【第6回】青森県信用保証協会 小山内課長「信頼の残高:実体験に基づく誠実な“組織論”(前編)」~呼ばれたら飛んで行く「地方創生」屋さん~

地方創生DXコンサルタントとして活動していく中でご縁があり株式会社猿人様主催の「自治体DX 友だちの輪」にてコラムを掲載させていただいておりました。

こちらのコミュニティが昨年度で終了したとのことで今回、猿人様よりこれまで投稿していた記事を私のNoteで掲載する許可を頂きましたので投稿していきます。

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こんにちは、地方創生DXコンサルタントの廣瀬です。

今回ご紹介するのは青森県信用保証協会の小山内課長です

筆者がお会いしたときは弘前支所の支所長を務められておられました。現在は県保証協会のシステム担当課長にお役割を変えられておられます。実は小山内課長は島根県信用保証協会の小野部長から「青森の保証協会にも熱い男がいる」としてご紹介いただいたことがお会いしたきっかけでした。

コロナ禍で青森への訪問がなかなか叶わずWeb会議で最初はお話をさせていただきました。そこで既に私達の地方創生取り組みに対して大きく賛同していただき、初回訪問からセミナー企画を始めとして、多くの弘前・青森の有識者をご紹介いただき、その後もLINE WORKS展開を軸にした地方創生DX活動に多大なるご協力を頂いております。今も青森県内の熱心なご賛同者は小山内課長からのご紹介ご縁が多数を占めております。

では、小山内課長のインタビューです。

筆者:小山内さん、今回はありがとうございます。

まずそもそも信用保証協会ってどんなところですかということを教えていただけないでしょうか。おそらくこの記事を読まれる方の中にも金融に明るくない方はその存在すらもはっきりご存知ない方が多いかもしれません。私がいつも第三者に説明するときは市中金融機関の後ろで最後の融資判断のゲートキーパーとして地域や事業のサポーターとしての銀行でも良否が判断できない案件の融資保証を行っているところだよ、と説明しておりますが、是非ご当人からお聞きできましたらと思います。

小山内課長:いつも保証協会のPRをありがとうございます笑。保証協会の役割とはおっしゃる通りです。ただ、我々は一つ一つの案件ごとに“良い悪い”の判断をするだけではなくて、その企業/事業がやろうとしていることが地域にとって必要な事業なのか良い影響を与える事業なのかも踏まえて判断すべき組織だと考えています。我々は保証を行うだけではなく事業の改善支援を銀行・支援機関任せにせず、経営者と一緒に中小企業の経営健全化を主体的に支えて行かなければならないし、今の経済状況を考えると、そうしなければいけないフェーズになってきていると考えています。

筆者:ありがとうございます。となると、場合によっては銀行がやるべき個別の企業に寄り添うようなお付き合いの仕方も保証協会が担うべきケースもあるのだということでしょうか。

小山内課長:はい。銀行/支援機関だから、保証協会だから、何をしなくちゃいけないという境界線は無いと思っています。それこそ、コロナ禍には来店客が激減した飲食店のテイクアウト弁当のちらし一枚作ることをお手伝いするようなことでも必要な支援だと考えています。大切なのは地域にとって必要な事業がピンチのときに誰かその時に寄り添っている人/寄り添ってあげられる人が必要な支援をやってあげれば良いと思うのです。青森の保証協会、保証協会連合会もそこまで踏み込もうよ、という流れになっています。

筆者:なるほど。その存在を知っている方でも保証協会と聞くとちょっと敷居が高い印象がありますが、事業が苦しいときなどはどんどん相談してくださいということですね。

小山内課長:おっしゃるとおりお客様は敷居が高いイメージをお持ちです。お客様には「困り事や相談事がなくても、事務所にお茶を飲みにでも来て下さい」とお伝えしています。我々は経営者みなさんが苦しいときこそ知恵を働かせてなんとか事業が続けられるようにご支援したいと考えています。いま、地域の状況を見回してみるともちろん良いところ希望が強いところもありますが県民の生活を考えたらとてもじゃないけど安心できる状況ではありません。コロナ禍の影響はもちろん少なくないのですが、まずこの状況を自分ごととして考えないといけないと思います。だからこそ、我々も企業側に寄り添って事業の成果が出せるところまで伴走しなくてはいけないと思います。

経営支援・創業支援だといっても、一通りのテンプレート的な計画立案してそれだけで支援を終えていないか、その内容は現実的か、実行する主体の社長はそのプランに自信を持てているか、そこまでしっかり地に足をつけて考えているのか、そこが重要だと思います。“あなたが社長だったらそれ本当にできるの?そうじゃないといくら計画を書いたとしたって絵に描いた餅になってしまうよ”ということです。

そしてもう一点大事なことは、支援終了後もしっかりとその企業が社長と従業員全員で自走できるまでのイメージが描けているかということです。ここまでやって始めて具体的な経営支援・創業支援だと思います。もっと経済的に余裕があった頃であれば少し控えめに支援の形を考えても良かったかもしれませんが、今は全体が危機です。できるところができることを全力でやらないと地域総倒れになる危険があると感じています。

筆者:それは経営者にとっては本当に心強いことだと思います。私も経営者のときにそんなご担当にお会いしたかったです。現在の青森信用保証協会はどうですか?そこまでの支援をしっかりやれている印象ですか?

