見出し画像

色とりどりのメシの種【第七話】 #創作大賞2024

雨を聴く余裕もなく、とある神社の裏の森を僕達は歩いている。

僕がひとりで行くと言ったら君は嫌だと言った。

危険なところにひとりで行って勝手にいなくなるのは許せない。あなたがやろうとしていることを私は最後まで見届けたいの。この子も知っておくべきよ。だから私達も一緒に行く。

君はそう言って譲らなかった。
「この子はまだ二歳だよ?」とか言って反論することもできたけど、君を知る僕はそんな事を言っても無駄だと分かっていた。

だから、雨の中、親子三人で森を歩いている。

普通に考えたらおかしいだろう。
雨がザーザー降っているのに、黒い雨合羽を着た男と抱っこ紐に幼子を抱えて赤い傘を差した女が、森の奥深くを目指して歩いているのだ。

絶対に楽しい事は待っていない。心中しようとしていると間違われても仕方がない。

だが、これが僕達だった。
僕達は今日、真実を確かめに来た。

目的地を見つけるのに時間がかかると思っていたが、案外すぐに見つかった。
親切なことに立て看板が出ていたのだ。

「能力を欲する者、右へ進め」

素直に右へ進んで行くと白いプレハブ小屋があった。スライド式のドアにマジックで「超能力の神の部屋」と殴り書きしてあり、ちょっと笑ってしまう。

呼び鈴はないようなので、ドアをノックした。

「すみません、『超能力の神様』はご在宅でしょうか?」

「いるよ」
すぐにやや低い、中年の女性のような声が返ってきた。

「私、超能力の研究をしている、林 聡一郎と申します。少しお話しを伺ってもよいでしょうか?」

「ふーん。ま、いいけど」

「ありがとうございます。お邪魔します」

プレハブ小屋のスライドドアを開けて中に入った。
物はほとんどなく、大きな茶色のソファベッドにアマゾネスみたいな格好をした大きな女が寝そべっていた。

「あ、お休みでしたか。申し訳ありません」

「別に。で、何の用だって?」

「超能力のことを教えていただきたいのです。最近、不思議な事件が各所で発生しておりまして。調べていくと、何らかの超能力を持った者が犯罪者をサポートしていることが分かりました。
そして、最近になってやっと超能力者のひとりと接触できて、貴方の存在を知ったのです」

「ふーん」
超能力の神様は全く興味がないようだった。

「私は昔から超能力に興味があり、長く研究に取り組んできました。いろいろとご教示いただけると幸いです」

「で、一緒にいるのは誰?」

「あ、妻と息子です。すみません、家族で押しかけてしまって」

「ふーん、いいねぇ、ひとりじゃなくて。
 アタシはね、もうずーっとひとりきりなんだよ。仲間もみんないなくなっちゃってさ。アタシみたいのはアタシだけになっちゃった。もう毎日暇で暇で。毎日星を眺めていたら青くて綺麗な星があるじゃないかってんでこの星に来てみたわけ。だけど、びっくりしたよ。この星の人間は何の能力も持ってなくてさ。暇つぶしに欲しそうな奴に能力を分けてやった。そしたら、いろいろと面白いことをやってくれてさ。暇がつぶれて喜んでいたところさ。
 で、お前は何しに来たんだっけ?」

「で、ですから、私は超能力のことをいろいろと教えてもらいたいのです!」

「立て看板を見なかったのかい?アタシは能力を与える代わりに何か面白いことをしでかして欲しいんだよ」

「あなた、もう帰りましょう」
不穏な雰囲気を察した君がそう言ってくれたけど、もう遅かった。
超能力の神様は立ち上がり、私達を動けなくして言った。

「なんだ、帰るのかい?まだ能力を与えてないのに。
そうだ、いいことを考えた!超能力のことを知りたいんだったよね?お前の息子に注入してやるから勝手に調べるといい!
 ふんッ!!」

超能力の神様が右手を天にかざすと左手から五つの白い玉が飛び出した。そして私の息子の身体に吸い込まれていった。息子は「ギャアッ」と叫んだきり動かなくなった。

「聡!!
 私の子供に何をするの!返しなさい!!」
君の泣き叫ぶ声。

「うるさいねぇ。そんなに子供が欲しければお前を子供にしてやるよ。それッ!!」
超能力の悪魔が手を振ると、君は赤ん坊になってしまった。

「結衣!!」
僕は思わず叫んだ。なんてことだ。

「興味本位でここに来たことを一生後悔するといい。ほら、さっさと赤ん坊を連れて帰んな!」

僕はコイツの言う通りにするしかなかった。
幼子と赤ん坊を抱えてプレハブ小屋を出る。君の赤い傘を差して家路を急いだ。空っぽになった心で傘に当たる雨を聴きながら。


【第八話】便利屋になる前

#シロクマ文芸部
#雨を聴く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?