原油価格のマイナス化
2020年4月20日 ニューヨークの原油先物市場で史上初めて価格がマイナスになって話題になっている(WTI5月物が1バレルマイナス37.63ドルまで下落)。21日には6月物が前日の3分の1の1バレル6.50ドルまで一時下落。22日6月物終値は需給改善のうわさから1バレル13.78ドル。前日比2.21ドル高(19.1%高)。背景には米国内陸部での貯蔵能力の枯渇があり、買い持ちしても原油の保管先が確保できないのでファンドが投げ売りして価格がマイナス化したとされる(WTI先物は決済日に現物受け渡し。差金決済ができないため下がりやすいとのこと。日経2020年4月25日による)(写真は東京ドームシシティの中のビッグオー。直径が60Mある。よく見るとセンターレスという特殊設計である。2003年三菱重工業設計・制作。)。
今一つの背景は、コロナウイルスの感染拡大により、未曽有の石油需要(都市封鎖によるガソリン需要縮小、移動制限による航空機燃料の需要の減少、工場や鉱山の操業停止、船舶の燃料消費も減少など)縮小・低迷に直面していること。にも拘わらず、産油国の間の利害対立から、実効性のある協調減産がなかなか実現しない。
産油国の協調減産がなかなか実現しない背景には、産油コストの違いがある。米国やカナダのシェール、オイルサンドからの新規石油採掘コストは1バレル40~50ドルと比較的高く、原油価格低下の影響を直接受けている。また米国では生産調整(制限)に反対する考え方が根強かった(これまではOPECによる生産調整による価格維持を批判してきた)。
米国の産油量は減ることなくが伸びており、サウジやロシア(OPECにロシアなど非加盟国を加えたものをOPECプラスと呼ぶ)にすれば,自分たちが減産して原油価格を維持しても、米国の業者が存続して、シェアを伸ばすのを助けているだけにも見える(産油コストは、米国>ロシア>サウジ)。
すでにアメリカは世界最大の産油国。この間の米国の国際政策をみると、産油業者の利益もあって、親米的でない産油国に対して、経済制裁をかけて減産に追い込み、産油価格を操作してきたようにも見える。事実、イラン、ベネズエラなどは経済制裁を受けることで産油量を減少させており、原油需給の引き締め役を背負わされている。
また国際的にイランやロシアが叩かれる背景には、天然資源埋蔵量での力の均衡の問題が隠れているようにも思われる。
2014年3月 ロシアがクリミア、セヴァストポリをロシアに編入。これ以降、アメリカ・ECはロシアに対し経済制裁
2018年5月 アメリカ イラン核合意から単独離脱し以後、対イラン経済制裁強化
2019年8月 アメリカ ベネズエラに対して全面的経済制裁へ
2018年の1日当たり原油生産量 Statistical Review of World Energy 2019による。外務省HP
アメリカ 1531万バレル イラク 461万バレル
サウジ 1228万 UAE 394万
ロシア 1143万 中国 379万
カナダ 520万 クウェート 304万
イラン 471万 ブラジル 268万
天然資源埋蔵量 「世界の統計2019」総務省統計局2019, p.132
原油埋蔵量 天然ガス埋蔵量
サウジ 366億t イラン 34.0兆㎥
カナダ 277億 ロシア 32.2兆
ベネズエラ 268億 アメリカ 10.4兆
イラン 214億 サウジ 8.3兆
イラク 193億 UAE 6.0兆
ロシア 140億 ベネズエラ 5.6兆