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農民に国民待遇を与えよ 杜潤生 2001

 (農村工作通訊創刊45周年記念の座談会での杜潤生の講話(2001年6月1日)。給農民国民待遇『杜潤生自述』中国発展出版社 2008年 pp.158-160 (なお写真は心光寺石仏、右側碑文に享保16年1731年とある)

最初に「国民」という言葉を、農民の権利の要求に使っている。ここで杜潤生が述べている問題は以来20年近く経った現在でも基本的には解決されていないとされている。この点はたとえば香港で出版された陳健民・鐘華編『艱難的轉型』中文出版社  2016年に詳しい記述がある。なお後段で戸籍制度の廃止を決断しとあるが、まだ戸籍制度は残っておりそれに伴う問題も続いている。戸籍制度の廃止は理解されるとして、都市化の推進が農業問題の解決方策になると言い方に意外感を持つ日本人は多いかもしれない。『杜潤生自述』とほぼ同時期にされた胡鞍鋼《中國崛起之路》北京大學出版社,2007をみると、まず都市化が、経済の発展の推進力として強調され、さらに三農問題と呼ばれる農業問題の解決の方策は、農業労働力の土地からの解放であるとして、農民を農村から都市に移動することを自由化し、農民を減少させることが強調されている。同書, pp.64-91, esp.86-91 しかし農業生産力のことだけでいえば人の移動の自由化という選択肢は正しいが、そもそも農業の担い手となる若い世代の人では残る人はいるのか、農村部の教育、社会保障、医療は如何に維持されるのか。都市化の一面的な強調には違和感が残らないではない。)

