ギュスターヴ・ル・ボン「群衆心理」 教育と訓練③

国家は、ひたすら教科書をたよりに、これらすべての免状所有者をつくりあげるが、そのうちのごく少数しか採用できないから、勢い他の者たちは無職のままでいることになる。したがって、前者を養い、後者を敵とすることを覚悟せねばならない。
社会階級の上下を通じて、免状所有者の恐るべき大群が、今日、種々な公職をとりまいている。貿易商が、自分を代表して植民地へ行く代理人を一人でも見つけるのは、すこぶる困難であるのに、官職の最も低い地位であっても、何千という求職者によって求められている。セーヌ県だけでも、職のない男女小学校教員資格者を二万名も数える。彼等は、田端や工場を蔑視して、糊口の道を国家に仰ごうとしている。ところで、採択されるものの数は限られているから、勢い不平をいだくものの数が甚大となる。この後者が、首領の誰たるを問わず、また追求する目的の何たるを問わず、どんな革命にも参加しかねないのである。無用の知識の獲得は、人間を反逆児に変える確実な方法である。

このような時流に逆行しようとしても、明らかに、もはや手おくれである。民族の窮極の教育者である経験のみが、われわれの誤りを示してくれるであろう。ただ経験のみが、いまわしい教科書や憐れむべき競争試験のかわりに、職業教育をもってする必要を立証してくれよう。この職業教育が、今日見すてられている田畑や工場や植民地の事業へ、青年をたちもどらせることができるのである。

今日あらゆる指揮者によって要求されているこの職業教育とは、かつてわれわれの父祖が受けていた教育であり、かつ現今その意力と創意と企業的精神とによって、世界を支配する諸国民が、保存することのできた教育である。テーヌは、注目すべき著作・・・・・・その主要な数説をもう少し先で転載するが・・・・・・において、フランスの昔の教育法が、今日のイギリスやアメリカの教育法とほぼ同じであったことを明瞭に説き、そして、ラテン系制度とアングロ・サクソン系制度との注目すべき比較によって、この二つの方法から生ずる結果をはっきりと示した。


(つづく)


ギュスターヴ・ル・ボン 「群衆心理」

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