業単位(タスク)で表したものになり、それをなるべく効率的にこなすために技(スキル)を身に着ける必要があります。これは簡単ではありません。

スキルは職務記述する必要はないでしょう。また、期待効果(成果)を記述したものではない。その仕事をするために何をするのかです。何をしなければならないか。行動でわかることばで書くことです。形式としては、~を~する、といった表現になります。

経営コンサルタントというのは、必ず1週間単位で成果を出すためにすること(To-do)リストとつくります。同時にスケジュール表をつくります。リストには、タスクの流れ(作業工程)が記述されており、スケジュール表には会議や面談(インタビュー)をいれていきます。他のことを書きません。

というのは、会社での仕事(労働)につかう時間というのは、作業をしているか会議に出ているかのどちらかです。それを朝9時から夕方5時までします。他のことをしている時間は無駄に過ごしているだけであり、している暇はありません。

無駄にしていたら、顧客に対して時間当たり10万円は課金できないでしょう。プロジェクトの中で働くというのはそういうものです。コンサルタントはプロジェクトを前提に働きます。そのプロジェクトはほとんどは、顧客、(あるいは事業会社の場合は勤務先)の企業戦略(HOW)を理解し、そこから担当の事業部門の戦略(HOW)を理解しておく。そしてその事業の業績、つまり財務諸表(BS、PL、CF)の改善に貢献するということです。

自分の仕事は、勘定科目のどこにインパクトを与えるのか。そのためにどれだけの時間を使って何をするのかです。

やったことのないのにそんなことできるわけないという意見もあるでしょう。しかし、ジョブ型雇用というのはそういうものを前提としています。周りのひとのアウトプットから想像するしかない。プレゼンテーション、ファシリテーション、モデレーション、パネルディスカッション、そして時間管理、それらの形式面から得られるアウトプット(成果物)は何か。それが業績にどう貢献するかです。それ以外のことは労働ではなく、会社でする必要はありません。

わたしも30代の後半にコンサルティング会社(カート・サーモン、現在はAccenture Strategy)に勤務をしはじめたときに痛感しました。周りのコンサルタントの仕事をするスピードと品質になかなかついていけません。ですので、3ヶ月くらいはぼろぼろになり、途方に暮れてます。慣れてこないと1年くらいはぐったりとなり、週末は小さい子供と寝ているだけとなります。

作業分解構成図

ふたつめには、どうやってジョブ型雇用に備えるのか。そのためにどのようなスキルを獲得するかです。これには社会人大学院による形式教育(MBA)や企業研修といったものがあるでしょう。ここでは、わたしの外資系企業におけるエピソードをご紹介しましょう。

外資系企業では、基本的には研修はありません。また、あったとしても実務にはほとんど役には立ちません。これはどういうことでしょうか。まず、投資銀行の調査部門で働いていたころのことです。エコノミストの上司の下でコンピューターを使って計量モデルを開発・メンテナンスするという仕事でした。わたしは当時、統計学の知識がなく、会社内にもそのような研修はありませんでした。

そこで自分で探しました。本を読み、四谷にある日米会話学院の中に授業があったのです。そこで経営に特化したテーマがあるのを探し出して、自費で経営学の授業を受けていました。当時、アメリカで教えている統計学を都内で学ぶことはかなり難しい。それでも探し出して、なんとか土曜日に通って学びました。そのうち、数科目は、会社から研修費用として出してもらうことができました。それでも外資系は基本スタンスとして時間をかけて育成するということはしません。

自分で本を買ってきて学び、週末に形式教育を受ける。朝から晩まで仕事をして、そして上司から教えてもらってなんとかやれる程度です。

また、アメリカの経営大学院(MBA)から帰国して、日本コカ・コーラで働き始めたころの話です。30代の前半には、研修を兼ねて2週間、ジョージア州アトランタに行きました。そこでは、ロジスティクス・プロジェクトと称して、各国の物流構想実現プロジェクトを代表するひとたちが集まりました。ヨーロッパ、アフリカ、アジア、そして北米から8名程度集まり、徹底的にコカ・コーラビジネスの物流ネットワークを見直すというものです。

ところがこの2週間では、経営コンサルタントのような働き方をするひとはほとんどいませんでした。各国の会社職員に構想概要をプレゼンテーションするということだけで終わってしまいました。実務に必要なのは、どのようなデータを収集し、どのようにシステムにアップロードしていくのか。仕事の9割を占めるデータ入力作業は体験学習しなかったのです。

帰国してやってみるとこのデータを集計し、アプリケーションに入力していくのが簡単ではない。それどころあデータを準備する前の工程である、いくつかのシナリオづくり、それらに沿ってシミュレーションをしていくのができていないといけない。その結果を報告書にまとめる。これは、仕事をする前に作業分解構成図、通称WBS(Work Breakdown Structure)ができていないと仕事にならないのです。そして作業(タスク)が時系列に表現されてないといけない。当時、あれをわかって仕事をしているひとはいなかったのではないか。

それがジョブ型雇用の仕事であり、そのための作業(タスク)はなんなのか。時間どおり終わるように記述されていることです。ところが、時間通りにできることはめったになく、どのような問題が実務で発生するのかといったことは想像できませんでした。効率よく仕事をするというのは、最終アウトプットに向かって、どれだけ細かな問題を解決できたかです。

結局は、渋谷にもどってきて、社内の人に聞くか、自分でマニュアルを読む、アトランタの人にメールか電話で聞いて解決していくしか方法がありませんでした。ですので、アトランタ本社が研修で用意したものだけでこなせるわけではない。そういうことがわかってきました。形式教育や企業研修を受けても、現場で発生する問題を克服しないと仕事にならない。現場のノウハウがあれば、それを活かしたほうがいいでしょう。

