2013年中カ国際列車+新疆伊寧(イーニン)旅行(1)
今回の企画は、ウルムチから国際列車に乗ってカザフスタンのアルマトイへ。そこから国際バスで中国の伊寧に引き返してウルムチに戻る、というもの。長年あたためてきた中カ国際列車乗車企画である。
中国にお盆はないはずだが、人大須魏。今晩ここウルムチ駅から国際列車に乗ってカザフスタンに向けて出発する。羊を食ってパワーをつけよう。
カザフスタンへは、中国新疆ウイグル自治区のウルムチから鉄道に乗って行く。万が一切符がとれないといけないので、現地の旅行会社に切符の手配を依頼したが、結果的には直前でも買えたらしい。列車のスケジュールは、深夜0時を超えた頃に出発し、夜が明けた頃に中国側の国境に到着、出国審査などを行ったら出発。両国間の緩衝地帯を経てカザフスタンに入国し、入国審査などを行い、また線路の幅が中国とカザフでは異なるので、ここで客車の台車を付け替える作業を行う。その作業が終わったら出発し、明朝アルマティに到着する。
ウルムチ駅は、秋の京都駅並みに人があふれている。夜遅い時刻になっても、一体何を待っているのか、広場で座り込んでいる人がなくなることはない。敷物を敷くなど野宿の準備は万全だ。
することがないので、夜9時頃駅に入ろうとしたら、入り口で切符や身分証を確認しているおばさんに何やら喚かれたが、意味がわからない。こういう場合はとりあえず大人しく引き下がるのが、この国で器用に旅行するコツだ。
しばらくの間、日本人がいないか人間ウォッチングをしていた。出発1時間前になったので、もういいだろうと思って再度チャレンジしたら、今度も、多少なにやらワーワー言ってきたが、この関門を通過することができた。駅に入るだけでもこれだけ試練があるのは、世界広しといえども中国くらいである。
中国の大きな駅は、列車ごとに指定の待合室があり、自分の乗る列車の待合室は1階の右手にあった。馬鹿でかい荷物を抱えたカザフ人であふれているのかと思ったら、そうでもなかった。ただし、カザフ人っぽい子どもがマウンテンバイクを、待合室の入り口にも係らず、乗り回して遊んでいた。カザフスタンにはマウンテンバイクがないのだろうか。
待合室には2,30人ぐらいしかいなかった。やがて、列車に乗る時刻になり、プラットホームに着き、列車に乗り込んだ。列車の中は日本のB寝台を個室にしたような造り。やや狭いがコンパクトだ。部屋に入ったら中国人女性が電話していた。一応「ニイハオ」と声をかけた。
ホームに戻ったら、日本人がいた。我々の部屋は日本人男性3人と中国人女性1人。そこで中国人女性は別の部屋に行き、開いたベッドに別の日本人が入ってきた。ルームメイトが誰になるかは、楽しく旅行する上でかなり大きな問題だが、日本人4人というベストな状態となった。大変幸先が良いといえた。
明朝8時、中国側の国境駅に着いた。小雨が降っていた。誰もホームに降りないが、トイレに行くために列車を下りることは許可された。
しばらくしてから、軍人、税関職員ほかいろんな人間が列車内をうろうろし始めた。出国審査のためにパスポートを回収された。我々の部屋には3人の税関職員がやってきた。うち一人は新人なのか雰囲気が初々しく、別の職員に「お前何か質問してみろ」とか言われているように見えたが、我々日本人に対して怖気ついたのか、ニコニコしているだけで何も話しかけてこなかった。
そのかわりそのけしかけてきた職員の検査はかなり執拗だった。皆バッグを全て開けられ、中身をバッグから出すように指示された。私には相手の興味を引くようなものなど何もなかったが、ある人は検査の過程で1ドル札の束が見つかり、その束の厚さに驚きつつも、中身を確認しようと手を伸ばしてきたが、さすがに現金を渡すと何枚か抜かれる恐れがあるので、渡さずに職員の目の前で一枚ずつ札を数えていた。
パソコン、カメラにある画像も確認していた。本当に画像一枚一枚中身を確認していた。検査はガイドブックの地図にも及び、ある人は地球の歩き方中国編にある地図を確認され、そこにある台湾の記述に因縁をつけられてその本を没収された。どうせもう用はない本とはいえ、自分から捨てるのと没収されるのとでは気分が違う。私以外のルームメイトは立派なカメラやパソコンを持っていて、それらが職務に忠実で愛国心に満ちあふれた職員の意欲を掻き立ててしまったようだ。我々の部屋だけ検査が終わらないので、そのうちに他の係員が野次馬に群がってきた。成田空港の税関で執拗な検査を受けるイラン人の心境がほんの少し理解できた。国をオサラバするのに執拗な検査をする意味がわからないが、それが中国という国だ。
やがて、列車はカザフスタンに向かって動き出した。両国の緩衝地帯をゆっくり進んで行き、カザフ側の事務所のあるところで停止した。
