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ザルドスだけは別格だ

この記事は、最近4Kリマスターされた『未来惑星ザルドス』をシネマ神戸2で観た感想をつらつら書いていくだけだぜ!(謎テンション
なおこの記事は、「南海NANKAI 別冊 特集 未来惑星ザルドスとジョン・ブアマンの世界」という本に、かなり依ってると思います(劇場でパンフの代わりに売っていた)

造語がいっぱい

「Gのレコンギスタ」ほどではないですが、これ、富野アニメ※かよ! というぐらい造語が出てきます。というか、ほぼ普通の英単語であるのですが、ニュアンスが普通の英単語からずれてる。ボルテックス、エターナルズ、レネゲーズ、アパセチックス、アウトランド、ブルータルズ、エクスターミネーターズ、タバナクル、ザルドス、コミュニケーター・リング。
用語解説がないとわからない(かもしれない)難解さ。
特に「タバナクル」だけは、先に辞書的な意味を知っといたほうがいいです。2022年においては「人工知能」と解釈するようですが、自分はアレ「人工知能」ですらないのかも、と思っています。
※「モビルスーツ」だって、普通の英単語二つだけ。でも独特のニュアンスがあるわけですよ。

偽りの理想郷

主人公ゼッドがボルテックス(渦巻の意)と呼ばれる理想郷に、なぜ入り込めたのかは視聴者にも謎のまま話は進みます。理想郷の住人・永遠人(エターナルズ)が、その謎を解こうとすることが、物語を駆動させます。
偽りの理想郷に、暴れ者がやってきてぶっ壊す、というのは、映画でよくあるパターンなのですが(「デモリッションマン」とか)、ボルテックスはまんざら偽りでもなかったんじゃないかと(少なくとも当初は)。しかし、不老不死を得ても人間は神様にはなれず、退屈という病には勝てなかった。
この理想郷には、眠りがなかった。眠りがないということは、夢を見ないということであり、死の予行演習も行えないということである。
死を隔離し、夜をも昼にする眠らない街…それは現代社会に似ていないか?

今となってはオーパーツの特殊撮影

オーパーツは言い過ぎかもしれませんが、この作品、CGはもちろん使ってないです。そしてブルーバック合成も多分使っていない。人よりも大きく見える巨大顔面・ザルドス(外部)は、模型を手前に配置してるだけなんだと思う(いわゆる「遠近法トリック」)。すべてはカメラの前に現実に存在しているそうな。ボルテックスの建物(遠景)も、ガラス絵じゃないかなあ

未来予測

そうならない、と公開当時には思われていた・場合によっては冷笑されていた(のじゃないかな? と思う)未来絵図、
そうならないはずの未来が、2022年の今、そうなっています。
指輪型クリスタル端末は、カマボコ板みたいなスマホよりもむしろ進んでいますし、かったるそうな音声入力も、OK!google! の世界なわけですよ(あんなに端末が小さいとフリック入力も無理でしょうし)。
初公開時はクラウドとか同期とかの概念がなかった時代だったと思いますが、この映画ではそれに近いことを行っていますね。
額のクリスタルは、頼みもしないのにこっちを追跡しているgoogleMapのタイムラインみたいです、というかそれ以上、脳の同期さえ行っているようですよ。
かつて「聖殿」や「超能力」の訳語をあてられた『タバナクル』、今回の字幕はそのまま「タバナクル」でしたが、この言葉は多義にわたるので、訳すのが難しい。以前は中央集権的なマザーコンピューターのようなものだと思われてたんじゃないかと思うんですが、
今見てみると、タバナクル ≒ サーバー なのではないかと。しかもこのサーバー、クラウド的に遍在できるらしい。

tabernacle

名詞
1 《しばしばT-》仮の住まい(テント・小屋など);住居.
2 〔ユダヤ教〕幕屋(まくや)〈〔聖〕出エジプト記25-27〉;礼拝所[堂].
3 (聖像・聖者像を安置する)天蓋(てんがい)つき壁龕(へきがん);(聖体を保存する)聖櫃(せいひつ).
4 (霊魂が仮に宿る)肉体,身体.
語源 教会ラテン語tabernaculum (taberna小屋+-culum指小辞).TAVERN
Progressive English-Japanese Dictionary, Third edition Shogakukan 1980,1987,1998/プログレッシブ英和中辞典 第3版 小学館 1980,1987,1998

