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働き手の「見えない」分断/自分の仕事に合意はあるか?

佐藤ひろおです。早稲田の大学院生(三国志の研究)と、週4勤務の正社員(メーカー系の経理職)を兼ねていました。いまは有給休暇の消化中です。8月下旬に退職します。

会社に行かなくてよくなって3週間が経ちました。
「働くこと」について、いろいろな人と話すんですが、「見えない」分断があることに気づいてきました。

分断や格差といえば、年収の金額がまっさきに思い浮かびますが、今回はその話ではありません。なぜなら、「給料が安いこと」は見えているからです。不当に給料が安ければ、問題が顕在化して当事者が不満に思います。「安さ」は計測可能なので、まだ問題の根が浅いとさえ言えます。

当事者のあいだで問題が認識・意識されず、まったく改善される見通しがない「見えない」分断と格差とは、
「仕事はイヤなこと。給料は我慢の対価」
という信念、ものの見方についてです。
「仕事とは、自分が合意していないことをやること」
と思っているひとが多いのではないか。あるいは、「そんな働き方をしているひとがいるの?」と不思議に思うひともいるのではないか。

便宜的にタイプ分けを設定してみましょう。

【タイプ1】は、「給料は我慢の対価」という信念がある。仕事やイヤなことですから、いかに避けてサボるか、ストレスを解消するか、ワークに負けないライフのバランスを打ち立てるか、ということが主な関心事です。仕事内容に基本的な合意がないので、すべてが苦役です。当人にとって無意味だからこそ、あえて意味を付与しようとして、モチベーション管理に血道を上げる。休日の夕方に憂鬱になる。
ぼくの仕事に対する考え方は、15年、こんな感じでした。

かたや【タイプ2】、仕事に最低限の合意がある。仕事を【タイプ1】ほどは悲惨に捉えていない。
仕事の題材、やり方や役割、仕事で実現すること。これらのどれか1つあるいは複数に対し、日常的で平凡なレベルで、「やってよい」「意味がある」という価値を感じている。高揚感はないけれど、まあまあそれなりに(自己を破壊せずに)仕事は仕事だから仕事としてやるよね、という程度のノリで、ふつうに取り組むことができる。吐くほどの苦渋がない。もちろん「仕事なので」ストレスや苦労はあるけれど、この仕事をするという基本的な部分には、本心からの合意がある。

【タイプ2】は、「才能にあふれ良作を連発するアーティスト」「好きなことで生きている大富豪youtuber」などの(他人?SNS?マスコミ?から見た)シンボリックな働き方のことではありません。個人事業主(経営者)とも違います。あくまで普通の会社員・公務員の働き手のなかの分類です。個人事業主(経営者)は、【タイプ3】とでも設定し、この記事からは除いたほうが分かりやすいかも。
ぼくは、「好きなことを仕事にする」という言葉は、ミスリードだと思います。【タイプ2】と【タイプ3】を混ぜているから。「非【タイプ1】」には違いないが、万人が狭義の「好きなこと」を仕事にする【タイプ3】である必要もない。そこまでリスクを冒す必要もない。
「最低限合意できることを仕事にする」【タイプ2】が、ちょうどよいのではないか。多数派になり得るのではないか。それなりに就職し就業すれば【タイプ2】を実現できるから、リスクが小さい。起業は無用。

【タイプ1】仕事は悲劇派と、【タイプ2】仕事に合意派は、
両方のタイプともに、「仕事が大変」「疲れた」「仕事がストレス」といいます。同じ景色を見ているように見えて、両者のあいだには、たがいが意識できず、乗り越えることができない、まったく別の世界があります。
表面的に言っていることは同じなので、両方のタイプに、埋められないみぞ・ギャップがあることに、お互いに気づき得ないのです。

特定の会社や職種が【タイプ1】だ、苦役だ、奴隷労働だ、社会悪だ、強制動員だ、というわけではありません。人と状況によるでしょう。
また、マネジメントの手法を論じたビジネス書で、部下に役割や意義を納得させるためのテクニックが論じられていますが、小手先のことです。【タイプ1】のひとには、何を言っても悲劇が深まるだけ。腕がちぎれているのに、絆創膏を貼っても治りません。とはいえ、組織内で上司ができることは絆創膏だけだったりします。そして【タイプ2】のひとは、仕事のストレスは自然治癒できる範囲で、マネージャーの手当ては不要です。マネジメントのテクニックって、どこに向けたスキルなのか、存在意義が迷子です。

仕事を【タイプ1】合意なき強制労働だと思うひとは、
「仕事だから敢えて苦手なことをする」
「できないことに従事してはじめて一人前」
という、マゾヒスティックな働き方をします。配属ガチャの抗えない運命論で人生を諦め、諦めの深さが人間の成熟度だと考えています。

