ブラジルの川にいる小さな魚

ブラジルの川にいる小さな魚のことは、むろんお聞きになったことがおありでしょう。やつらは何千と群れをなして、不注意な泳ぎ手に襲いかかり、小さな口でせかせかと食いちぎって、またたくまにきれいにし、真っ白な骨だけにしてしまう。いいですか、それこそまさしく彼らの組織なんですよ。「あなたはまともな生活をもちたいですか？みんなと同じように？」あなたはもちろん然りとおっしゃるでしょう。どうして否といえましょう。「よろしい。ではあなたをきれいにしてあげましょう。ほら職業だ、ほら家族だ、ほら御仕着せのレジャーだ」というわけです。そして小さな歯が肉に、それから骨までくらいついてくる。しかしそういってしまっては片手落ちですな。それが彼らの組織だと決めつけてはいけない。要するにそれはわれわれの組織なのであって、誰もが先を争って相手をきれいにしようとしているんですから。

カミュ「転落」