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【行ってみた】 『覆面作家の舞城王太郎に会いたくて福井県まで行った話』


この人の作品を読まなければ小説なんて書かなかっただろうという作家が2人いて、1人が前にも書いた村上春樹で、もう1人が表題の舞城王太郎だ。

舞城王太郎は芥川賞に3回ノミネートされるも受賞しなかったところも村上春樹に似ている。村上春樹は2回だったか? いずれにせよ2人とも芥川賞はもらえなかったけれど紛れもなく日本文学で重要なポジションを占めている。

重要、というのは売上があるという意味ではなくて、特異な文体を所持しているという意味だ。唯一無二の文体。数行読めば作者名がわかるというのは稀有な存在で、未来にまで残る作品になるためには稀有な存在であることがもっとも重要である。

舞城王太郎についての詳細は省く。wikiがあるし、検索すれば書評はあるし、作品は本屋に並んでいる。芥川賞を受賞しても本屋にすら並んでいない作品なんて山ほどあるなかで、本屋にあるというだけでその貴重さがわかる。

村上春樹は世界レベルで、舞城王太郎はあまりにもドメスティックな存在ではあるが、それでも。

ただしこの両者には大きすぎる違いが一つある。それは、村上春樹は顔面も性別も判明しているのに対して、舞城王太郎は顔面も性別も不明であるという点だ。

舞城王太郎は、男か女かもわかっていない。年齢と出身地以外はすべて非公表なのだ。

王太郎といういかにも男性のような名前だが、逆に舞城作品を読んだ方ならわかると思うけれど、逆なのだ。あえての太郎。だから、私はずっと舞城王太郎は女性だとにらんでいる。

その理由の一つは、男性の登場人物がキモくない、という点と、もう一つの理由は、私も女性だからだ。

私も女性だから、女性が男性の筆名で文章を書く気持ちがわかる。

舞城王太郎は女性で、wikiによれば福井県の旧今庄町出身、47歳。これだけの情報があれば実家は特定できる。どうやって? 福井県今庄町は人口5000人程度で、小学校は町内で2つ、中学校は1つしかなく、舞城王太郎が通学していた当時でもせいぜい2クラスしかない。50人程度の同窓生のなかで、本が好きで絵も上手で頭も良くて遠くの進学校に行って現在は東京に住んでいる生徒、と限定されたら1人しかいない。

なぜそこまでプロファイリングができるかといえば、彼女の小説を読めば誰でもわかってしまうのだ。

私は東海道新幹線で米原まで行き、北陸本線に乗り換えて今庄町に来た。

南越前役場で現在47歳の職員を捜しだし、話を聞くだけでいい。職員がいなければ、近所のスーパーでも、病院でも、なんなら直接中学校に行ってもいい。福井県で人口5000人なら知り合いの知り合いはみんな知り合いだ。なぜわかるかって? 私も福井県出身だからだ。

私は福井よりも北の出身で、ほぼ石川県みたいな場所の生まれだが、れっきとした福井県民だ。今庄町にも知り合いがいる。連絡をとったら役場に47歳の職員がいるので紹介してくれるという。ドンピシャ。

職員の話によれば、絵も文章も頭もよくて今東京に住んでいる女の同級生がいるという。「なにしとるか知らんけど、昔から変わった子やったわ」「実家はどこにあるかわかりますか?」「わかるもわからんも、おっきな家やからすぐや」ドンピシャ。

国道を抜けて田んぼを抜けた先の大きな家で、蔵もあった。蔵は重要なポイントだ。舞城王太郎のデビュー作で象徴的な存在。私は遠慮なく呼鈴を鳴らす。本人はいてもいなくてもいい。呼鈴で出てきたご家族に舞城王太郎の小説を見せればその顔色ですぐにわかる。たとえ否定されても目の動きは隠せない。案の定、すぐにわかった。ここがやっぱり舞城王太郎の実家だった。ドンピシャ。表札は、広瀬だった。

そう私が舞城王太郎本人だった。




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