ぼくの場合、内向的な人間なのに、「新卒1年目は、いちばん苦手そうなことをやってみるべき」という謎の論理で、法人に対する広告の新規顧客開拓の仕事を選び、1日に150件の飛び込み営業とか、1日300件の電話かけをして、11ヶ月で病院送りになりました。上司との面談で、よく泣いたりしてました(笑)営業の外周りがきつすぎて、1人でカラオケボックスに入って、なんでもない励まし系の歌で号泣。びっちゃびちゃ。商談のとき声がカスカスになって商品説明どころではない、なんてこともあった。
「新卒だからこそ」「仕事だからこそ」いちばん苦手なことをやろうというのは、ちょっと冷静になれば狂気の沙汰という気がしますが、【タイプ1】的な発想です。【タイプ1】の仕事論を持っているひとには、新卒1年目のぼくの奇抜で苛酷な選択は、その行動力と勇気を褒めてもらえると思います!!共感のイイネをお願いします!!(笑)

「金のために働く」
「仕事を辞めたら、食っていけない」
「ちゃんとした社会人じゃなくなる」
なども【タイプ1】のひとが真っ先にあげる働く意義。

【タイプ2】のひとも、金のために働いているし、給料が多いほうがいいし、生活費がかかるし、社会的な立場を蔑ろにしているわけではないが、【タイプ1】のひとほど着目していない。第一ではない。仕事に意義を感じられるなら【タイプ2】は給料いらないだろ、という話ではない。

ぼくの経験上、【タイプ1】仕事=悲劇派は、【タイプ2】仕事に合意派のひとが、ときに会社やお客様のために自己を度外視して動くことが、不思議でなりません。理解不能。
【タイプ2】のひとも、時間と体力は有限です。家族もいるでしょう。いつもトラブル対応ばかりでエネルギーと時間の持ち出しをすることはイヤですけど、それでも「やるときはやる」という使命感が内側から湧いてきます。このように【タイプ2】のひとが時々発揮するバカヂカラが、【タイプ1】には、まったく理解不能です。

【タイプ1】は会社や上司にムリヤリ強制され、自分の時間やエネルギーを捧げることがありますが、これは「死」に等しい虐待と感じています。だから、【タイプ2】の使命感が分からない。「会社が死ねと言ったら、死にかねないぞ、この人は」と、狂人を見るような目で震え上がります。会社に洗脳されているのか?を心配にすらなる。
家族のあいだでタイプが違ったら、対話不能です。仕事に対する使命感の「度合い」が違うのではなく、そもそも見えない壁によって仕事観が断絶しているので、対話によって「度合い」を調整しようとしても無理。

ぎゃくに【タイプ2】のひとは、なんで【タイプ1】のひとがそんなに苦しんでいるか分からない。死に向かう働き方をしているひとがいると、思いもよらないから、苦しみを検知しようがない。
基本的な合意すらなく仕事に従事している、という「次元」の存在に気づかないですよね、おそらく。
「そんなにイヤなら辞めたら?」と思うけれど(正常な判断ですよね)、それは【タイプ1】のひとにとってはパワハラか侮辱です。「こんなに我慢しているのに、この大変さを認めないなんて鬼畜だ」と落ち込むか怒るでしょう。ああ分断。

労働時間・勤務に関するルールや法律は、それがルールである以上、一律に設定され適用されるしかない。すると、【タイプ1】がそれを利用して(本来の立法者が想定していた以上に)神がかり的な創造性を発揮してサボりに活用したり、【タイプ2】の仕事のやりかたを縛ったりもします。
そして、職場は、ぐっちゃぐちゃ。

ぼくが思うに、【タイプ1】の信憑性と影響力を徐々に下げていくことが、社会が生きやすくなる方法だと思います。

最低限やってもいい、やるのも悪くない、
ぐらいの合意がある【タイプ2】状態で働けたらいいですね。
……と、ぼくは【タイプ1】の世界から抜け出せず、もはや会社で働いていられなくなった人間なので思います。

FIREについて思うこと

FIREが流行るのも、【タイプ1】の世界で生きられなくなった人の悲鳴でしょう。いびつです。
資産の多寡にかかわらず、とりあえず【タイプ1】の信念を断ち切ったらよいはずです。いきなり【タイプ3】の才能と個性を活かしまくりの、シンボリックな天職を見つけなくてもよい。最低限の合意がある【タイプ2】仕事を探せばよいはずです。

仕事で【タイプ1】の価値観しか知らないひとは、「FIREしたら、毎日がヒマで逆に鬱病になる、認知症になる」と心配していますが、それなら、【タイプ2】で最低限の合意があることで働けばよいはずです。
「FIREして暇過ぎるのでアルバイトしてみたら、意外に働くことが悪くなかった」みたいな発信をしているFIREのyoutuberがいますが、【タイプ1】から【タイプ2】に信念を移すには、数千万円や億円の資産を媒介にせずにすんだのではないか。でも移行できたのは良かったよな、えらくコスパが悪いな、機会費用が大きかったな、と思います。

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