競馬長距離レースにまつわる言説あれこれ

三度、ネットで目にする「本当か?」と思う言説を自分なりに調べてみる試み。天皇賞(春)が近いのに合わせて、今回は長距離戦にまつわる2つのテーマです。

「最近の長距離レースはスローペースで直線だけの競馬が多い。」

よく言われがちなフレーズなのですが、これ、20年以上前からずっと言われているフレーズです。「最近」ではありません。むしろ今は、一時期よりも減っている印象があります。

ということで、2021年、2001年、1991年の平地芝3000m以上のレースを比較してみました。今回もデータはnetkeibaさんからの手作業集計。
手っ取り早く比較できる手段として使ったのは、上がり3ハロンの数字です。少々雑なやり方ですが、上がりの速いレースほどスローの直線勝負の度合いが大きいと考えます。

上がり3ハロンの平均値に注目すると、レース上がり、勝ち馬上がりともに2001年が最も速いことが分かります。と言っても大きな差ではなさそうです。筆者は2000年前後が一番直線だけの競馬が多い印象を持っていたのですが、思ったほど顕著な差は出ませんでした。
2021年は重馬場の阪神大賞典を除外してもレース上がりの平均値は35秒7。馬場の高速化なども考慮に入れれば、昔よりも直線だけのレースが増えているとは言えないように思います。

意外と直線だけの競馬が増えていない理由を考察するならば、中距離路線と長距離路線の住み分けが進んだことが一因となっていると思います。瞬発力勝負に持ち込みたい中距離馬が減って、瞬発力不足をスタミナで補いたい馬が参戦する割合が増えたため、イメージほど上がりが速くなっていないのではないでしょうか。

昔よりスローペースのレースが増えているとしたら、芝の中距離以下のレースがそうなのかもしれません。特に、直線の長いコースで行われる少頭数のレースは、1600mぐらいでもスローになりやすい印象があります。


「長距離は人気がないので、昔より長距離レースが減っている。」

確かに菊花賞・天皇賞(春)を回避する一流馬が増え、長距離実績は種牡馬になるときに軽視されがちです。ただ、長距離レースの人気がないという実感はありません。

2021年の天皇賞(春)の売り上げは約189億円。約223億円の天皇賞(秋)には劣っていますが、新設された大阪杯の約163億円には勝っています。売り上げの近いところを挙げると、約191億円の皐月賞、約192億円の安田記念あたり。日本では、長距離レースは根強い人気を保っていると考えてよいのではないでしょうか。
参考:「馬々の黄昏」https://www.umanarok.net/uriage/2021/g1.html

長距離が軽視されているのは日本国内よりも世界規模での話と捉えています。世界のチャンピオンディスタンスはもはや2400mではなく2000mだとか。

引き続いて、長距離レースの数の話。これまたnetkeibaさんのデータベースで、各年代の長距離レースを検索しカウントしてみました。

各年の長距離レースの数。上の数字が距離。OPはオープン戦を意味します。

この表から読み取れるのは・・・
1.2400m以上のレース総数は近年の方がむしろ増加傾向にある。
2.特に2600m戦はきれいに右肩上がりで増加している。
3.オープン戦の総数はあまり変わっていないが、1991年だけ少し突き出ている。
4.2001年と2011年の間で2400m戦が激増し、2500m戦が激減している。(これは阪神や中京のコース回収が影響?)

2021年に「京都改修の分少ない」とあるのは、京都や阪神の2400mで行われているレース(日経新春杯や神戸新聞杯)が中京の2200mで代替されているので、その分のマイナスが影響していることを表しています。

この通り、長距離レースの数が減っているとは一概には言えないことが分かりました。明確に減ったと言えるのは、1991年と比べた時の2400mのオープン戦ぐらい。オープン競走の総数は増加しているはずなので、他の長距離のオープンも相対的には減っているとは言えるのかもしれません。とはいえ、競馬番組全体での絶対数は特に減ってはおらず、下級条件の長距離馬たちには、過去よりも活躍できる場がしっかり確保されている模様です。

昭和時代に条件戦の長距離レースがこれだけ少なかったのは意外でした。ですが、八大競走は例外として、昭和の長距離レースも別に頭数が充実していたわけではありません。ステイヤーズSなどは少頭数が常。むしろ今の方が頭数は多いくらいです。
少なくとも、JRAが長距離レースを軽視しているということはないように思えます。

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