小山内課長:全体的にやる気はあります。特に若い層にはやってやろうとしている人が少なくないです。ひしひしとその熱量を感じるところもあります。一方で我々の課題なのですが“そこまで踏み込んでやってもいいのか”と躊躇してしまう層もいます。その理由としてはやはり企業の支援に深く踏み込むという態勢を取るとそれなりに時間も労力もかかります。既存の仕事が忙しすぎてそこまでは踏み込めないという人たちがいます。実際、保証審査業務や返済延滞期中管理などに追い立てられてしまって手がつけられない、そういう場面も現実には見受けられます。そこで、どこが業務のボトルネックかがわかれば、必ず我々の内部にも解決策は少なからずあるはずです。私の今のシステム担当としての役割はそこにこそ多くのやれることがあるはず、そう思って組織の課題解決に臨んでいます。

筆者:システム担当としての鑑ですね。

小山内課長:やめてください笑。でも、そうありたいと思っています。まだまだ力不足を痛感しておりますが。そこはLINE WORKSの導入も重要になってきます。しっかり廣瀬さんもご支援お願いします。

筆者:承知いたしました。ありがたいお言葉です。

小山内課長:とはいえ、システム担当としての領域ではないところでも別の課題を感じることもあります。

具体的な案件レベルで見渡してみると、事案の受け渡しが属人的になっている側面が少なからずあります。組織全体が同じ方向性で同じゴールを目指して動いていければいいのですが、実際は特定の人たちが高い目標を目指して現場を回して頑張っている、そういう側面もあります。これは協会も金融機関も同じ。日本全国そうなのかな、と思うところもありますが。他県の保証協会を見ても、島根・石川・岐阜・栃木・大阪などは属人化しすぎずチームとして全体の方向性を揃えて足並みうまく現場が動けている印象があります。そういった拠点は幹部職員が強いメッセージを組織内に発信して、自ら現場で旗振りして方向性を示してくれています。私も弘前で拠点の長を担っていて、自らプレイングマネージャーをやっていると個人の力にはやはり限界があると強く感じました。その限界をもっと最大化するためにはリーダーたちが進むべき方向性や価値として何を大切にしているかを具体的に発信する、そして実行部隊を強く支援する形を取らないとチーム全体としてなかなか機能しないと感じました。その上で幹部職が、自ら現場で起こることの責任を取る形で裁量や権限の移譲をもっともっと現場へ渡していくことが必要に思えます。

筆者:なるほど、まず具体的な方向性やして欲しいアクションを示してその上で、管理を強めるのではなく自己裁量で進めることを許容する、でも何かあったら責任は取るリーダー像も求められるということですね。

小山内課長:そうです。と言っても簡単ではないですけどね、その様に務めねばと思います。

筆者:これまでの働き方、市場への向き合い方をもっとその様に変えていきたいと考える方は内部には多いのですか?変えていきたい、と動いている方はいらっしゃるのでしょうか。

小山内課長:もちろんいますよ。組織の中って面白くて、当たり前のように変革したい人もいれば超保守派もいるそしてどちらでも無くバランスを重視する人たちもいます。新しいことへの好奇心や喜ばれることへの達成感が働く動機として勝る人もいる一方で、新しいこと・自分の仕事が失われるのではないかというリスクを感じてしまって、良し悪しの問題ではなく心配する気持ちの方が強くなってしまう人達もいる。ここで大切なことは、企業・組織はあくまでも御一行様なわけです。同時に、組織として生き延びていくためには、時代に合わせたアップデートをしていかなければならない。今は社会環境の変化があまりにもドラスティックすぎて、組織内の意思統一がまだ変化のスピード感においつけていない現実が目についてしまっています。

筆者:なるほど、誠実な分析ですね。そして“御一行様”という表現、強く私も共感します。今の組織における悩みとして、変化にスピード感上げておいつけていない状況をどうしていこうとされていますか?

