「経営が苦しいから」ではない

彼らが「ブラック」と呼ばれるような労務管理体制を敷いているのは、日本がグローバル化しているからではない。では、なぜ従来型の経営ではなく、使い潰しを行うのか。

端的にいって、それはサービス業で莫大な利益を出すための方法論である。外食にせよ小売りにせよ、サービス業は労働集約型である。販売やサービスを提供する社員が、成果を出せる範囲はおのずと決まっているからだ。ユニクロでは本社の決定したマニュアルが厳しく社員に行きわたっていることが有名だが、そうしたマニュアル労働に従う以上、多少の能力の差はあっても、最後は体力勝負にならざるを得ない。

つまりどれだけの時間、どれだけの賃金で働いたのか、ということが重要になる。社員が「安く・長く」働くほど、利益は大きくなっていくのだ。こうした点は、製造業を中心とした従来型企業とは異なっている。研究開発や製造工程の革新で、大きく生産性を上げることができる場合には、「安く・長く」以上のイノベーションがある程度可能だからだ。

エステ業界や介護事業であれば、尚更イメージしやすいだろう。直接的に対人サービスを行う以上、「生産性の上昇」にはおのずから限界がある。1時間の間に接客できる人数は、どんなに頑張っても2倍や3倍には増えない。喫茶店の東和フードサービス事件の場合にも、人数をぎりぎりにしていたのは、このような労働集約的な作業を「限界を越えて」行わせることが、利益を増やす手っ取り早い方法だったからだと推察できる。

こうした事情はIT業界にも当てはまる。IT企業の利益は、「人数×時間・日数」で決まる。ITの場合にも顧客から求められるサービスを提供することになるのだが、末端のプログラマーになると工夫の余地は少なく、上から降ってくる要求にひたすら打ち込みで答えることになる。だから、単価が時間単位になる。

ただし、ITにせよ小売りにせよ、繰り返しになるが「幹部」はまったく別だ。マーケティング戦略を、情報管理の「設計」そのものを行うITコンサルタント業務も、極めてクリエイティブな仕事である。ユニクロにしても、独自の商品開発力が利益の源であることは皆が疑わない。

だが、そうした論理は末端のプログラマーや「販売員」である店長にまでは適用できないはずなのだ。

このように、サービス業では「労働の搾取」が厳然とあらわにならざるを得ない。「安く・長く」働かせるほど、そのまま利益へと結びつく。古典的な「搾取」といってもよい。これらは「利益」の源泉なのであって、けっして「グローバル競争だから仕方ない」といった類のものではない。

例えば、社員には残業代が支払われず、休憩も与えないために支障を来していた一方で、たかの友梨ビューティクリニック(株式会社不二ビューティ)の社長・高野友梨氏は膨大な財産をため込んでいることが報道されている。2008年には「ハワイに3軒目の別荘を10億円で購入しました」「宝石も不動産もすべてキャッシュで買ってます」(ムック「セオリー」Vol.5で語っている。

<テレビでは富士山麓、ハワイ等四軒の別荘所有を明かし、セレブぶりを喧伝することも多い。住まいは渋谷区内の高級住宅地に立つ一軒家だ。
「土地はバブル期の購入で13億円。建物は三階建てで約300坪あり、軽く数億円。問題は、土地購入も家の建築も会社が金を出したことです。さらに、業績が落ちていた一昨年に、また会社の金で豪邸を立て直し、本人が“終の住みか”を公言しています。(後略)」(調査会社担当者)>(「週刊文春」2014年9月11日号)

文春の取材に答えて、社長は「家は会社の研修センターとして利用しており、家賃も支払っています」と語っているが、とても「経営に困っていたから社員に休憩を与えなかった」という話ではない。

ユニクロの柳井市の場合には、さらに桁外れだ。東洋経済の『役員四季報2013年版』によれば、2011年5月から12年4月に本決算を終えた上場会社のうち、経営者の配当収入、役員報酬の総額を計算したところ、2位はユニクロ(ファーストリテイリング)会長兼社長・柳井正氏で配当収入50億9300万円で、総額52億円4300万円、5位の日産自動車会長兼社長、カルロスゴーン氏(総額10億4900万円)のおよそ5倍に上る。
(中略)
最近でこそ「ブラック企業」という社会的非難からワタミなどが業種を悪化させているが、そもそもはワタミも、過労死事件を出した「日本海庄や」にしても、極めて好業績な成長企業だった。決して「経営が苦しいから」、仕方なく若者を虐待しているのではない。


(つづく)

今野晴貴 「ブラック企業2 『虐待型管理』の真相」

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