どんなことにも

その頃、私はよく、もし生きたまま枯れ樹の幹のなかに入れられて、頭上の空にひらく花を眺めるよりほかには仕事がなくなったとしても、だんだんそれに慣れてゆくだろう、と考えた。そうすれば、過ぎてゆく鳥影や雪違う雲の流れを待ち受けるだろう。今ここで、弁護士の妙なネクタイの現われるのを待っているように。また、あのもう一つの世界で、マリイのからだを抱きしめるのを期待しながら、土曜まで我慢していたように。ところで、よく考えてみると、私は枯れ木のなかに入れられたのではない。私より不幸なものだってあったのだ。これはまたママンの考え方で、ママンはよく口にしていたものだが、人間はどんなことにも慣れてしまうものなのだ。

カミュ「異邦人」

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