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古波藏契             「ポスト島ぐるみ」の沖縄戦後史 感想


◆書名 ポスト島ぐるみの沖縄戦後史
◆著者 古波藏契(こはぐら・けい)
◆出版 有志舎
◆価格 2,800円(税別)
 
 「ポスト島ぐるみ」をテーマに、沖縄出身の若き研究者が、沖縄戦後史の解明に挑む意欲作。
 本書にとりかかる前提として、「島ぐるみ」とは何のことかを抑えておく。「島ぐるみ」とは「島ぐるみ闘争」、つまり1950年代の後半、沖縄の各地で沸き起こった「島ぐるみ土地闘争」のこと。
 当時沖縄を統治支配していた米国民政府(USCAR=ユースカー)による、一方的で暴力的な土地取り上げに対して、沖縄住民が「総決起」した抵抗行動を「島ぐるみ闘争」と総称する。
 著者は、このたたかいが起こった必然性とともに、その枠組みと闘争そのものの終息が、結果として、今日の沖縄における保守・革新という「分断」の起点になったことを指摘する。
 その理解の導きとするために、「マイホーム主義」というキーワードが提示される。これが本書の最大のテーマ、と考える。
 では「マイホーム主義」とはなにか。
 「自由と民主主義の国」アメリカが、全体主義国家である「社会主義国」と比べて、文化や生活スタイルなどを含め、圧倒的な優位であることを知らしめ、世界を「アメリカ一色」に染めようと取った政策であり、冷戦下において、アメリカが世界中でおこなった統治政策でもある。もちろん本土でも。
 それは「頑張って働けば、いつかマイホームを手に入れ、豊かな暮らしができるのだ」というライフストーリー、言い変えれば「国民総中流社会」を実現し、社会から格差と貧困を覆い隠すことによって、「アメリカの言う事を聞いていれば、みんなが幸せになれる」という幻想をふりまいた。
 この支配戦略は、島ぐるみ闘争後の沖縄住民の中に一気に広がっていく。

 その帰結の一つが復帰運動の挫折である。多くの沖縄住民が望んだ復帰=「基地の全面返還」は実現せず、日本政府の言う「核抜き・本土並み返還」が、あたかも県民の総意であるかのようにすり替えらた。復帰運動は一部の労組や民主団体では激しい闘争になったが、1950年代の島ぐるみ闘争のようなたたかいにはならなかったのだ。


 本書を読み考えたのは、この歴史から現在とこれからの沖縄をめぐるたたかいを、どうしていくのか、ということだ。私たち本土=ヤマトの人間は、沖縄のたたかいを総称して「島ぐるみ」、近年では「オール沖縄」と表現することが多いと思う。本書を読み、そうしたくくり方だけで沖縄のたたかいの展望を本当に語ることになるのか、という思いに駆られる。
 「マイホーム主義」という手段で沖縄県民を分断し、「基地のない沖縄」を阻害している原因を究明し、その根源を取り除くために何が必要なのか。本書が問いかけるものは、大きく深いものであることを痛感する。

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