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古代中国と令和日本【転職】事情

佐藤ひろおです。早稲田の大学院生(三国志の研究)と、週4勤務の正社員(メーカー系の経理職)を兼ねています。

ぼくは三国志の研究と、現代日本の会社員をやっています。
たまには両者をダイレクトに結ぶ記事を書いてみます。

古代中国において奉職するとは、国家に仕えることです。はじめて国家に仕えることは「就職」と重なるし、仕える国家を変えることは「転職」に準えることができます。

時代によって、【転職】事情は異なります。
・天下が統一された時代は、仕える国家は1つしかない。その国家でうまくいかなければ、奉職できない(在野で暮らす)
・複数の国家が並立していれば、【転職】ができる

日本で人気の『キングダム』で描く時代は、主人公(李信)が属する【秦】が、他国から優秀な人材を引き抜いて、天下を統一する段階です。
主人公(李信)がもとから【秦】出身で、初期から君主(始皇帝)と結びついているので、【転職】がメインテーマにならず、まるで李信が「終身雇用」の出世階段を時間をかけて昇っていく話のようですが、全体をみれば人材が流動する時代でした。

蒙驁・蒙武は、【斉】から【秦】に移ってきました。
廉頗は、【魏】から【楚】に移りましたね。
『キングダム』は昭和・平成の日本が投影されているので、1つの国に仕え続ける李信が主人公。異世界版の「島耕作」です。国を転籍することは、つらいこと、已むにやまれぬこと、という描かれ方をします。しかしこれは恐らく歴史書とは少し違ってて、むしろ【秦】が強かった理由は、外国人(転職者)の積極登用でした。

【秦】の始皇帝が天下を統一したあと、【漢】が【秦】を引き継いで、統一王朝になります。国家が【漢】しかないので、【漢】に仕えるか、どこにも仕えずに民間に暮らすか?という二択のみです。
世界史の授業では、大陸が統一され、統治が安定した時代はポジティブで、大陸が分裂した時代をネガティブに習うかも知れませんが、ことに奉職・仕えるという観点で見ると、複数の国家があったほうが、人生の活路、選択肢があったと言えるかも知れません。

【漢】は400年続き、つぎが【三国】時代です。
ぼくが研究している【三国】時代は、文字どおり国が3つありますが、転職がしづらい時代でした。転職・転籍によって、どんどん活躍して出世したひとは、ほとんどいません。
なぜか。
ふんわりした仮説ですが、400年の【漢】を経て、「1つの国に仕え続けることの正しさ」が価値観・意識のなかに浸透した。国家を移るとは、已むにやまれぬ事情で仕方なく、苦渋の判断で、、ということになった。裏切り者の汚名を着せられた。

以上、古代中国を見てきましたが、
人材が流動していた【戦国】末期、『キングダム』の時代が優れているのか。国家が1つの【秦】【漢】時代が優れているのか。複数の国家が求心力をもち、意外と転籍しにくい【三国】が優れているのか。
中国の歴史家は、「どの時代が優れているか」という問いを立てがちです。しかしぼくは、(中国から見れば)外国人ですし、(この記事では)資本主義の時代の勤め人の処世術を(比喩的に)読み取ろうとする立場なので、このような結論になります。

「市況による」!!

人材が流動する【戦国】時代には、それなりの処世術があるでしょう。他に選択肢のない統一国家【秦】【漢】の時代にも、それなりの処世術があるでしょう。国家が並立しているにも拘わらず、気軽に移れない【三国】時代にも、やはり処世術のサンプルがたくさんあります。

いま・ここの令和日本って、ちょっと【三国】時代に似てるような気がします。1つの国に仕え続けることが是とされる。選択肢が複数に開かれているようで、じつは流動性が低い。
前時代の価値観を引きずっているためかも知れない。活躍の場を求めて、つぎつぎと移籍することは、損な行動であった。有力な人物で、三国(魏呉蜀)3つを渡り歩いた人って、いないんじゃないでしょうか。
【三国】時代は、転籍者は後ろ指をさされがち。

中国史的な考え方をすれば、三国の分裂を解消し、再び1つの国家に統合されるべきだ、となります。実際に1つに統一されます。

しかし、働き手の観点で何がいいか?となると、話が変わります。価値観が書き換えられ、【戦国】末期みたいに、人材の流動性が高まることに1票を入れたいです。
現状の環境で不遇であったり、組織設計と自分の適性が合致しなかったり、トップとそりが合わないならば、身軽に移ることができる。移ったことそれ自体で、後ろ指をさされて冷遇されることはない。

日本がそういう社会になってきている気がします。
身の回りの複数の聞き取り事例だと、地方都市では、依然として1つの会社に勤め続けることがよい(倫理観・価値観のみならず、損得勘定においても)と捉えるひとが多いですが、東京では【戦国】化を感じます。

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