カザフ側の税関検査は、バッグの中身をチラッと見ただけの形式的なものだった。そもそも国境地帯の写真をとりまくったこと以外に、我々に不審な点はない。検査が終わったら列車は再度動き出し、国境駅に停車した。ここで、列車は台車を付け替えるために長時間停車する。この作業のために列車は別の作業場に移動するので、荷物を残して列車を降りた。
カザフのお金を手に入れようとしたが銀行はなく、しかしながら近辺の商店や駅の売店で両替することができた。ついでに車内で飲むためのビールなどを買い込んだ。駅にカフェがあったので中に入り、無慈悲な税関検査をかいくぐり、国境地帯の写真を思いっきり撮影しても誰にもとがめられずに国境を通過することができたことを祝して乾杯した。そのうちに列車が駅に戻ってきて、その間ずっと列車内に留まっていた別の日本人も合流してきて再度乾杯した。その後、買い物を終えて駅のホームに戻ったら、我々が乗ってきた列車が見当たらない。駅を見渡したがどこかの引込み線に移動した様子もない。「もしかして、もう行っちゃった?」
これが仕込みのバラエティ番組だと、一斉に女の人の声で「えーっ」とか「わーっ」とか声が入るところだが、何も聞こえない。これはノンフィクションである。
ここから当分の間、写真はない。国境でのしつこい荷物検査を警戒して、デジカメのバッテリー電池を、わざとバッテリー切れのものに取り換えた。こうすれば、画像を見せろと言われても、バッテリーがあがっちゃったんです、とかなんとか言って見せずにすむという小癪なことを考えてのことだったが、使える方のバッテリーは荷物の中に入れて列車の中に置いておいたまま駅を降りた。そしてその列車が我々をおいていってしまったというのが前回までのお話し。
さて、カザフスタンの片田舎の国境駅で置き去りにされた我々。しかしながら、ビールの酔いが抜け切れず、深刻な状況であることが実感できないでいた。というより、この状況がバラエティ番組のひとコマのような感覚だったのかもしれない。
そうはいってもこのままぼーっとしているわけにはいかない。皆荷物を車内に置いたままで、中にはパスポートを車内に置いておいた者もいた。私も替えのコンタクトを車内の荷物の中に入れたまま、手ぶらの状態。まるで豊橋に散歩に出かけるような姿だ。正確に言えば、片手に商店で購入したビール2本とポテチとなぜかレッドブルを1本持ってはいたが。
まず、今我々はここで何ができるか。駅の女性職員に助けを求めた。しかしながら職員は英語はちょっとしかわからない。それでも全くわからないよりかなりましだ。我々のうち一人だけロシア語がちょっとできたが、やはり意思の疎通はしんどい。それでもなんとかして我々が列車から置き去りにされたことは理解してもらえた。ちなみに自分はロシア語は読めるが会話はできないので、ここでは全く役立たず。
職員はどこかへいろいろ電話をしてみたが、どうにもら埒が明かない。タクシーをチャーターして列車を追いかけることを提案してみたが無理のようだ。ただ、幸いなことに5時間後くらいにこの駅からアルマティ行きの列車が出る。結論としては、60ドル払ってこの列車に乗り、アルマティに着いたらこの職員の携帯電話に電話する、ということになった。ただし、パスポートを保持していないのはちょっとまずい状況なのだろう、この列車内でおとなしくしていなさいということで、車内でずっと反省していた。切符も、窓口ではパスポート確認を求められ買うことができないのだろう。職員と顔なじみの車掌に代金を直接渡した。
乗り込んだ車両は、今まで乗っていたタイプのものよりランクが落ちた。日本の3段式B寝台のようだが、ただし最上部はベッドでなく荷物置き場だ。通路側にも3段式ベッドがあり、1区画に6人が入る。ベッドの幅は狭くて寝返りを打つのにも難儀する。中段は上段の荷物置き場がすぐ上にあり、まるでカイコ棚のようで、腰の悪い私が足場をよじ登ってベッドに寝転がるのも一苦労。当然エアコンはない。しかしながら、通常では乗ることのない車両に乗ったというのは話のタネにはなる。誰かが荷物を持っていきやしないかとか、日本大使館に連絡した方がよいかとか話をしながら相当待った後、やっと列車は出発した。列車がアルマティに向かって動き出すといくらか気分が楽になった。
やっとこさ列車は動き出した。待ちに待った時間だ。しばらくの間ずっと外を眺めていた。ときどき湖とかバンガローのようなものが見えたりもするが、基本的にはずっと同じような風景。
途中何ヶ所か駅に停まったら、車内は満員になった。夜になって、前日あまり眠っていないことと、やることがないことから、とっとと寝ようと思ったが、暑くて、またベッドが狭くて硬くてなかなか眠れない。それ以前に、ベッドに横になるのに一苦労。通路に落ちやしないかとひやひやもした。ロシア人は意外と器用なのだろうか。この夜は本当にしんどかった。体力を吸い取られた感じだった。
翌朝は5時過ぎに眼が覚めた。コンタクトをつけたまま眠ったが、今のところ見えにくいことはない。しかしながらこのままでは間違いなく目にダメージがいくので、もし荷物が見つからなかったら、旅行をあきらめなければならない。
