「#2022年の自選十句を呟く」の鑑賞①

広瀬康と申します。趣味で俳句をしています。

今回はTwitterで拝見した#2022年の自選十句を呟くの句の中から個人的に好きだと思った句をピックアップして、鑑賞文を書かせていただきました。

見当違いの読みをしているかもしれません。句のあとに作者名を敬称略で記させていただきます。(句をクリックすると作者様のツイートに飛べるようにしました)

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ラスボスのように巨大化するトマト   香田ちり
日に日に大きくなっていくトマト。その成長を「ラスボスのように」と表現しているところがユニークですごいです。劣勢に陥ると形態を変え、巨大化したりするラスボスの肉感はまさに、はちきれんばかりに大きくなったトマトの肉感そのもの。見事な比喩だと思いました。

春の風すこし口内炎にしむ   夏風かをる
春のやさしい風が吹いている。あたたかな空気の中吹くその風が、すこし口内炎にしみる。冬の風だったら痛いぐらいにしみそうですが、この句は春の風。だからこそ「すこし」なのでしょう。春の風の心地よさと口の中のほんのかすかな痛み。淡い一句に仕上がっていてすごいです。

惑星の壊れて落つる椿かな   颯萬
惑星をどう読むか。地球のことだと読めば、人間の活動や悠久の時の流れの中で、地球が壊れ、そのときに落ちる椿の感動を詠んだ句に。地球以外のほかの惑星のことだと読めば、遠い宇宙の先で惑星が壊れているとき、地球では椿が落ちたというシンクロニシティの感動を詠んだ一句に。個人的には後者の読みで読ませていただきました。この句ではっと気づかされたのは、「惑星」と季語「椿」が同質量なのではないかということ。こんなふうに季語の重みを響かせられる一句を私も読んでみたいものです。

魚すべて図鑑に戻し夏終る   さとけん
図鑑を広げる。夢中で読むうちに、現実と想像の境界が溶け、図鑑から魚が飛び出し、空中を泳ぎ回る。イマジネーションに泳ぐ魚を堪能したあとは、一匹ずつ図鑑へと還らせ、図鑑を閉じる。気づいたら、落日。夏が終わることに気づく。想像力に長けた人間は、いつ夏が終わったかを感じ取れる感性を持っている。好きな一句になりました。

鱗めりこませ鯛焼割りにけり   田中木江
鯛焼を割るときに鱗をめりこませる。描写力がすごいです。映像がはっきりと見えますし、鯛焼の熱さ、生地の厚さ、親指の感触を読者はこの句を読めば自然と感じれます。「鯛焼」ではなく「鱗」という一語から始める巧さ、確信を持って使っているであろう切字「けり」。すごいです。

賢治忌の魚群を星とするソナー   ギル
童話『銀河鉄道の夜』の作者、宮沢賢治が亡くなった日のこと。ソナーの探知機の暗い画面に魚群の反応を示す光が。それはまるで宇宙の星々のよう。魚群と星を結びつけるという発想がすごいです。もっとすごいのは、「ソナー」と「賢治忌」によって、魚群と星が無理なく結びついているということ。この十七音以外考えられないぐらいに洗練された十七音。

百千鳥校舎の罅を潤せり   常幸龍BCAD
さまざまな鳥が鳴いている。その鳴き声は、校舎の罅の中の乾ききった部分を潤すかのようにやわらかく生命力にあふれた声である。鳥の声が罅を潤すという詩的感覚がすごいです。「百千鳥」というたくさんの鳥の声に対して、校舎というでかい壁を対峙させ、そこから罅という細部に着目し、罅の痛みを季語が癒す。どうやったらこんな良い句が読めるのか、私にはわかりません。

風鈴と風の別るる音だらう   石井一草
風鈴が鳴る。その音はきっと風と風鈴が別れるときの音であるだろう。風鈴の音をこんなに詩的に表現できるとは。風鈴と風の擬人化が心にすっと入って来るのはなぜでしょう。下五の「だらう」というやわらかい推定が効いているのだと思います。私が感動したのは、別れるときに音が鳴るということ。人と人も別れるときにも、風鈴のように凛と切ない音が鳴っているのかもしれません。

降る雪の白って二百色あんねん   石井一草
アンミカさんの「白って二百色あんねん」という言葉を用いての一句。多様性の時代。降る雪の白さにも二百色ある。リズムがよく、口語だからか、アンミカさんの声で聞こえてくる。破壊力とともにすさまじい肯定を感じる。百や千だとどこか嘘っぽい。二百という数詞の確かさ。

水の味さへ濃し俳句甲子園   福みつこ
ディベートに備え、のどを潤すために水を飲む。いつもは味なんてしない水が、俳句甲子園に出ている今日は、濃い味がする。十代の一日は、大人になってからの一か月よりも濃い。お茶やジュースではなく、普段は無味に感じている「水」だからこそ、その味の濃さがいっそう特別に感じますね。

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その②へ続きます。

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