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2023年に読んだ本 10選

「今年出版された」ではなく「今年読んだ」本です。ノンフィクション、エッセイ、小説、画集など全部で54冊(12/18時点)でした。多くはありませんが、後回しにしてきた分厚いのを多く読破できた充実の1年でした。


①.『口訳 古事記』 町田康

「今年出版された」中で1番好はこれです。以前から日本の神話に興味はあり、「町田康の訳?なら読むしかない!」と即買いでした。
ポイントはやはり文体。すっとぼけた関西弁のリズミカルな会話。身も蓋もなく、即物的な登場人物たち。ウェットな情緒が一切ないからこそ、荒涼とした現代に甦っています。
何より、神様たちのしょーもなさ。非常に政治的かつタブーになりやすい歴史ですが、本当はそれ自体しょーもないということを突きつけられます。
どんな立場の人であれ、この馬鹿馬鹿しさをカジュアルに話せたらいいなと思ったり。ということで、たくさんの人に読んで欲しいです。


②.『北関東の異界 エスニック国道354号線 絶品メシとリアル日本』 室橋裕和

これも今年の傑作。室橋さんは『日本の異国』や『ルポ 新大久保』など、一貫して日本に移民してきた外国人コミュニティを取材されてきた人です。

今回は群馬・埼玉・茨城を結ぶ国道354号線沿いの、急速に「エスニック化」が進む街や人に長期密着。彼らの人生を紐解くことで、日本近現代史も透けて見えてくる…といった内容です。
室橋さんが特に素晴らしいのは、徹底して現場目線で語るということ。
「外国人」と一括で括り・イデオロギーで議論するのではなく、1人1人の人間として考えられる人はどれだけいるでしょうか?
当たり前ですが、「多様性」は多くの手間と厄介な人間関係を乗り越えた先にあります。この本には空虚な思想や議論ではなく、足で稼いだ現場の声があります。何より、相互理解のカギは最もプリミティブな欲求ー「美味しいご飯」にあるというのが素敵です。


③.『マティス展 HENRI MATISSE:The Path to Color』

次は今年、東京都美術館で行われた『マティス展』の画集です。今年はエゴン・シーレ展やキュビスム展などもありましたが、このマティス展が自分には衝撃で、初めて美術館で落涙した程です。
マティス=色彩の人思われがちですが、それ以上に「構図」にこだわり、試行錯誤した人だということが良く分かりました。
最も感動したのは『座るバラ色の裸婦」という絵で、これは生で見ないと正直「落書き?」と思うかもしれません。

↑『座るバラ色の裸婦』 画集の表紙にもなっています

「挫折や苦悩をそのまま作品に込める」ことで、亡霊のような自我を相対化し、その後のブレイクスルーに繋がったのではないかと感じました。


④.『両手にトカレフ』 ブレイディみかこ

ここからは2023年以前に出版された本です。大好きなブレイディさんの小説。大好きと言いながら、あまりにも多作でいらっしゃるので、まだ今年の『リスペクト』と『ザ・シット・ジョブ』は積んだままになっています…

本作は、2019年の『女たちのテロル』が副読本となっています。金子文子について知らなくても楽しめるし、知るとより面白いからです。『女たちのテロル』はノンフィクションですが、小説的構成で読みやすいと思います。

『両手にトカレフ』は、端的に格差がテーマですが、これも現場主義というか、実際に貧困家庭向けの託児所で働いてきたブレイディさん「だから」・「にしか」書けない小説だったと思います。


⑤.『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』 増田俊也

文庫版だと上下巻1200ページ超!大宅壮一ノンフィクション賞、新潮ドキュメント賞を獲った2011年の大作です。僕はプロレスファンで柔道には無知なため、冒頭は「ずいぶんケンカふっかけてくるなぁ…」と身構えましたが、読み進めるうちに、著者・増田さんのピュアさに心打たれました。そんな増田さんが葛藤の果てに、木村政彦を“供養”するラストは感動的です。


⑥.『ハックルベリー・フィンの冒けん』マーク・トウェイン 柴田元幸 翻訳

これも分厚い1冊。ようやく今年読めた2017年出版作です。
手に汗握る展開の連続、人間のむき出しの欲望とそれを包む圧倒的な自然、ハックとジムという魅力的過ぎるキャラクター。確かに批判が多い「終盤のある展開」は冗長ですが、「傑作の言葉に偽りなし」な1冊でした。



⑦.『それでも俺は、妻としたい』 足立紳

朝ドラ『ブギウギ』の脚本を手がける筆者の私小説。「ダメ人間モノ」は、なんだかんだ最終的に主人公が成長してしまうものですが、本作はビックリするくらい最後までクズで終わるので、そこが新鮮で何度も爆笑しました。


