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『すずめの戸締まり』のアニメ俳句鑑賞
こんにちは!
アニメ俳句部部長の広瀬康です。
先日、アニメ俳句部で『すずめの戸締まり』の俳句を募集したところ、104句の俳句が集まりました。たくさんのご投句ありがとうございます!
みなさまが詠んでくださった句の中から広瀬が個人的にいいなと思った句をピックアップし、鑑賞文を書きました。
句のあとに作者名を敬称略で記させていただきます。
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浴衣着て〆はLINEの猫ぺこり イサク
すずめが叔母の環さんに送ったLINEですね。文章の最後に猫が謝罪する絵文字をつけた、そのことを表す「猫ぺこり」という措辞がかわいいです。この句は句材の斬新さに目を惹かれますが、その裏でしっかりと五七五の韻律が走っています。流石です。
風鈴の優しき音や絆創膏 一久恵
鈴芽が草太の傷の手当をしていた場面を詠んだ一句。風鈴の音を涼しい音ではなく「優しき音」と表現したのがこの場面にぴったりだと思いました。張られた絆創膏の下でゆっくりと癒えていく傷に風鈴の音が染みていくような、そんな心持ちがしました。
鳥雲に入るや列車は東京へ 香田ちり
鈴芽と草太が新幹線で神戸から東京に行ってましたね。北に帰る渡り鳥が雲間に消えていく映像でカットが切れ、列車が東京へと線路を直進する映像へ。切れ字「や」を中七のまんなかにおいて巧みに映像を切り替える技術。「東京へ」という方向を示して終わることで、列車が走りすぎ去ったのを見送ったかのような余韻に浸れます。
雨水てふすずめの涙色の空 里山子
東京で草太を要石として刺した後、鈴芽が落下していくあの空を詠んだ句かなと思いました。「涙色の空」という言葉に詩情があふれていてすごいです。「涙」を直接詠むと悲しいという感情が前面に出てしまい上手くいかないことが多いのですが、この句は「涙色の空」と映像にしているところが巧みです。「雨水」という季語も「涙色の空」と響き合っていると思います。
八月の扉へ白と黒の猫 水蜜桃
白の猫がダイジン、黒の猫はサダイジン。そう読みました。季語「八月」は夏の暑い時期であり、終戦記念日のある月でもあります。亡くなったたくさんの人の思いに縁どられた「八月の扉」へと地震を鎮めてきた二匹の猫が向かう。どこか神話性を感じた一句でした。
桐一葉教採ぶっちしたあいつ 高尾里甫
教員採用試験を略すと「教採」というのですね。教採を受けに来なかった草太のことを芹澤の視点から読んだ一句。桐の葉が落ちることと試験に落ちたことが重なり、教採をぶっちしたあいつのことをほのかに心配する気配が伝わってきます。
青嵐走る猫椅子恋乙女 龍田山門
すずめの戸締まりという作品がこの一句には詰まっていますね。猫=ダイジン、椅子=草太、乙女=鈴芽。猫椅子恋乙女と名詞を畳みかけることで疾走感が出ています。語順もダイジンを追う草太を追う鈴芽というふうになっていて映像が見えてきそうです。
ひとりの戸締めてふたりの秋となる 龍田山門
戸を閉めて、ふり返ると、外には待っている人がいて、秋が広がっている、その秋は自分だけの秋なのではなく、ふたりで共有する秋なのだ、という風に読ませていただきました。「ひとりの戸締めて」までだと孤独な感じなのですが、最後まで読むと、誰かと分かち合える広々とした空間が広がる、気持ちのよい爽やかな一句。
澄む秋の水へローファーつかりけり 土佐藩俳句百姓豊哲
ダイジンが封印されていた最初の廃墟のその水へ鈴芽が足を踏み入れたシーンだと思いました。「澄む水へ」ではなく、「澄む秋の水」とすることで秋の空気や色彩も含んだとても綺麗な水なのだと感じられます。明度の高い透明な水へ黒いローファーが入ってつかる。ローファーの隙間から気泡も漏れるかもしれません。鈴芽の戸締まりの作画に匹敵するほど綺麗な句だと思いました。
花曇ネトフリで観る映画かな 鳥田政宗
ちょうど金曜ロードショーでの放送が終わったあとから、Netflixで『すずめの戸締まり』が独占配信になったことを受けての一句でしょう。桜の咲くころだが今日はあいにく曇りという日にネットフリックスで美麗な映像を楽しむ。それもまたよい休日だなあとしみじみ思わされました。
春愁の閉ぢる扉の重さかな 南方日午
作中の後ろ戸、閉じるの大変そうでしたよね。後ろ戸を締めるときには、そこに存在していた人たちの声に耳を澄ませないと鍵穴が出現しないという設定でした。この句の「春愁」はそこに生きていた人たちの思いなのかなと読ませていただきました。春愁を受け止め、扉を閉じる、その重さを感じて今日を、そして明日を生きていきます。
木の芽雨こぼるる光の先は明日 猫髭かほり
常世のなかで幼い鈴芽に語って聞かせた「明日」。「木の芽雨」という季語からは木の芽が成長していく未来を感じます。そんな明るい雨が零れる光の先には「明日」があるのだと体言止めで強く信じる、信じたいという気持ちを句から受け取りました。
太陽と月朝と夜あまたの死 ノセミコ
太陽と月が入れ替わり、朝と夜が繰り返される。その一日一日にたくさんの人が亡くなっていく。震災以前も、震災のその日も、震災以後も、人は死んでいくという現実。あまたの死から目をそらさずに詠んだ一句に敬意を表します。
春日影やせっぽっちとなりし身の 渡辺香野
鈴芽に拒絶され、やせ細ってしまったダイジンを詠んだ一句。季語「春日影」は春の日の光のこと。あたたかなやさしい春日影がかわいそうなダイジンにも当たりますが、その影もどこか悲しそう、とそんなふうに読ませていただきました。映像がちゃんと見えてくるのが良いと思いました。
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謝辞
みなさま、素敵なアニメ俳句をありがとうございました。
今回の『すずめの戸締まり』の俳句104句は一覧画像にしてアニメ俳句部のアカウントからツイートする予定です。でき次第、後日、ツイートします。
今後もアニメ俳句部はアニメと俳句をかけあわせたイベントを開いていきます。
リクエストご要望等ございましたら、いつでも気軽にリプライやDMをお送りください。
ではまた。
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