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金融恐慌前後-OTDモデルが銀行に与えた衝撃 FRBC WP Nov.2010 要旨

Richard Rosen, The impact of the originate-to-distribute model on banks before and during the financial crisis,  FRBC WP No.2010-20, Nov.2010 閲覧2022年10月10日

要旨 証券化の成長は、銀行が自ら作りだした住宅モーゲージ貸付を売却することを容易にした。私は、モーゲージの売却が2007年に始まった金融恐慌に先立つ数年間に銀行にいかに影響したか、(また)恐慌前の売却が恐慌中の銀行にいかに影響したかを探索した。ほとんどの銀行は証券化の過程の一部としてモーゲージを売却していた。しかし証券化全体を行っていたものはほとんどいなかった(few actually do the securitization)。私は、(銀行の)株式の収益(stock returns)が、銀行が家の購入ではなく借り換えのためモーゲージ売却を増やすとともに増えることを発見している。幾つかの銀行は、借り換えのブームを通じて貸付の規模を拡大している。このモデルの長所と潜在的短所との双方にあるのはこの弾力性である。というのは、銀行は借り換えブームの中での規模拡大で利益を得るが、そのとき借り手は他の時期よりリスクを増やしており、金融システムにリスクを追加している。私はまた金融恐慌中の損失は、恐慌前のモーゲージ売却と関係していたことを発見している。ー損失は2001年ー2006年のモーゲージ売却から得られた利得とおおよそ同程度(roughly same magnitude)である。

本文冒頭
 近年の金融恐慌は、モーゲージ担保証券MBS市場において問題が持ち上がった2007年に始まった。住宅モーゲージの証券化は、40年近く存在していあたが、とくにMBSは、過去15年において急速に成長した(図1を見よ)。恐慌に先立つ時期における証券化の成長は、恐慌期における証券化資産の損失とともに、金融恐慌における証券化の重要性を探索することに多くの人を導いた。証券化過程における代理人問題に焦点を当てた文献が増加している。これらの文献でよくある議論は、証券化の過程は、危険で質の悪い借り手を選別し(あるいは監視する)銀行にとっての誘因を減少させたとするものである(see, e.g., Purnanandam, 2009; Keys, et.al., 2010)。しかし証券化ハ、モーゲージ貸付に別の衝撃も与えた。恐慌に先立つ時期に弱いweak貸付を増やすbuild upことにも関係するが、証券化プロセスの潜在的長所とも考えることができる。流動的証券化市場は、銀行が自身生み出した貸付を短期間だけ保有することを容易にする。(このような)貸付のOTD(originate-to-distribute)モデルは、銀行に、全株式資本や資産ポートフォリオに大きな調整を加えることなしに、モーゲージ量を速やかに変化させる弾力性を与える。すなわち銀行は、銀行のほかの部分に大きな影響を与えずに、モーゲージ貸付の水準を上げ下げできる。この論文において私は、恐慌前の時期におけるモーゲージ貸付の特徴として、OTDモデルを使う銀行が借り換えブームを吸収するため貸付をすみやかに調整出来たことを示すであろう。
 (中略)

結論部(Ⅵ. 結論的コメント
 証券化を導くプロセスへの銀行のモーゲージ売却は、近年、住宅市場で重要な役割を演じた。2007年の金融恐慌とともに、民間製証券化市場はほぼ閉鎖された。政府支援企業GSEsが実質的に唯一のモーゲージの買い手として残されたが、GSEs自身にも問題があった。証券化市場における混乱は、銀行にとって儲かるビジネスだった貸付の売却に影響した。私は、金融恐慌前後のモーゲージ売却が銀行に(いかに)影響したかを探索した。証券化のこの部分の検討は、証券化の今後について示唆する点がある。
 貸付の売却に関与したほとんどの銀行は、OTDモデルを使うものとして現れた。売却の増加は、売却の過程で一時的にモ-ゲージ保有の必要が生じる点を除けば、銀行のバランスシートにほとんど影響がなかった。モーゲージの売却はもうかるもので、利益のほとんどは借り換えブームからきた。これは、容易に増減できるOTDモデルの大きな長所を示している。モーゲージの利率が下がり、借り手が借り換えを欲すると、銀行は貸付をしてそれを売ることで対応できる。十分な資本を調達するとか、あるいはバランスシートを調整するとかなしに、ただ売却操作を拡大するだけで。高OTDバンクは、モーゲージ売却から法外な利益を得ただけでなく、借り換えブームで弾力的だった。
 (しかし)モーゲージの売却からの利益は、金融恐慌の間、本質的に逆転した(損失に逆転した)。株式市場の下落の全体でないが一部は、銀行の恐慌前の(貸付)売却活動に関係しているように思われる。銀行株価の下落の一部は、モーゲージ売却活動に由来するように思われる。驚くべきことではないが、売却が盛んであった銀行ほど、株価の下落は大きくなった。以下の点まで続けるーほとんどの多くの銀行がモーゲージ売却をしていた(報告した銀行の80%は少なくとも何らかの売却を報告した)。極めて少ない銀行が、モーゲージの創出と売却に特化している。ほとんどの銀行にとり、モーゲージ売却は彼らのビジネスの小さな部分だった。証券化市場における問題と衝撃は、これらの低OTDバンクにとって、一般的に支払い能力solvencyを脅かすものになりえなかった。
 証拠が示唆するところでは、全体として言えば銀行は、モーゲージ売却ビジネスから利益を得ていたのであって、少なくともひどく傷つけられたのではない。OTDモデルの特徴の一つは弾力性であり、それはこのモデルの長所であり、潜在的短所でもある。銀行が得た異常な利潤のほとんどは、借り換えブーム期の規模拡大に起因する。しかしこの弾力性は、金融制度のコストになった。借り換えブーム期の借り手は、他の時期より危険な存在だった。


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