p.158  農村雑誌は党の方針政策を宣伝しなくてはならない。と同時に農民の代弁者(喉舌)となって、農民の要求や意見(呼聲)を反映する必要がある。雑誌社だけでなく、その他の部門もこの問題を重視するべきである。
 ある同志は、農民はわが国人口のやく70%を占め、中央は農業を重視し、工農連盟を強固にすることを重視し、農民の地位を高めることを重視しており、これは一貫した方針だと語っている(提出)。しかし(都市)市民と比べて、農民はまだ国民待遇を得ていない。ある面では不平等な待遇(歧視)さえ受けている。この問題は多年訴えられてきた(呼籲)が、なお訴え続ける必要がある。
 現在、農民が国民待遇を得ていないと解釈されてよい多くの現象がある。
  1.数十年来、農民は自由に移り住む(遷徙)権利がない。農村を離れたい、身分を変えたい、と思っても大変困難である。このような情況は世界中であまりないことである。
 2.  教育を受ける権利。本来はすべての国民が一様であるべきだが、農民人口は全国人口の70%を占めるのに、そこにある大学には予算の30%が割り当てられている。30%の都市の大学に70%の予算が割り当てられている。
   3.社会保障制度が農村にはない。農村の失業人口は失業人口とは呼ばれず、失業救済もない。しかし農民はわが国工業化の原始蓄積の任務を負担したのである。わが国では長期にわたり統一購入統一販売を実行し、低い価格で農産物を買い上げ、農民は大きな貢献をした。その大きさはおおよそ6000億元から8000億元と推定される。
 4.    現在農民の税負担はとても重い。このことを中央は重視しているが、続くことを受け入れている(禁而不止)。一つの農村(郷)の行政機構は、かつて十数人だったのが100人から200人。機構があまりにも肥大している。農村建設任務に各方面から指示がある。(こうした情況で)農民の負担をどうして軽くできるだろうか。
 5.   農村医療衛生保障が不足し健全でない。1000人ごとにようやく衛生員が一人。かつてはあった合作医療も、いまではない。
 6.   農民の就業難。都市と農村の差は近年さらに拡大する趨勢にある。調査によれば、田を耕して得られる収入は低く、衣食住を維持するのをわずかに超えるのみ。8000万の農民が都市と農村の間を徘徊し,行っては戻っている。彼らは都市で職業に探し至ることはできず、探し至るのは汚い疲れる労働である。あらゆる都市単位は、採用募集で都市戸籍の証明を要求する。農民の労賃は10年前の水準のままで、家賃を払うとほとんど残らない。十数人で狭い一間に住むしかない。8000万人の生存コストは高いが、受け取りは少なく、心は穏やかでない。国家もまた制度を落ち付かせていない。これは不安定要因であり、すでに少数の人が無鉄砲なことをして犯罪の道にあることは無視できない。
 7.  土地制度。党が土地問題を重視して、集団経済を改造して、家庭請負(承包)制度を実行した。農民は満足を示し、それは彼らの利益に会っていた。しかし一部の村では土地は一年で小調整、三年で大調整(と落ち着きがなく)、農業への心も定まらず,投資の希望も高くない。30年というもの法律規範保障が欠けており、法律を諮詢する組織もない。
 8.   貧困人口の大部分は農村にいる。現在2.5億の貧困人口問題は解決されたとはいっても、なお3000万の人口が貧困に残されている。再貧困化(返貧)現象は到るところに見ることができ、推計が多すぎることはない。
 9.  都市の人に比べて農民が農業を営む(種田)には金がかかる(需要成本)が借入はとても困難である。国家は土地を担保にできないと定めているが、銀行では貸付には担保が必要と定めている。
  10.  社会主義時代に農民は解放(翻身)された。封建圧迫を取り除いた(废除了)。しかし民主制度は不完全に建てられている(建立不够完善)。幹部と群衆との矛盾激化事件は時折発生している。村民自治はなお明文規定を欠いており。農村(郷土)の自治はまだ議事日程にさえ挙げられていない。
 農民はなお、自身の権利を保護する、自己の政治組織を欠いている。過去何人かの老同志が、が、中央に手紙を書き、農民協会の設立(成立)を願い出た。鄧小平は言った。原則上は良いが、3年(様子を)見るように。求めがあればすぐ組織されるはずだった。その後さまざまな原因から着手されないままになっている。全世界の農民はみな自己の団体をもっている。みな農民協会をもっている。ただ中国の農民だけが持っていない。
 わたしはちょっと考えて,以上の10項目を列挙する。これらはみな(都市)市民と比べて農民が、明らかに国民待遇で差別を受けていることを示している。かつこの問題は1日だけのことではない。数十年にわたり正されていない。経済学上いわゆる「制度慣性」であり、経路依存(依頼)となっている。誰もあえて動かそうとしないし、誰も情況を把握訴えよう(反映)としない。もし情況を把握訴えたとしても、長期にわたり解決はできないので、それが当たり前になっている(习以为常)。このような社会問題を伴うことについて、「十五」(党の十五回大会)が解決できることを希望したい。
 むつかしさはどこにあるのだろうか?農民があまりに多すぎたのだ。国家財力の庇護はなかった(照顾不过来)、人口は工業部門にゆっくりと移った。70%の人口が食品を作り、30%の消費する人に供給した。倉庫の中の量が適量を超え、穀物価格はますます下がった、農民の収入を引き上げることは何と簡単なことか(それほど簡単ではない 谈何容易)。現在一筋の光明が見える。中央は戸籍制度の廃止を決定した。戸籍制度が廃止されたあと、農村に、流動する農民を正常な秩序のもと就業機会が得られるようにする、一種の仲介機構が置かれる必要がある。
 このほか都市(城镇)を全力で発展させるべきである。1億から2億の農民を都市に移動させ、農業人口が減少することで農民収入を高めることができる。現在、農村の家庭規模が小さくなりすぎどうすべきかと、いう問題が出されている。再びもとの集団に戻るべきか。集団化するには、人が減らなくてはできないし、労働生産率も上し、上げなくてはならないし、規模経営を議論しなくてはならない。それゆえ都市化の水準を全力で進め、中小企業を発展させ、都市を反映させなばならない。法治秩序を確立し、立法問題を重視すべきである。一つは請負法(承包法)一つは税費法である。

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