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弋舟「礼拝二午睡時刻」『南方文学』2014年第7期

作者の弋舟は1972年生まれ。江蘇州無錫の人。現在甘粛省蘭州に居住して創作を続けているとのこと。賀紹俊主編『2014年中国短篇小説排行榜』百花洲文芸出版社2015年1月pp.262-277所収(原載『南方文学』2014年第7期)。この小説は、話としては単純である。貧しい農村の母子が、農村を出て都会に出てくる。夏の暑い日である。県のバスセンターまで2時間あまり。そこから省都へバスを乗り継ぐ。母親は知り合いの「先生」のところで保母をしようとしている。連れているのは小さな男の子だ。その子を農村の両親に預けていたが、1か月前に都会から戻り実家の両親の元から連れ出した。両親はすでに老いていて孫の世話ができない。父親の姿はない。傍目には、母親が妊娠しているように書かれていることが気になる。果たして、子連れで妊娠している彼女を知り合いの「先生」は保母として歓迎するのだろうか。「先生」は歓迎するとしてその奥さんはどうだろうか?そして二人の生活は今後どうなるのだろうか。ー背景にあるのは、都市と農村の貧富の差だろう。この小説はいろいろな疑問を起こさせて、最後に二人が「先生」に会ったあとの男の子の昼寝の時間に何が起きたかを推測させて終わっている(見出し写真は飯田橋のガーデンエアタワー。2003年竣工35階建て。KDDIの本社機能がある。)。

 家を出て2時間余り乗って、母子二人は県の中心に着いた。県の中心の
バスセンターで、母親は息子を待たせて、自分は省都行きの切符を買いに行った。太陽が炎のように燃え、空には一片の雲もなかった。男の子はまぶしいほど明るい停車場の空き地に小さくなって立ち、両足の底が融けるのを感じていた。離れてゆく母親の姿を目で追っていた男の子は、こんなに暑いのに、彼女が分厚く黒いズボンをはいていることに気が付いた。父さんのものとは限らないが?
 (中略)
 母親はズボンのポケットから乗車券を探り出して、この男の人に聞いた。「省都に行くにはどの車に乗るの?」彼女の言い方は道を聞く人のそれではなく、少し唐突で礼儀に欠けていた。ただ彼女の顔には笑みが歪んで固まってはいた。
 男の人は、母親を見て、乗車券を見て、男の子を見て、男の子の手の中のコーラ瓶を見て、頭を振って言った。「付いてきて」と。
 (中略)
 丁先生について男の子は知っていた。そこは母親が省都で保母をしていた時の雇い主だと。
 「丁先生の家で何をするの?」男の子は聞いた。 
    「大人の話。貴方は質問が多すぎる。」母親がこのように答えたのは、予想通り(不出所料)だった。
  (中略)
(丁先生の家で、母親は丁先生の奥さんから100元のお金を渡され、その足で何度も吐きながら、街の片隅の診療所に行く。男の子はそこで外で待たされ、疲れもあって寝てしまう。)
 盛夏の中の二日目(礼拝二)。男の子はこの日彼の一生で最も長い昼寝(午睡)をした。
 母親は黄昏時に息子を起こした。
  (中略)
 母子は路端の小さな料理屋に入った。・・・母親が診療所からでてきたとき、まるで体の一部を削り去られた抜け殻のようだった。・・・母親はこれまで見せたことのないまなざしでわが子を見つめた。

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