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バナナチップスはおやつに入りますか/税金はなぜ難しいか

佐藤ひろおです。早稲田の大学院生(三国志の研究)と、週4勤務の正社員(メーカー系の経理職)を兼ねています。

ぼくの現金収入は、おもに会社の経理職として得ています。
「税金」の取り扱いも仕事に含まれます。

税金って、ものすごく難しい。納得感が薄い。
法人・個人にとって、自己の財産が脅かされるのだから(要するにお金を払わないといけないから)嬉しくないのに、輪を掛けてルールがワケが分からないし、改悪につぐ改悪なので、遠ざかっていく一方だ。

税金が高尚なものだから難しいのではない。
スマホの料金プランや保険商品のように、「ルールを複雑にし、思考力のない愚民に重税を課してやろう。例外や免責事項をちっちゃな文字で書いて、気づかれないように徴税しよう」という悪意は、(幸いなことに)当局の第一目標ではない。
結果的にそうなっている側面はありますが、本当に難しくすることを自己目的化するなら、無限に難しくできる。むしろ、分かりやすくするように最大限努力した結果がこれなのだ、、と捉えざるを得ません。

難しくすると、納税者(ぼくたち)だけでなく、税務署の職員がお手上げになります。
現状ですら、法人の一員として税務調査にのぞむと、税務署の職員が税制をよく分かっていなかったり、職員によって解釈・理解がちがって、議論に持ち込まれてフリーズ……という場面がたびたびあります。
「法律に基づいて課税する」という近代国家のルールがあるが、じゃあ法律はどういう意味なんだ?をめぐって、裁判が起きるほどです。

税金のワケの分からなさは、いかに捉えられるか。
税金の複雑さは、小中学校の遠足のときに、「おやつは300円以内」というルールに対し、「バナナはおやつに入りますか」という質問をする場合と同じです。ルールが曖昧だから、その解釈をめぐって質問、個別の疑問のつぶしこみが必要なんです。

バナナはおやつに入りますか

生徒「バナナはおやつに入りますか」
先生「バナナはおやつに入らない」
この記事では、バナナを持ってきても、300円のおやつの金額枠は消費されないとしましょうか。

学生「バナナ・チップスはおやつに入りますか?」
バナナを輪切りにして乾燥させただけなので、バナナに同等ですよね。ならばおやつに入らない、と解釈する生徒の主張を却下できるのか。

先生は苦虫をかみつぶしたように、
「バナナ・チップスもおやつに入りません」
そうか。ならば、
学生「ジャガイモはおやつに入りますか?」
先生「いいえ、お弁当でしょう」
学生「ならば、ジャガイモを輪切りにして乾燥させただけの、ポテトチップスも、おやつに入らないという理解で宜しいですね」

こういう隙を突くのが、「節税」の思考法。
脱税ではないけれど、ルールがない・曖昧であったりするところを攻めます。ルールを制定する側は、事後で整備します。

先生「素材を輪切りにして乾燥させたもののうち、油で揚げて味付けをしたものは、おやつと見なします」
学生「家庭で作ったレンコン・チップスを、お弁当に入れます。これもおやつなんですか。ルールがおかしくないですか」
先生「家庭で作った場合は、お弁当とします」
学生「自宅で揚げたポテチは、お弁当ということで宜しいですね」

どんだけポテチ好きやねん。

先生「自宅で揚げても、ポテチはおやつ。"社会通念"上、ポテチはおやつだと考えられる。ジャガイモはイモ類。イモ類を揚げたら、おやつ。レンコンは野菜、バナナは果物。野菜と果物を揚げたものはお弁当とする」
学生「イモとレンコンは、どちらも根菜では?」
先生「……」
学生「サツマイモを味付けして揚げた大学イモまで、おやつに含めるのは納得がいかないでーす」
先生「"社会通念"上、大学イモはお弁当です
学生「恣意的すぎませんか」