評価と給与

最後に評価はジョブ型でどうなるのでしょうか。仕事の定義ができて、作業工程(タスクの流れ)を明確にした。上司と会社に共有ができている。そしてやることを忠実にやった。概ね、予定どおりにできた。通常であれば、会社の業績は上がり、評価は上がるはずです。その結果、昇給が期待できるはずです。ところがこのジョブ型というのは、あくまで仕事(ジョブ)に給料が関連付けられているため、大幅な昇給にはつながりません。期待はずれというのがあります。

これはどういうことかというと、経営コンサルタントという職種を考えると何かしら見えてきます。コンサルタントというのは、30代に最も活躍できる仕事です。体力、知力、精神力が充実し、プロジェクトにおいても活躍できる期間です。その頃が一番給料が高くもらえるということです。おそらく、25~45歳くらいまでの10年間が最も稼げる期間になりましょう。

働き始めて3年くらいは、仕事を覚える期間。失敗をたくさんしながら、とにかくチャレンジしてやってみる。そして周りのフィードバック(反応)を確かめながら、なにが得意なのか、何が苦手なのかを見極めていく。3年くらいは、ひたすら週単位のやることリストをつくり、汗をかく。どんなひとでも30歳までの8年くらいかければ、おぼろげながら、何が得意で何が得意でないかがわかってくるようになります。給与をもらいながら長い試用期間、働けるのはラッキーでしょう。

しかし、45歳、おそくても50歳くらいになるとそれほど給与は支払われなくなる可能性が出てきます。わたしが働いたことのある総合商社では、55歳に達すると前年の年収の6割程度になってしまうといいます。前年の税金を支払うだけでも大きな負担になります。ですので、50歳くらいには、ローンも終了し、子供も成人すること。給与は夫婦でささやかに使えるおこずかいくらいにしかならない。そう考えたほうがよさそうです。

ジョブ型雇用というのは、いっぱい働いて、ある程度稼げる期間は、20代半ばから45歳くらいまでの10年でしょう。その範囲の外では、お金をたくさんもらえるとは限らない。途中で仕事が変わり、なくなれば、解雇・リストラの可能性が出てくるということです。

解雇・リストラというのは、わたしには経験がありますがとてもつらいものです。ローンは残っている、一方で、仕事もやりがいを失う。まだやれるのに会社都合でやめなければならない。なにをしたらいいか。転職しかありません。ところが転職はしましたが、1度しか成功しませんでした。その成功というのは、やりがいが増え、自分が得意とすることができ、そして給与が増えることです。経営コンサルタント以外の転職は、ほとんどが失敗に終わりました。

いまできること

大学生の皆さんはどうしたらいいか。授業124単位を取得して、いい成績で卒業をすることは前提にします。なるべく授業では、役に立つものをとっておく。問題解決をする授業をとっておく。経営コンサルタントというのは、企業の課題解決をする仕事です。課題を克服していかない限りは、成長や変化はないでしょう。

経済学部であれば、フィンテック、工学部であれば、電子商取引(e-commerce)は成長が見込まれています。また社会課題を解決するオンラインイベントに参加しましょう。

例えば、政策大学院が主催するオンラインイベントで破壊的イノベーションの紹介があります。また、HBS は、サステナビリティ・シリーズとして社会課題を解決するイベントを定期的に行っています。また、多摩大学が識者を招いて社会的投資をシリーズで紹介しています。

こういった組織が背後にいるオンラインイベントは日頃から関心を持って参加しましょう。一般に公開されています。大学生の皆さんへは、参加に前向きではなかったのですが、ジョブ型に備えるとなると話は別です。そこで問題意識を高め、何が問題なのかという問いを見つけましょう。

組織が背後に控えていなくても有志のひとたちが集まり、定期的に経営コンサルタントを招いてネットワーキングをしているイベントもあります。ニューヨークに勤務するビジネススクール卒業生(MBA)が主催するNY MBA日本人の会があります。そこは、第四土曜日の午前中2時間のイベントがあります。また、東京経済政策研究会(TSEP)というグループがあり、そこでは、課題本の紹介があります。大学生は懇親会には参加する必要はありません。むしろ、参加しないほうがよいです。

そこではいろいろな問題意識を高め、企業の課題解決をするための関心を高めることです。のちのちに自分の活動(行動)が企業の現場で活かされなくてはいけません。

大学生の皆さんは、日頃、こんなに時間があってなにをしたらいいかという疑問があるのかもしれません。しかしながら、ジョブ型雇用になっていくとピークで働ける期間はあっても10年、運がよくても15年くらい。週末に組織の外で能力を磨いていくとなるとそれほど時間がないと考えたほうがいいでしょう。

ジョブ型というのは、創造と変革を前提にした雇用です。

とはいっても一般企業でイノベーションをする部門、つまり新規事業開発をする部門にはジョブ型はあてはまらないでしょう。新しいアイデアで勝負するとなるとちょっとクレイジー(風変わり)なものを発明しなければならない。さすがにそこまでは雇用契約に盛り込めない。また、場合によっては詐欺まがいの商品にすらなります。

一方、2,3年ほとんど毎日同じことをしていてもなんとかなるのは、日常的業務であり、ルーチンです。恐ろしく退屈になるようなことをいつまでも続けることは感心しません。だれでも訓練でできるため、ほかの人に安くやってもらえればいいからです。

ジョブ型に備えるヒントになりますように。