線路は、カザフスタンとシベリアを結ぶ幹線のはずだが、単線だ。ところどころロングレールになっているのか、線路の状態は悪くない。しかしながら車両が古いのか、よく上下に揺れる。そして貨物列車とよくすれちがう。列車はほぼダイヤどおりに走っているようで、12時過ぎにアルマティに到着した。構内に入る前に列車は徐行するので、国際列車がどこかに停まっていないか注意深く見てみたが、見当たらない。
列車から降りて、国境駅の駅員に電話してみたが繋がらない。仕方がないので、駅の中にある荷物預けか忘れ物を管理していると思われる部屋に行ってみたが、我々の荷物は見つからなかった。おばさんに喚かれただけだった。案内所にも行ってみたが、どうにもうまくいかない。荷物ターミナルに行ってみたらと言われ、あるわけないじゃんと思いながらもダメ元でそこにも行ってみたが当然ない。さすがにちょっと焦ってきた。
手詰まりとなり駅舎に戻ったら、我々の面倒を見てくれた、先ほど我々が乗っていた列車の車掌がいた。もしかしたら我々のことが気になっていたのかもしれない。荷物が見つからないことを伝えると、どこかへ電話した後、ついて来るように言われた。駅舎の反対側の、引込み線車庫のような所に入っていった。すると、我々が乗っていた国際列車が停まっているのが見えてきた。車掌が車両のドアをガンガン叩くと中から中国人車掌が現れ、ドアが開けられた。そして中に入って我々のコンパートメントにたどり着くと、我々の荷物がそのままの状態で置いてあった。中身も無事だった。というか、何もせずに放置されておかれていたというのが正しいかもしれない。
本当によかった。親切なカザフ人のおかげで旅を続けることができる。駅構内のカフェで反省会を兼ねた昼食をとって解散となるところだったが、ここからの進行方向も皆同じだったので、みんなで地下鉄に乗った。私は次の駅で下車するので、皆の良い旅を祈りながら握手して別れた。
地下鉄駅からしばらく歩くと、予約していたホテルにたどり着いた。「オトラル」というホテルは、旧ソ連時代はインツーリストホテル、すなわち外国人が泊まれるホテルであった。チェックインは何の問題もなかったが、部屋自体はとても代金に見合うものではなかった。ホテルについてはあまり選択肢がない街のようで仕方がない。
本当に疲れた。部屋の中のエアコンの前に座って何度も「ああ、疲れた」とつぶやいた。口に出さないと疲れが体から出ていかないような気がした。本来なら早朝にアルマトイに到着し、昼間は観光にあてるつもりだったのだが、そんな時間も気分もなくなった。しかしながらまだこれからも大事なミッションが続く。明日は中国行きのバスに乗って国境を超える。そのためにバスの切符を入手しなければならない。翌朝中国行きのバスに確実に乗るためには、本日中に切符を買っておいた方がよい。だからいつまでもホテルで引きこもってはいられない。しばらく休憩した後、最後の力を振り絞ってバスターミナルへ出掛けた。
ホテルのすぐ近くにバス停があり、ガイドブックを見ながらバスターミナルへ行く市バスを探す。バスの行き先表記はキリル文字のカザフ語と番号だ。バスは案外すぐに見つかった。結構たくさん走っている。バスの中に入ったら現金を入れる機械が目に入った。硬貨をいれるとレシートが出てきた。これでOKのようだ。
ちょうど街の中を東から西へ横断するようなコースで30分くらいかかって街外れにあるバスターミナル「サイラン」に到着した。ややくすんだコンクリートの固まりのような建物だ。チケット売り場に行く前に、バス乗り場を探してみたが、ウルムチ行きのそれは見当たらなかった。事前情報ではあったのだが。だけど別に今日知ってしていなければ都合が悪いわけではない。明日になればそれがどこかわかるだろう。次いで中に入り切符売場へ。窓口は五つぐらいあるが、どこに行けばわからない。しばらくの間様子見。言葉がわからない人間が行っても邪険にされなさそうなタイミングを見計らってある窓口に突入したら、2番(だったかな?)窓口へ行けと言われた。そしてその窓口で「ザーフトラ(明日)、イーニン」と言ったら、「イーニン、ニェット(ない)」と返された。「じゃあ、ウルムチ」と言ったらあっさり買えた。8800テンゲ、約5千円だった。ここもちょっとした山場だと思っていた。もし国際バスがなかったら、国境の街ジャルケント行きのバスを探しそこから国境へ行くか、もしそれさえなければ乗り合いタクシーを見つけるか、個人タクシーをチャーターすることも考えていた。これで中国に帰れる、帰るに値する国かどうかは別にして。バスはウルムチ行きだが、国境を超えたら途中下車すればいい。
アルマトイはトラムが健在。ただし本数は少ないようだ。
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