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倉田保雄「ニュースの商人ロイター」1979

 新潮選書である。筆者の倉田さんは執筆時、共同通信の編集委員。お話は通信社ロイターの創生の歴史のお話。19世紀、通信技術が電信技術が使われるようになった時期とロイターの登場が重なっている。パリでアバスのもとでニュースレターサービスの修業し、いったんはアーヘンで通信社を起業したロイターは、大陸で電信線敷設が進むのをみて、電信網の整備が進むが通信社にとり処女地であるロンドンへの進出を決断している(19世紀半ば)。
 この本は、同時代の人物、マルクスやハイネの行動、同時代の事件、ワーテルロー(1815年)に始まり、7月革命(1830年)2月革命(1848)、ロンドン万博(1851年)、クリミア戦争(1854-56年)、南北戦争、そしてなにより通信技術の発達(セマフォール信号:腕木通信、伝書鳩から電信機の登場、電信網の発達の歴史、電話への展開)、などを巧みに組み合わせて、読者を退屈させない。
 倉田さんはロイターで働いた経験もあるとのこと。ロイター内での報道の客観性についてのルールとされていること(確実なニュースソースでない限り踏み込んだ観測をしない、非難声明には必ず相手の反論を取材してバランスをとるp.77)、あるいは新聞社の側がロイターのクレジットをつけることの意味についての解説(自社でチェック不能な記事はロイター電としておけば責任を回避できるp.91)など、ところどころに示される経験者ならではの識見も興味深い。

#ロイター

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