学生「ジャガイモを揚げて塩味を付ければおやつならば、お弁当に入っている、冷凍食品のフライドポテトもおやつ?」
先生はイライラし、
先生「フライドポテトの価格を算出し、おやつに加算しなさい」
学生「ポテト1本1本の価格なんて分からないですよ。まとめてレンジで解凍し、家族のお弁当に振り分けられている」
先生「按分(比率で計算)しておやつに加算!!」
学生はさすがに納得せず、
「前日おやつを買いに行く時点で、当日朝のお弁当に何本のポテトが入れられるかなんて予測できないのですが。ポテトが30円相当入る見通しだから、270円しかおやつを買わないとしましょう。もし、当初の合意よりもポテトが1本多く入れられ、300円基準をオーバーしたら、咎められるのはぼくですか。それとも弁当を作った家族ですか」
先生「家族と事前によく認識を合わせてください!」
学生「ムチャクチャだー」
先生「特例の温情として、同じ学校に通う兄弟がいれば、フライドポテト価格の通算(足し引き)を認めます

そして節税商品の登場、脱税へ

学生「野菜チップスとポテチが混ざった場合は?」
先生「そんな商品があるの?」
学生「近所の駄菓子屋さんが、ミックスして売ってまーす」
先生「ポテトの重量が半分を超えたら、おやつとします」

学生「成分表をいちいち示せと?現実的じゃない!!個人経営の駄菓子屋に成分表や比率を出せというのですか??」
先生「個別包装ごとは無理でも、投入した原材料の比率は示せるはず。"学校指定の成分表" がない限り、認めません」
学生「駄菓子屋が、"学校指定の成分表" によって原材料の比率を示さなかった場合は?」
先生「野菜分も含め、すべておやつと見なします」
学生「そんな駄菓子屋では買えないぞ。学校そばの駄菓子屋の経営を、先生のサジ加減で脅かすのはイカガナモノカ

ミックス論争のとき、教室にメモが回ります。
野菜チップスと混ぜれば、理論上、無限にお弁当の扱いでポテチを持ってこれる。駄菓子屋さんに頼んで、かたちだけでも、"学校指定の成分表" を発行させれば十分だと。
4900グラムのポテチを持ってきても、5100グラムの野菜チップスとセットであり、"学校指定の成分表" があれば、食べきれないポテチを持ってきても、すべてお弁当扱いになる。
駄菓子屋は、遠足シーズンに度外の売上高アップ!!

その次の年。学校側では、前年にポテチが大量に持ち込まれてしまったことに鑑み、「半分じゃ基準が優しすぎた。ミックス商品は、ポテトの重量が10%を超えたら、おやつとする。ポテチの9倍の野菜チップスは、さすがに持って来られまい」
学生「制度の改悪だ!圧政だ!!」
暴動!!
先生「では、ポテトの重量が20%を超えたら、おやつとします」
駄菓子屋「20%スレスレのミックス商品を開発するぞ!!」

駄菓子屋さんは、成分表ではポテチ19%、野菜チップス81%と表示しながら、学生たちのリクエストに応え、実態はポテチの比率を増やした。
先生が、いちいち遠足中に比率を計量するわけにはいかない。

駄菓子屋の目線では、野菜チップスのほうが原価が高い。
販売価格が同じならば、ポテチの比率が高い方が、利益率が高いし、学生は喜んで大量に買っていくから、売上高の総量が増える。ウイン・ウインの取引になったね!!と示し合わせて、にんまり。
節税商品から「脱税」に転落。でも摘発されるとは限らない

もはや遠足そのものの準備や楽しさよりも、「おやつ」認定について、先生と生徒がエネルギーの大半を使い果たす。ポテチを食べるよりも、ルールをすり抜けておやつの領域拡大をするほうに意識が向かっている。

……しょうもない寓話でしたけど、
おやつ300円の枠外で、ポテトチップスを持って行きたい学生。これを合理的に押さえつけるのは、意外と至難。押さえつけ方に納得性が必要で、ルールを守る行動が可能で、かつルールが守られているかチェック可能でないといけない。
以上のやりとりを満たす「ルールの条文」を書くと、現行の税制、ヌエのような複雑な文章ができるでしょう。※やりません

税金が難しくなるわけだ。ウンザリするわけだ。
ビジネスの現場でも、商売をしているのか、税金対策をしているのか、よく分からなくなることがあります。でも「節税」をきちんとしないと利益が大きく削られるし、無知ゆえに「脱税」をしても追徴課税により資金繰りが悪化し倒産するリスクがある。ビジネスよりも税金対策が優先ですよ!となるのは、決して不合理なことではなく、必要な対策です。ポテチ食べよ。

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