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株式市場 stock market

 株式市場について考えるべきことは何だろうか。取り扱っているものが株なのだが、その日々の株価については、将来の収益の現在価値present valueだというファイナンス理論の示唆する理論価格がある。この理論価格は企業買収の実務では、必ず算出されて使われている。しかし株式投資ではこの理論価格とは別に投資家が日常使う投資指標が知られている。
 一つは配当利回りdividend yield(1株当たり配当/株価)である。そこから派生する指標としては配当のもとになる1株当たり利益。この利益がどれだけ配当に回しているかが配当性向である。配当されなかったものは留保利益retained profitであり、留保利益は、投資investmentと自社株買いstock buybacksの源泉になる。この1株当たり利益に対して株価が何倍かが株価収益率price earnings ratio:PER(株価/1株当たり利益)である。
   近年注目されるのは配当性向である。利益が高まったときの配当性向の低さは、配当余力を示すとして歓迎され、配当性向が100%を超える状態は、利益の食いつぶしとして警戒される。
 もう一つは、1株当たり純資産に対する株価の比率である、株価純資産倍率price bookvalue ratio:PBRである(株価/1株当たり純資産)。総資産から負債を控除した純資産は企業の解散価値(事業を継続せず解散した場合の価値)ともいえる。株価純資産倍率が1(倍)を下回る株は、その意味で割安だと目されるのである。
    同業他社に比べて、配当利回りが高い、株価収益率が低い、株価純資産倍率が低い、株が割安だとされるのである。しかし、この割安は今後の値上がりを保証するものではない。逆に割高も今後の値下がりを保証するものではない。つまりこれらの指標で見た割安割高は、投資の判断で絶対的ではないのである。まずすでに市場が下している評価の上に私たちがいることがある。市場は時にこの評価を修正する動きをし、時にトレンドを持続する。
 優良株についてはすでに割高であることも多い。それでもトレンドが強力なら優良株は、妥当と思われる水準を超えて値上がりを続ける。
 逆に利回りは高く割安に見える株。直近の業績も良い株が値下がりしてゆく。なぜだろうか。
 多くの場合、軽視されがちなのは、市場のトレンドが強力であることであり、あるいはすでに市場が値下がりあるいは値上がりへの転換点に入っていることの見落としである。
 また、外国人投資家が多い株式(大型優良株)は、常に売買が盛んでアメリカ株の動きと連動しやすい。個人投資家が多い株式(小型株)は、売買に繁閑があり個人投資家の投機の影響を受けやすい。最後に社会の大きなトレンドを受けた銘柄は、長期的に上昇あるいは下落しやすい。

 株式市場あるいは株価の議論で忘れがちな議論の今一つは、株式市場が企業経営を監視する場所でもあるという点である。企業は収益をあげているかどうかで、財やサービスの市場で試され評価されているが、株式市場では会社の支配権を意味する株式が評価される形で別の市場評価を受けている。株式の評価には、このように経営の巧拙、経営者の判断力、情況の変化への対応力が影響している。
 そしてときには、株式市場を舞台にして、敵対的企業買収hostile takeoversの形で経営者の交代が起きる(企業買収は経営者が双方の合意して行う友好的friendly企業買収が多い。敵対的となると買収価格が跳ね上がるからである。)。買収にあたり借入を大胆に行うものをleveraged buyout、また自社の株を買収通貨の代わりにして、株式交換方式で相手企業を買収することもある。株式市場の存在は、企業統治corporate governance(企業経営者への監視)をにおいて、内部統治(役員会、法務や会計など企業内部の監視チェックの仕組み)を補完する(監査、各種認証、格付けなど企業外部からの監視チェックの仕組みである)外部統治の一つとして理解されている(market for corporate control)。
 なお一般に株式市場を通じて、株式が公開されることのことの公開企業にとっての意味は、株式市場を通じた資金調達が可能になるという点(創業者にとっては株式が公開されて創業利得が得られるという点)から理解されてきた。しかし買収されることを嫌って上場を避ける企業がさまざまに存在することを考えると、資本主義の在り方の問題として、一定規模以上の大きな企業には、様々な情報開示を一律に義務化して、その経営を社会的な監視にさらすことを求めるという観点も必要かもしれない。
    また、株式は配当収益権を請求する収益請求権のほかに、株主総会で会社の重要方針を決定するときにその議決に参加できる支配権、さらに会社解散時の清算財産請求権などの権利があるため、株式の発行による資金調達には、矛盾がでてくる。まず発行により資金を調達すれば浮動株式が増えるので、総会での議決で会社の方針に異論を唱える株主や、さらには現在の支配株主に置き換わって会社の買収を意図する株主が出現する可能性が高まるまた発行株式数が増加するほど、1株当たりの株式の表す権利は希薄化dilutedする(これを希薄化dilution問題ともいう)。そのため、既存株主の権利を保護する観点から、株式公開後、株式数をむしろ増やさず、利益の内部留保retained profitを通じて会社を成長させるべきだという考え方も実は根強いのである。
 株式を使った資金調達には、会社の自己資金の調達ではあるが、有限責任limited liabilityつまり株主の最大の損失は出資額まで。という特徴もある。歴史的には19世紀後半に、株主の責任が無限責任では株主の責任が重くなりすぎることが理解されて、株主の有限責任が制度が確立して現在に至っている。
    なお通常の株式は普通株common stockと呼ばれるが、優先株preferred stockと呼ばれる種類株にも注目しておきたい。普通株の発行をむつかしいがしかし自己資本をどうしても増やしたい場合や、債務を株式に転換して財務比率を改善したい場合、優先配当を付けた優先株が発行されることがある。投資家には優先配当がおいしい餌になり、発行する企業にとっては、優先配当を支払う限り、株主総会での議決にこの株主は入ってこないメリットがある。(米国では創業者に議決権が普通株の数倍に設定された種類株を割り当てて、創業者の立場を守る行為がみられる。)

    なおこの原稿の冒頭で触れているのはDiscounted Cash Flow Modelによる「理論価格」のお話し。このDCF Modelについて以下のCorporate Finance Instituteの説明は実に分かりやすいので以下に張っておく。

    また以下は同じCorporate Finance InstituteによるCapital Financing with Equityの説明。ビジネススクールでも納得の高水準の説明だが、入門レベルとされている。説明がとてもクリアである。資金の調達について、企業のビジネスサイクルの観点、企業が獲得する資金の性格から、説明している。株式市場については、private market(担い手は創業者、venture capital, private equity)と公開市場(担い手はinstitutionalとretail)に分けているのも説明の仕方として啓発された。


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