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「#2022年の自選十句を呟く」の鑑賞③

広瀬康と申します。趣味で俳句をしています。

今回はTwitterで拝見した#2022年の自選十句を呟くの句の中から個人的に好きだと思った句をピックアップして、鑑賞文を書かせていただきました。

見当違いの読みをしているかもしれません。句のあとに作者名を敬称略で記させていただきます。(句をクリックすると作者様のツイートに飛べるようにしました)

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枯園でジャムを塗り合う恋がしたい   真冬峰
草木が枯れた冬の公園で、パンにジャムを塗り合って食べる。そんな恋がしたい。自分が食べるためにジャムを塗るのではなく、相手のためにジャムを塗る、お互いが。遊園地や映画館といったデートの定番の場所ではなく、枯園でよいのである。枯園でジャムを塗り合うことを一緒に楽しめる相手とならば、末永く幸せにいられるのだろうなと思いました。

真夏日のチョコレートてふ生命体   捨楽
汗も滴る真夏日。チョコレートが溶けていく。その様がまるで「生命体」のようだとこの句は言っています。「生命体」という少しエイリアンを思わせるような表現が、あのチョコレートの溶けていく感じを非常によく言い表していると思います。チョコレートと生命体を「てふ」の二音で結びつける技術。「てふ」は私も時々使うのですが、この句ほど効果的に使えたことはないので、すごいと思います。

その風をエスメラルダと呼ぶ暑さ  土井探花
風が吹いた。今、吹いたその風を「エスメラルダ」と呼びたい。それぐらいに暑い。「エスメラルダ」はスペイン語やポルトガル語で「エメラルド」を意味する言葉なのですね。ヨーロッパを襲う熱波のような風だったのでしょう。エスメラルダと呼ぶことで、本来は無色であるはずの風が輝く緑色に見えてきます。夏の暑さが詩的な暑さへと昇華されるような一句でした。

囀の教室黙食の児童   西村 棗
換気のために窓を開け、鳥たちの囀が聞こえてくる教室で、児童たちは給食を黙って食べています。コロナの感染拡大防止のための黙食。自由を制限された人間の黙と、コロナのことなど関係ない鳥たちの囀が対照的です。食事中しゃべることを禁止された児童たちの耳に鳥の囀はどう聞こえるのか。そんなことを想像させられる一句でした。

対岸へ放つソプラノ水澄めり   鳥田政宗
河原に立つ。対岸に向かってソプラノで歌う。歌声が通った川の水が澄んでる。この句は「放つ」という動詞がとても効いていると思いました。ソプラノの歌声が川面を滑るように対岸へと伸びていく。歌声の綺麗さにいっそう川の水も澄んで見えてくる。聴覚情報と視覚情報が一句の中でうまく合わさっていてすごいです。

鮎焼いて食って悪人いない故郷   嶋村らぴ
鮎を焼いて食べて、故郷を見渡す。こんなにおいしい鮎と自然に囲まれた故郷に悪人はいないと思う。そういう綺麗な読みがある一方で、鮎を食べたその瞬間は、悪人などいない故郷だと思えるが、実際はそうではない、というちょっとひねくれた読みをしてしまう自分もいました。「焼いて食って」と「て」で動詞をリズムよくつなぎ、最後に「悪人いない故郷」という噛み応えのある深い措辞が現れる語順の巧さ。

秋蝶の降り来て水一枚に傷   登りびと
秋蝶が降り来て、水面に着地する。瞬間、秋蝶が接した水の部分に傷が生まれる。この句は、「水一枚」という把握の仕方がすごく繊細で詩的です。しかもその「水一枚」は秋蝶がちょっと触れるだけでもそこが「傷」になってしまう。水一枚についた小さな傷に秋蝶の切なさを感じます。大雑把に世界を見ている人には感じ取れない光景がこの句にはあります。

いいね、無視、ミュート、ブロック、鰯雲   加良太知
SNSでいいねをする、メッセージを無視する、相手のツイートが流れてこないようミュートする、相手との関係を断つためにブロックする。昨今、SNSを見ない日はないという人も多いのではないのでしょうか。SNSに疲れて、ふと空を見上げると、鰯雲が。群れをなす小さな雲の一つ一つは、SNSに囚われた我々よりはるかに自由に大空に浮かんでいます。アイデアだけで終わらず、最終的に季語がとてもよく響いているいい句だと思いました。

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以上になります。
最後に私がやってるアニメ俳句部のご紹介をさせていただきます。

アニメ俳句部では、アニメ映画のTV放送に合わせて、そのアニメを題材にした俳句を募集しています。

できた俳句を「俳句募集ツイート」に返信するだけで、どなたでもご参加できますので、ご縁がありましたら、ぜひご投句ください。

投句された句の中から必ず一人一句は、広瀬康が今回のような鑑賞文を書かせていただきます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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