小山内課長:今は未知の変化がどんどんやってくるので、落ち着くまで様子を見るなんてできやしないです。とにかく価値ある試みは、まずやってみるしかない。駄目なら直せばよい。PDCA回すとか難しい話ではなく、やってみようよまず、そして良くないところはしっかり評価して修正していけばいいんです。

今の我々のスピード感でよしとしていたら、我々はゆでガエルになるのを待つんですか?という話になる。気づかないうちに時代のニーズに取り残されるという危機感を持っています。そういう意味では、個人としてどういう風に考えられるリスクをヘッジするのかという点について、組織としてはどうやって個人を安心させてあげるのか、という捌き方が必要だと思っています。リスクを抑止できなければ個人として責任を追求される、そういう心配が動きを止めてしまうことをなくしていかないとスピード感が出ませんから。

筆者:その点については私のプロジェクトリーダーとしての経験でお伝えできることが一つあります。日本型の企業やプロジェクトで多いのは、リスクのコントロールを個人に委ねてしまい、いざリスクが表出して問題になってしまった際にその個人を追い詰める傾向が少なからずあります。これは叱責するといった具体的な行動ではなくとも、“残業・休出してでも終わらせろ”というのがよくあるケースですが。これは正直リーダーに管理能力が無いからです。これはどうしたら良いかというと、プロジェクトの計画を立案する際には各メンバーには必要な作業期間に一切のバッファ・余地を組み込ませないんです。「本当ならうまくいけば3日で終わるが念のため5日」という設定を許さない、その場合は3日しか作業期間を与えないのです。これは逆に厳しすぎるのではと思われるのですが、そうではありません。スケジュールのバッファ・余地はすべてプロジェクト全体でリーダーが管理するのが正解です。そうしないと、結局現場では納期前に納品することは少なくバッファ期間を各現場で使い切ってしまうという事態が当たり前になります。当然プロジェクトの推進に時間的余裕はほとんどありません。そして結局遅延する。日本のITプロジェクトあるあるです。個人の作業タスクには時間的バッファを認めない、そして想定外のことが起こった場合は個人を叱責せず状況を冷静に把握した上で必要な追加時間をプロジェクト全体のバッファから提供する。このアプローチを取れば常にある程度のバッファをプロジェクト全体で保持したままでプロジェクトを完遂することができます。私はこのやり方で一度もプロジェクトの期限・予算・品質を守れなかったことはありません。

小山内課長:なるほど。そうすることで個人は自分の責任を全うすることに集中できるし、いざという時の報告も早くなるし、いいことばかりですね。自分で経験されているからこそですね。面白い。

筆者:そうなんです。実は日本のプロジェクトマネージャたちって結局、現場の積み上げと感覚でやっているところが多くて、現場は疲弊しちゃっていることが多いんです。

小山内課長:これってでも、リーダーとメンバーの信頼にも繋がりますね。うまくいかなくても話を聞いてもらえる、そして挽回のチャンスももらえることになるし。

筆者:そうなんですよ。結局、人と仕事する際には相手の方が何を大事にしているかをお互い尊重することで生まれる信頼がまた新しい仕事や縁を更に広げてくれることが多いですよね。

小山内課長:そういう意味では我々も地域の事業者皆さんとは信頼ベースで仕事をしなければならないと思います。私は良く“信頼の残高”という言葉を使います。

本日、廣瀬さんをご紹介した経営者の方も、微力ではありますがいろんなことをこれまでお手伝いさせていただけたかなと思っています。それが少しずつ相手方の感じるところに私達に対する“信頼の残高”として積み重なっているから、地域のためと面倒くさいことをお願いしても、我々がそれを使い潰したりしないかぎり快く二つ返事でOKしてくれる。これって本当にありがたいことですが、まず我々が地域にとって必要な存在である企業皆さんに対してどう寄り添えるか、それが常時我々の態度や仕事にかかっていて、そのすべてが信頼の残高に置き換わっているんだって思えるのです。同時に、有能な経営者のみなさんは大いに“Giver”の精神をお持ちでいらっしゃいます。まずご自分が先に良いと思った/共感した人・事にはご自身からいろんなものを先に提供されることを自然にやっていらっしゃる。これはきっと“信頼の残高”を積むことを習慣として日常的に実践していらっしゃるんだなって思います。

筆者:小山内課長にご紹介頂いた皆さん確かにその様なお人柄な方ばかりですね。相互信用ネットワークというイメージです。

小山内課長:本当にありがたいことです。我々保証協会もお世話になってばかりでは信頼の残高を食いつぶしてしまうのでもっと頑張っていかねば、です。

▶後編へつづく

©2023年 株式会社猿人ならびに「自治体DX 友だちの輪」コミュニティ

本資料は株式会社猿人主催「自治体DX 友だちの輪」コミュニティにてコラム掲載。
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