社会人大学院のお話ーその⑤ー

入学最初の授業


 話をだいぶじらした感があるが、いよいよ授業の話をしたいと思う。最初の講義は忘れもしない「株式投資戦略」。今でも師匠として仰いでいる島義夫先生。金融業界に長らく活躍し、大学教授へ転身した先生であるが、ちょうど節目となるような年である。当時の立命館MBAは、東京から多くの実務家教員が大阪へ毎週入っていた。かなり教員を構成する際も力を入れて組閣したようだが、バリバリの先生がくるわけだ。
 僕の方はそんな力も能力もないので、これから少しずつ学ぶという状況だったが、指定された教科書は、証券投資論という日本アナリスト協会が編集する枕にすればいいような太いものであった。かなり金額も高い教科書だったが、ほんとまったく理解できるようなものではない。シラバスに指定された教科書を読んで望んでみるが、内容が頭に入らない。専門用語もそうだし、また内容が難しいのに難しく書いてあるようなものだ(さすがに今は理解出きるが・・・・)。
 そんな状況の中、授業は始まる。間接金融、直接金融、ファイナンスとはなど、導入の講義であるが、それを板書が続く。パワーポイントで説明するタイプの授業ではなく、口頭説明が中心であり、教科書を読み返せばわかるという。確かに重要なことは何度も行ってくださる講義形態であったが、ほんとわからなかった。絶望感さえあったのを覚えている。MBAでは当然のレベルであると言われ、僕も金曜日の夜は宿泊していたので、1人ホテルに帰って読み直すが、やはりわからない。でももう引き戻せない。そんなことが3週続いた。

周囲の目

    みんな入ったばかりだから、人となりも様子見という感じで、特に株式投資戦略は5人程度しか学生はいなかった。周りは何も言わず、授業が終われば帰る。僕もわからないとは言えない。みんな分かっていて、僕だけわかっていないということは口が裂けても言えない。そんな状況で追い詰められていた。
 たまたま授業が終わって、島先生とトイレで会った。お疲れ様という感じであったが、意を決して、授業が終わったので、食事でもしないですかと伝えた。僕は広島から通っている。島先生は東京からということで、どちらもホテル暮らしであるから、ちょうどよかった。島先生も快諾してくれて、2人で安いふぐ屋で一杯やった。島先生も大阪に毎週なので、いろいろ回ったかと聞いてきたが、僕はそれどころではなかったので、行ったことはないという話をした。自己紹介のようなことから、世間話からいろいろしたわけだが、授業はどう?という話をして、難しいですという話をし、教科書があまりにも難解なので、もっと初心者にわかる書籍を紹介してほしいと質問し、「資本市場とコーポレート・ファイナンス (現代ファイナンス講座)」という中央経済社から出版された本を教えていただいた。そして、素直に自分があまりにも専門に知識がない旨、正直に伝えた。これはいい機会であった。もしここでちゃんと言わないと、僕は知識の獲得もせず、MBAを修了していたかもしれないと思う。
 この日、僕にとっては重要な一日となった。今でも島先生と会うと言われることがあるが、僕はキャリーバックをもって、大阪に来ていたが、島先生が僕に言う。その荷物には何が入っているのかと。僕は覚えていないが、夢が入っていると答えたそうだ。29歳、これからのスタートであった。

楽になったリ・スタート

   わからないことはわからないと素直に言う。今のビジネススタイルでも活きている。やはり大人になると、なかなか言えないものだ。この日を境に、今度は受講生みんなで一杯やろうと島先生も言われたので、声をかけてみた。そうすると、みんなすべてがわかっているわけではなかった。ほっとした。落ちこぼれの学生だと思っていたが、そこではないかもしれないという不安は消えた。そして、紹介された「資本市場とコーポレート・ファイナンス (現代ファイナンス講座)」を読んでみると、わかるではないか。こういうことだったのかとわかってきた。そして島先生もさらに丁寧に説明をしてくださった。投資および資本調達の具体的な評価方法ってこうだとか、ファイナンスがわかってきたのだ。それと並行して、翌日の土曜日に、経営財務という授業があったが、ファイナンスの基礎の位置づけであったが、これもよくわかるようになった。ファイナンスをこう使うのかと思いながら、CAPM、MM理論など、ファイナンスのお馴染みのワードが共通言語になった。最初にガツンと言わせられたのが、謙虚にもなり良かったように思う。本来はもっと難しい講義の予定だったようだが、この授業のおかげで応用がきくようなった。学生も先生のMBA初年度であると考えれば、お互い手探りなわけだから、まあよしとしたいところだ。
    みんなすべてわかっているわけではない。だから心配はいらない。一歩踏み出せるかどうか。その点にかかっている。   ・・・続く・・・

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