見ての通り、移動可能 というニュアンスがありますね。実際、映画の中でも移動可能だった。
チャーチ(教会)やテンプル(寺院)、シュライン(神社など)ではなく、タバナクルなのです。
…もっとも、教会も寺院も、神仏そのものはそこには居なく、窓口みたいなものですが。
※タバナクルを あえて日本語に超訳するなら「神輿」でしょうか。おみこし。そこに見えない神様は居て、移動可能な。

ジョン・ブアマン作品には宗教モチーフが多いらしく、タバナクルを(移動)聖堂と訳してもいい気はします。

これは、完全に自説のトンデモですが、
タバナクルを成り立たせてるのは、ボルテックス内部に充満した目に見えない光のクリスタル粒子なのではないかと(ミノフスキー粒子的な疑似科学です)。
普通のSFなら空飛ぶマイクロマシンを想起するところなのですけど、この作品は今の科学の延長上には無いようなのですよね~(なにか科学による大カタストロフィがあったようで、禁忌になってるようです)
「マシン」ではない、光の屈折を基にした今の科学では理解できない方法なのでしょう(それは…魔法だ)
※ザルドス石像内部から落ちるアーサーが、3人称映像で再現されるのは、クリスタル粒子からの情報をタバナクルが再構成したからでは、と考えられます。また、クリスタル粒子には限りがあるので、アウトランド(獣人たちが住む荒れた外界)をすべてボルテックス=理想郷にすることもできない。
エターナルズの にらみ念力は、クリスタル粒子が作用してのもの? シールドがダウンすると、クリスタル粒子が離散し、念力が使えなくなる(というオレ理論)

背教者

異邦人ゼッドの理想郷巡りは、ある意味地獄めぐりのようでもあり。
アパセチクス(apathetics)=無気力者たち
レネゲーズ(renegades)=反逆者たち
このあたりは、自分(ひろさわ)の姿を見ているようでもあった。反逆心も衰え、無駄に年を取り、無気力に日々を過ごす・・・(映画を見る気力だけはありますw)
それは、永遠の繰り返しに耐えられなくなった人々の姿だった。
しかし、このレネゲーズは、反逆 というには弱弱しくもろい。かつて反逆した者たちが、加齢刑を受けたものなのだが、よぼよぼ老老男女なのである。
ジョン・ブアマン作品には宗教モチーフが多いようで(南海別冊後半・
「神々の巨匠 ジョン・ブアマン(中子 真治)」 は、ブアマン監督作を列挙し、キリスト教的な神への反骨心を諸作品に見ている)
このレネゲーズに対しては、背教者 というネガティブな訳語もアリだな、と思っています(タバナクル=(移動)聖堂と同様)
(外部の獣人=ブルータルズにはザルドスという偽りの神を与えた)エターナルたちも、タバナクルという遍在する神を信じている。その神に背いた背教者ということで。
※ゼッドの赤ふんどしも、キリスト磔刑図(ゴーギャンの黄色いキリストとか)のロイン・クロスぽいんだよな~

オズの魔法使い

緑のエメラルドではなく、透明なクリスタル。
竜巻に対し、vortex(渦巻)。
子供向けのアルファベットの本、Zの見開きにはZEDが描かれていたのだろうか。
ボルテックスには、子供がいなかった。たぶん、健全な社会には、子供が永遠に学びなおしていくことが必要なんだろう。

あとがき

というわけで、感想をつらつら書きました! ザルドスはね、自分の中で別格なんですよ。
最初に見たのは、TVの深夜放送、吹き替え版でした。
そのラストに流れる曲がどうしても気になって、レンタルビデオを借りに行きました(TV用に横幅クロッピングしてたんだろうか? 今となっては貴重品だな)※TV版ではエロ要素カットしてたと気づくw
その曲は、ベートーベンの交響曲第7番第2楽章。ゴダールの「新ドイツ零年」でも流れてました。泣きますわ、こんなの・・・

そして、まさか、まさか、シネスコでザルドスが見れるとは!
大変ありがたいことでございます。


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