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「短編小説集」

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自作の短編小説集です。キャバクラ からファンダジーまで。作品によって幅があるので、気に入っていただけるものがあると嬉しいです。
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2020年6月の記事一覧

【小説】 「ロング・アイランド・アイスティー」

キャバクラのラストで流れる音楽は、優しいバラードが多い。少なくとも私が働いていたちょっと前までは。いまはアレのせいで大変だって聞く。夜の世界を狙い撃ちにしたみたいな疫病で、みんな元気かなって心配になる。でも顔がよくて喋れる子ならライブ配信して投げ銭もらえばいいから大丈夫かな。肉体的におじさんと接しないのはたぶん楽。でも他の部分で削られるか。でもなにかを切り売りしないとお金は稼げない。 新宿駅のライオンの口のまえで声をかけられて、ちょうど同棲中の彼氏と喧嘩したところだったから

【小説】 「はじめてのおつかい」

5歳児なのにIQが180以上あることを母は知らない。 母だけじゃなくて、ディレクターもプロデューサーもカメラマンも知らない。 ADの酒井さんだけは知ってるけど、黙っててもらう取り決めになっている。撮れ高的には、僕がふつうの幼稚園児のほうが視聴者にはウケがいいからだ。 IQ以外はまったくもって、ふつうの幼稚園児だ。顔はあどけないし、身体は病弱で小さいし、靴は「きめつのやいば」のスニーカー。 なまじIQが高いせいで、幼稚園児にあるまじき発言をしちゃったら、見るほうも作るほ