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句具ネプリ2023夏至の好きな句鑑賞

広瀬康と申します。趣味で俳句をしています。
今回は句具ネプリ2023夏至で拝見した句の中から個人的に好きな句をピックアップして、鑑賞文を書かせていただきました。
見当違いの読みをしているかもしれません。句のあとに作者名を敬称略で記させていただきます。



香水を一滴ヒトになる儀式   嶋村らぴ

小瓶から香水を一滴、肌に落とす。たくさんつける必要はなく、たった一滴。それこそが「ヒトになる儀式」だとこの句は言っています。ヒトになる前はヒトではない人外の何かで、香りをつけてヒトになるファンタジーの句として読んでも面白いし、香水をつけることで他者にいい香りを与える社会的動物ヒトになるという読みもありかなと思いました。「香水を一滴」という映像と「ヒトになる儀式」という切り口がすごいです。

素足投げだしてねるねるねるねかな   このはる紗耶

縁側に素足を投げ出して、知育菓子の「ねるねるねるね」を混ぜている。かっこつけたところがない句で、「ねるねるねるねかな」の素直なひらがな表記がかわいく良いと思いました。投げ出した素足で風を感じ、混ざりゆくねるねるねるねに世界の混沌を垣間見ます。

父と打つ海物語夏来る   ゐるす

パチンコ店である。父と横に並び「海物語」の台を打つ。交わす言葉は特にないけれど、お互いに何か思っていることはありそう。パチンコ屋に入れる年齢になった作中主体とずっとパチンコに通ってきた父。親子の物語を一句の背景に感じました。また「夏来る」という季語とパチンコという組み合わせがいいなと思いました。

E=mc²水着買う   菊八

エネルギーと質量の関係式E=mc²。面積で言えばそれほど大きくもない水着がどれほどのエネルギーを秘めているか。E=mc²と夏の季語「水着」の取り合わせが意外にも成功していると感じました。十七音のリズムで読めるところもすごくいいです。水着を買って、エネルギーを使いまくる夏が始まります。

酸化銅の還元静か梅雨夕焼   颯萬

ガスバーナーであぶられ、静かに還元されてゆく酸化銅。人間の積み重ねてきた科学の叡智に耳を澄ます。理科室の窓の外には「梅雨夕焼」。空気中に水蒸気が多くなる梅雨の夕焼はとても綺麗に見える。科学というものさしで世界を読み解けば、感性を理性で支えることができるのだとこの句に教えていただきました。

こどもの日あたりばかりのあみだくじ   後藤麻衣子

こどもの成長を願うこどもの日。あみだくじで何かお菓子でも当たるのでしょうか。大人になってからのあみだくじは、あたりが一個だったり、みんながやりたくないことをやる人を決めたりするものが多かったりします。この句では、こどもたちのこれからの人生をあみだくじになぞらえているのだと思いました。人生の分岐点はこれから何度も来るけれど、そのどれもあたりにつながっている。紆余曲折あるけれど、どの選択肢もきっとあたりにつながっているはずという願いがこめられている一句。

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以上になります。お読みいただきありがとうございました。


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