⑧.『勝手に生きろ!』チャールズ・ブコウスキー 都甲幸治 翻訳

今年1番「救われた」作品でした。というのも、心底くだらない昨今の「考察ブーム」に辟易しているからです。
全てを深読みする、「作り手が全てコントロールしている」と勘違いする、やれ「伏線」がどうだのと盛り上がる、作り手側も視聴者におもねり、肝心の物語がないがしろにされる、キャラクターはただの道具でしかなく、物語は彼らの感情によって進むのではなく、あらかじめ決められた「筋書き」をなぞるだけ…

ブコウスキーの小説は、その完全に真逆です。ハッキリ言って日記。伏線もへったくれもなく、その日暮らしで欲望のまま、自堕落に生きるだけ。でもそれが人間であり、それこそが人生ではないでしょうか。そして主人公の感情によって話が進むからこそ、その世界に没頭できます。あけすけすぎる性描写、尋常じゃないアルコール摂取量、労働意欲は皆無、時折垣間見える文学愛…痛快で爽快、なにより眼差しが常に「フェア」なのです。

『郵便局』、『詩人と女たち』など他作品もトップ10に入れたいくらいですが、1つに絞るなら『勝手に生きろ!』。ブコウスキーの分身、ヘンリー・チナスキーが主人公の長篇ものでは、青年期(20代くらい?)の設定なので、より無軌道なパワーに溢れています。



⑨.『NBA超分析 語りたくなる50の新常識』 佐々木クリス

バスケ経験者・NBAウォッチャーとして、『スラムダンク』という作品は好きですが、「スラムダンクは好きだけどバスケには興味ない世間」というものに対して、複雑な思いがあります。
世界的メジャースポーツなのに、日本ではそれを描いた1つの漫画作品の方が、“あらゆる意味で大きい”という歪な状況があります。
30年前の作品の”磁場”によってガラパゴス化した日本と、「ほとんど別のスポーツ」に進化した世界の現代バスケットとの間には断絶があります。(『キャプテン翼』の影響でMFに人気が集中し、フォワードが育たなくなったという話に近いかもしれません)

「スラムダンクで止まっている世間」と、いまのバスケの断絶をどう解消するか…『THE FIRST SLAM DUNK』には、井上先生のその問題意識も見てとれました。ラストの場面、アメリカで沢北と対峙するキャラクターが「彼」なのは明らかにそのアンサーです。

前置きが長くなりましたが、この本は『THE FIRST SLAM DUNK』同様、この「断絶」解消のための現代バスケ入門です。
僕がバスケットの魅力だと思うのは、「究極に合理的なスポーツ」ということで、“本来であれば”、理不尽な指導は起こらないはずなんです。
例えば河村勇希選手が高校生の時に在学していた福岡第一は、当時すでにBリーグよりも世界のトレンドに近いバスケットをしていました。その結果、社会人チームにも勝っています。
そう、効率的な練習を積み重ねたチームが勝つスポーツ。だから勝利を突き詰めることと、相互理解や寛容性を高めることが矛盾しないスポーツなんです。もちろんそうじゃないことも多々あるけど、NBAほどリベラルに社会問題に選手がコミットするスポーツ団体もないし、そういった文化まとめてバスケットボールなんです。完璧なタイミングで男子日本代表がW杯で歴史的勝利&パリ五輪出場を決め、Bリーグも盛り上がった2023年、非常に考えることの多い1冊でした。




⑩.『マイ仏教』 みうらじゅん

今年読んだ本のナンバーワンを決めろといったらこれです。山田五郎さんのYoutubeのゲストにみうらさんが出演した回があまりに面白かったので、読みました。

本作は、仏教がどうこうというより、みうらじゅんという人間の魅力が溢れ出ています。「何か」の面白さを伝えるメディア(媒介)はたくさんありますよね。雑誌だったり、映画評論家だったり…その面白さを伝えるうえで、「その人にしか言語化できないかどうか」というのが凄く重要なポイントだと思うのですが、そんな「フィルター」としてみうらじゅんは最強であると言わざるを得ないのです。
とにかく「何か」(この場合仏教)について、語りたくて仕方がないという「異常な愛情」がある。そして徹底的に突き詰めた先で言語化したことが、※みうらさんの功績だと思います。

※「推し」とか「沼」など、「愛でる経済」を日本でここまで押し上げたのも、間違いなくみうらさんの功績です。ただ経済がゆえに、表層的な部分ばかり切り取られているのでは?と感じることもあります。そこも含めて引き受けているところに、みうらさんの器の大きさを感じますが…
僕は器が小さいので、「推し」という言葉は大嫌いです。みうらさんの言葉を借りれば「自分なくし」の状態であれば、そんな借り物の言葉に寄りかかる必要もないと思うから。まあでもならこんな記事書いて「自分の好き」を表明するなよって話ですが笑。難しいですね…ただ昨今の「推し」は、バレンタインにチョコを買わせるみたいな、「消費促進」の側面が強すぎて、そこに大きな違和感を覚えるということです。やりたい人がやればいいだけの話なのに、日本的な同調圧力に取り込まれていると感じるのは僕だけでしょうか?

ということで、今年の10冊でした。
最後に次点の10冊のリンクも貼っておきます。

【次点の10冊】


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