「#2022年の自選十句を呟く」の鑑賞②

広瀬康と申します。趣味で俳句をしています。

今回はTwitterで拝見した#2022年の自選十句を呟くの句の中から個人的に好きだと思った句をピックアップして、鑑賞文を書かせていただきました。

見当違いの読みをしているかもしれません。句のあとに作者名を敬称略で記させていただきます。(句をクリックすると作者様のツイートに飛べるようにしました)

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給水塔銀河に難破して我ら   長谷川水素
夜である。給水塔の背景や頭上に銀河が広がっている。自分たちは銀河という広い広い星の海に難破しているのだという感慨。生命維持に不可欠な水を供給するための給水塔は、銀河に難破しても、なんとか生き残ってきた人類の叡智の積み重ねとしての塔である。銀河に難破するという発想をムードだけで終わらせず、給水塔という建造物で一句にリアリティをもたせる技術がすごいです。

ゴールデンウィーク空ばかり撮ってる   幸の実
四月末から五月初旬にかけての連休。旅行に行ったり、部活の合宿があったり、遊園地やキャンプに行く人も多いでしょう。あるいは人手の多さに辟易し、遠出をさけ、いつもの範囲の中でゆっくりと過ごすか。「空ばかり撮ってる」という素直な表現に惹かれました。各地へ出かけた先で、絶景の空を撮っているのかもしれないし、どこにも行けない鬱屈さから近所でせめてきれいな空を撮っているのかもしれない。どちらかというと、後者の読みで読ませていただきました。ゴールデンウィークの人の多さから逃げるように、カメラは空へと向けられます。きれいな表現の中に一滴の鬱屈さがあり、とても良いと思いました。

またひとつふるさと増えて天の川   幸の実
進学や転勤などで住む場所を変えた。生まれ育った場所はもちろん「ふるさと」だが、それ以外の場所もふるさとになる。新しい場所に住み始め、そこでの生活が当たり前になり、やがてそこを離れなくてはいけなくなるとき、「またひとつふるさと」が増えるのである。「天の川」を見上げる。私のいないふるさとを思う。今、立っているこの新天地も、いつかふるさととなる日が来るのかもしれない。心に響く一句でした。

給食にジェラート私立百合学園   山本先生
給食のデザートにジェラートが出た。公立ではなく、私立の、それも「百合学園」ならば、給食にジェラートが出てもおかしくない。そう読者に思わせる「私立百合学園」という言葉。花のような生徒たちが優雅にジェラートを食す姿まで見えてきそうな気品のある一句で、アイスではなく、ジェラートだからこその句だと思いました。

デニッシュの層を豊かに百千鳥   ぐ
バターが何層にも折り重なるデニッシュ。そのデニッシュの層をいつもより多くして焼き上げる。いろいろな鳥が鳴き交わす声の重なりを聞いて、「デニッシュの層を豊かに」したくなったのではないかと読ませていただきました。デニッシュが焼きあがるまで、そして焼きあがったあとも、百千鳥の声がこの世界の片隅に響いています。

鯛焼の餡少なくて我らに似て   イサク
鯛焼の餡が少ない。餡が少ないこの鯛焼は我らに似ているという一句。鯛焼の「餡」は甘味であり、たくさん詰まっているほど良いとされます。しかし人生、「餡」ばかりとはいきません。「餡」がぎっしり詰まった幸せばかりの人生は胸やけを起こすでしょう。餡が少なくてはじめて気づける生地自体の味もあるはずです。この句は、餡が少ないことへの愚痴でも不満でもなく、餡が少ない人たちの存在を静かにやさしく肯定している一句だなと思いました。

この中に真理の林檎あるらしく   いさな歌鈴
このたくさんの林檎の中に特別な、食べたら世界の真理がわかる林檎があるらしい、という一句。アダムとイブが蛇にそそのかされて食べた禁断の果実、林檎。さまざまな神話に登場する林檎。人類は林檎にいろいろな意味をもたせてきました。それをふまえてこの句では、見た目は他の林檎と変わらないけれど、一個だけ特別な林檎があるらしい、と言っているのです。「らしく」と敢えて断定しないことで信ぴょう性を持たせる結び方がすごいです。


その③へ続きます。

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