アメリカのトップビジネススクールにはいかない方がいい

1990年、バブル経済がはじけて3年近く経過した。金融は崩壊し、株神話、土地神話が消滅した。消滅したと同時に人々の道徳観も失われた。30年以上たったいまでも上場企業による不正会計、品質不正隠しはニュースになっている。あの不況のはじまりで行き所をなくしたため、東京にいる多くの人がアメリカのビジネススクールにいく準備をしはじめた。藁(わら)をもすがる思いというのはこういうことか。わたしもそのひとりだった。

いくのならトップのビジネススクールに合格したい。そういう願いを持ちながら週末に受験勉強をする。30年前でも受験準備の予備校だけで100万円くらいかかった。なかなかいいところには合格できない。わたしは6校に出願して3校から合格通知をもらった。だれも聞いたことがないような学校から合格だけはもらった。それはうれしかった。

あれから30年が経ち、日本人にとってアメリカのビジネススクールはかなり変わってしまった。いまでは、金融を学ぶところ、あるいは、ソフトウェアの会社に就職するところになっている。今、日本人がアメリカのトップビジネススクールに合格したらどうするか。この文章ではトップにはいかない方がいい。そのような内容で書いてみます。

理由としては、まずトップスクールでいい成績をとれて上位のランクにはいれるとは限らない。卒業後に成功しなかったときの心理的コストが高すぎる。次に帰国せずにアメリカ国内で就職をして金融かITの仕事につかないかぎり成功できない。それは簡単ではないこと。そして帰国してもそれほど楽な仕事がない。そういった理由です。

いまでも毎年60名ほどアメリカのビジネススクールにいくといいます。アプリカント、いわゆる出願者。合格して、入学をするとキャンディデート(候補生)になる。当然、一番名前が知れているところ。いわゆるランキングが高い、権威あるところに入学したがる。ところがそこでトップの成績で卒業できるわけではない。むしろ第3、第4志望のところにいったほうがいいともいうこともあります。

それは名の知れた大学院を卒業した場合は、成功しなくてはいけないという心理的プレッシャーがかなりかかります。だれでも成功できるわけではなくなってしまった。むしろ、卒業してからの実務で苦労や運が試されます。心理的アドバンテージをもってMBAをとるのならば、あえてランキングを下げて選んで入学するというのがいいといえます。

これは有名な作家、マルコム・グラッドウェル氏もいっています。(13:00~)。経済学博士、STEM教育についてですけど、日本人がアメリカのビジネススクールに行った場合は、卒業後に相当な不確実要素が出るため、彼のいっていることがMBAにもあてはまる気はしています。

次にアメリカでMBAをとるわけですから、金融の仕事につきます。例えば、ニューヨークにあるTiger Management。ここは過去20年で社内IRRが+26%という実績があります。そういうところは人気でコロンビア大学やNYUの卒業生が多いはずです。また、ESGの資産運用会社。BlackRock、Vangard、State Streetといった人気のところに就職をする。

ところがそういったMBAがたくさん応募するところに日本人があまりいないのではないだろうかか。卒業後にアメリカの金融機関で働く人が少ない。ならば、金融を学ぶビジネススクールにいく意味がないのではないか。組織の資金調達や財務、投資の手法を学んでもそれを活かすような就職をしていない。アメリカで金融をしないかぎり成功できないでしょう。

また、ITの分野ではGAFAをはじめ、シリコンバレーにたくさんありますが、ITであれば、MBAをとる必要もないでしょう。コーディングをするひとたちでしょうから。むしろコンピュター・サイエンスを学んだほうがよい。

そしてトップスクールを卒業をした場合、帰国しても楽な仕事がないということがいえます。例えば、人気の経営コンサルティング。これは、いまでも年収が高いことで知られていますが、それほど楽な仕事ではない。30歳で帰国し、長くやったとしても10年くらいでしょう。運がよければいいでしょうが、プロジェクトによってはコンサルティングにとって致命的なことも起こりうる。

それは内部抗争と利益相反です。内部抗争というのは顧客側の社内で派閥ができてしまい、最後まで合意形成ができないという場合。そしてコンサルティングの依頼内容によっては違法行為に触れるようなことが起きて、それが利益相反になる可能性があります。

利益相反というのは、例えばこういうときです。半導体のどこかの技術を使って新しいビジネスを生み出すような架空のプロジェクトがあったとしましょう。半導体でなくても薬の開発でもよい。ただ、それが国家機密にふれるような部品であった場合。顧客にとっては機密情報を入手してビジネスにのっければ利益は出るのではないか、と。ところが機密情報ですからそれが違法行為にあたることもありうる。

そうなると顧客に損害を与え、利益が下がり株価が下がることがあります。そして違法行為にあたれば、嘘の証言はできません。もしそういうことをしてしまったならば、偽証罪として裁定機関への侮辱行為にあたります。そうなると二度とコンサルティングができなくなるかもしれません。そういった危険性があります。

そのような微妙なプロジェクトというのは、日本国内の法律の知見が問われるため、アメリカのビジネススクールではおそらく学ぶことができないでしょう。なにもそこまですることもなく、少し楽をして第3、第4希望のところにいって、負担を軽くして、楽しんできたらどうでしょう。

アメリカのビジネスで世界一なのは金融とITです。日本は、ものづくり、サービス業、そしてインフラが世界一といいます。それらにおいて一番になりうることはトップであれば求められます。トップ=リーダーですから。ところがリーダーというひとに見本がいるでしょうか。

わたしは、それほど知名度の高いところではなかった。ただ、1年目が過ぎたころから環境に慣れ始め、2年目になったときから、急にいい成績がとれるようになりました。Aの数が増えて、最終的にはGPA3.4といういい方で卒業できたのです。

Aはトップ30%の人にしかとれません。Bは60%くらい。Cをとってしまうとだめで、平均B(3.0)以下であると大学院から追放されます。24科目中、2つばかりとってしまったときには焦りました。そんなプレッシャーもありました。

参考になりますように!