村上春樹「ねじまき鳥クロニクル」 求人広告

電話を切ると、僕は新聞を持って縁側に行き、いつものようにそこに腹ばいになって寝そべって求人広告のページを開け、その不可解な暗号と暗示に満ちた広告欄を、端から端までゆっくり時間をかけて読んでいった。世界にはありとあらゆる種類の職業が存在していた。それらはまるで新しい墓場の割当図のように、新聞の紙面を小奇麗な枠できちんと区切って並んでいた。でもその中から自分に向いた職業をひとつ見つけだすことなんて、ほとんど不可能であるような気がした。たしかにその枠の中には、たとえ断片的であるにせよ、情報なり事実なりが存在しているのだけれど、その情報なり事実なりは、どこまで行ってもイメージというものにぶつからなかったからだ。そこにずらりと並んでいる名前や記号や数字は僕に、あまりにも細かくばらばらになってしまったせいで、復元することがもはや不可能になってしまった動物の骨を思わせた。


村上春樹 「ねじまき鳥クロニクル」

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